企業出張は、旅行関連業界にとって苦境をもたらすだけの存在になろうとしている。企業が航空機のビジネスクラスやホテルのスイートルームに向けるコストは、新型コロナウイルスのパンデミック前に戻るまでには10年かかるかもしれないと、業界の首脳らは認めている。

観光旅行者向け料金を値上げするといった手っ取り早い対策を取れば、利益率は維持できるだろう。しかし、それはせっかく立ち直りかけたばかりの旅行需要自体をまた冷え込ませる恐れがある。

2008年の金融危機後、米企業の国際出張需要が安定を取り戻すまでに5年かかった。今回はもっと険しい道のりになってもおかしくない。リモートワークとバーチャル会議の普及により、企業はほんのわずかのコストだけで事業をしっかりと継続している。

各社の財務トップは、こうした経費節減効果を手放すのを嫌がるだろう。例えば、金融大手HSBCの場合、今年の出張予算を半減するとともに、上層部から従業員に短距離出張をバーチャル会議に置き換えるよう「お達し」が出ている。

これは接客業の幅広い範囲にとって、悪いニュースだ。航空会社やホテルは、より高額の座席や正規料金での取引に関し、企業の大々的な支出に依存している。マッケンジーの試算では、最大手クラスの航空会社の乗客に占める出張者の比率は約10%に過ぎないが、実に利益の55〜75%をもたらしてくれる。

航空会社に打てる手は少ない。HSBCのアナリストチームは、IAG傘下のブリティッシュ・エアウェイズなどは、プレミアエコノミークラスを広げてファーストクラスやビジネスクラスの座席を減らすことで、エコノミー利用者からより多くの収入を得る道があると考えている。

HSBCの見立てでは、IAGのプレミアエコノミーの営業利益率は35%超と、ビジネスクラスよりも高い。こうした取り組みは、独ルフトハンザやエールフランスKLMといった比較的利益率が低い航空会社にとって、改善の余地があることを意味する。

ホテル業界も現実への適応を急いでいる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、マリオット・インターナショナルとヒルトン・ワールドワイドにとって、企業出張は収入の7割を占める。

ライバルの仏アコーホテルズが打ち出したのは「ライフスタイル」部門の拡充。スコットランドの伝説的ホテル「グレンイーグルス」を所有する英エニズモアなどを傘下に収めるとともに、高級料理やその他の豪華サービスを富裕な国内旅行者に提供している。

ただ、サービス高額化は、始まってから日が浅い旅行需要の回復に水を差す。飛行機の乗客は値上げに文句を言う公算が大きい。搭乗前のコロナ検査という余計な負担を強いられる上に、生活費全般も上がっているからだ。

一方、大企業はビジネスクラスやホテルの高い部屋の料金が多少割り引かれたとしても、出張コストがゼロのバーチャル会議で間に合わせている以上、行動に変化はなさそうだ。

企業関係者が頻繁に移動する日が復活するとしても、はるか遠い将来になるだろう。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。