よりインクルーシブな経済の再構築:世界の雇用回復に向けた6つのステップ
社会的な回復がなければ、経済的な回復は不可能 Image: Standsome Worklifestyle/Unsplash
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労働力と雇用
- 経済成長は戻りつつありますが、回復の状況にはばらつきが生じると見込まれます。
- それでも、私たちはすべての人の役に立つ経済を実現し、より良い社会を構築することができます。
- 「よりインクルーシブな経済の再構築」に向けた6つのステップを紹介します。
20年以上ぶりに極度の貧困が増加しています。世界全体で不平等が急速に拡大しており、富裕国も例外ではありません。パンデミック(世界的大流行)など過去に起こった衝撃は、所得格差を悪化させただけでなく、教育、労働市場へのアクセス、健康にも長期にわたる影響を与えています。最新の予測は、経済成長は回復するとしながらも、その状況は一様ではないとしています。
この20年間で、不完全ながらも効果的な成長モデルにより、世界の中間層が急速に拡大し、貧困が大幅に減少しました。しかし現在、先進国と新興国の両方でこの傾向が逆転しています。ほとんどの世代は社会的流動性、つまり次世代が親の世代よりも良い暮らしが送れる可能性を確信してきましたが、過去5年間のテクノロジーの変化にパンデミックによる景気後退が重なったことで、中間層が縮小しています。
別の言い方をすれば、世界の多くの地域では現状を維持することが難しく、大きな社会不安を引き起こしており、今後もそれは続くでしょう。さらに、社会的な回復がなければ経済的な回復はあり得ません。ロックダウンの緩和により消費者の購買意欲がある程度高まることは考えられますが、長期的な成長の見通しは、広範囲にわたる繁栄と企業活動のダイナミックな回復の間で好循環を作り出すことに結び付いています。同様に、労働者への支援計画を考えずに社会の状況を変えることは、単に不平等を悪化させるだけになるでしょう。
幸いなことに、経済改革を起こすための技術や資本は既にあることから、ここで必要となるのは、政策立案者とビジネスリーダーが長期的なビジョンを持って積極的な取り組みを行うことです。多くの改革が進められている今、すべての人に機会を与える経済を構築していくことは不可能ではありません。
「よりインクルーシブな経済の再構築」に向けて、6つのステップをご紹介します。
1.「未来の市場」への成長を促す
世界の経済に財政刺激策が導入されていますが、社会的セーフティーネットの再形成、グリーン・リカバリー(緑の回復)の支援、労働基準の改善など、長期的な変革に向けた良いスタートとなっています。しかし、これらの施策の規模と範囲は国によって大きく異なり、先進国では平均してGDPの約24%を財政措置に投入しているのに対し、新興国ではわずか6%、低所得国では2%にとどまっています。
また、潜在的な財政のひっ迫と回復の不確実性により、これらの国々は債務超過の悪化と債務返済コストの増加リスクにさらされています。真に持続可能でインクルーシブな復興のためには、財政刺激策を「未来の市場」に向けなければなりません。つまり、既存のアイデアや技術を、大規模な繁栄や環境的・社会的リターンに転換する市場です。世界経済フォーラムでは、大規模な雇用を創出するスキルアップや介護の市場を含め、20を超えるこのような新市場を特定しています。
2. 大規模なリスキリングとアップスキリングの機会を提供する
第四次産業革命、パンデミックによる景気後退、グリーントランジション(環境配慮や持続可能性のある社会への移行)が、労働市場に三重のディスラプション(創造的破壊)をもたらしている中、雇用機会を拡大し、現在進行中の労働市場の二極化を改善してよりインクルーシブな経済の再構築を果たすためには、リスキリング(新たな学び・研修)とアップスキリング(技能向上)が中心的な取り組みとなります。
世界経済フォーラムの「リスキリング革命」イニシアティブは、各国政府や世界中の企業と連携して、2030年までに10億人の人々へより良い教育、スキル、仕事を提供することを目指しています。世界的なラーニングネットワークを通じてつながった各国の官民連携プラットホームであるクロージング・ザ・スキルズ・ギャップ・アクセラレーターズは、この1年間で5,000万を超える人々のリスキリングをサポートし、衰退しつつある分野や職務から離れて成長している産業や仕事に就くことを支援しました。この取り組みの中で、3分の2にあたる企業が1年以内に投資効果を得ており、従業員を解雇して再雇用するよりもリスキリングに投資する方が得策であることに気づきました。
同時に、この世界最大のオンライントレーニングプラットホームと、企業のチーフ・HR・オフィサー(最高人事責任者)やチーフ・ラーニング・オフィサー(最高教育責任者)が連携し、グローバルスキル分類法を開発しました。スキルに関するこの共通言語は、未来の労働市場においてスキルを主要通貨にする上で不可欠であり、労働者、雇用主、トレーナーがスキルに関して同じ言語を使うようにするために広く採用されることが求められます。
3.「未来の仕事」への移行を加速する
スキルアップだけでは十分とは言えません。「未来の仕事」への積極的かつ構造的な移行が必要です。未来の仕事への移行は、大量の雇用を生み出す機会を増やし、社会に幅広い恩恵をもたらし、賃金を上昇させ、テクノロジーと人間の特性を労働力に統合することを可能にします。
政府に求められるのは、未来の仕事を生み出すセクターへ幅広く投資すること、雇用を支えるために財政金融政策を調整すること、そして、今後数年間に予想される成長ブームが少数の企業の利益にとどまらず、すべての人に機会をもたらすように中小企業向けの融資を確実に拡大することです。一方、企業にとっては、広いネットワークやバリューチェーンの中で労働者を再配置する良い機会となり、産業内あるいは産業を超えた労働者の移動を支援することにつながります。人材が確実に未来の仕事に移行できるようにするためには、こうした移動が不可欠です。
4. ケアエコノミーの構築
道路、橋、空港、電力、水道などの物利的なインフラは、成長を促すための公共政策として長年にわたり重視されてきました。最近の試算では、インフラへの公共投資をGDPの1%ポイント増やすと、世界全体で2,000〜3,300万人の雇用を創出できるとされています。現在多くの先進国では、雇用創出の可能性がある環境に配慮した新たな分野のインフラ整備に焦点が当てられていますが、3つ目の要素として社会的インフラがあります。
ケアエコノミーとケアインフラは、幼児教育や保育から高齢者介護に至るまで、社会に次の3つのメリットをもたらします。子供の生涯の見通しや高齢者の生活の質の向上、働く親や介護者の雇用見通しの改善、ケア分野での質の高い新規雇用の創出などです。確かな基準と認定が組み合わされると効果は一層大きくなります。そして、ケアインフラへの投資は社会と経済の両方にとって有益です。
5. 経済回復の中核となる教育改革
2018年、世界中で2億5,000万を超える子供たちがどこの学校にも通うことができませんでした。非常に多くの子供たちが、未来の仕事に備えるための適切なカリキュラムを受けられていません。生涯学習を続けるための好奇心や創造力を育むためのサポートも行き届いておらず、共同作業やつながりのある世界に備えるための対人スキルや、グローバル市民としてのスキルを身につけられないでいます。
私たちは、教育に対する新たなアプローチを必要としています。特に、幼稚園から高校までの教育に向けた対策が重要ですが、同様に技術・職業訓練、大学教育への対策も必要です。5年、10年、20年後、今の若者が労働市場に出た時に、活躍するために必要なスキルを持っていないことに気づくようでは遅すぎます。イノベーションと創造性、対人スキルと個人内スキル、デジタルスキルは「Education 4.0」スキルと呼ばれ、これらを強化することは、よりインクルーシブな社会の再構築を実現させるための経済回復や、政府や企業が主導する投資に不可欠です。
6. 公平性を新たな経済に根付かせる
上記に紹介した5つの分野に加えて、新しい市場の構築、リスキリングやアップスキリングの方法、教育システムの改革、ケアエコノミーの構築に、公平性、多様性、インクルージョンを組み込んでいくことが重要です。このような積極的なアプローチがなければ、人種、ジェンダー、経済状況、その他の違いによる二極化がさらに進むリスクがあり、政策立案者は公平性を組み込んだ経済改革を実施することが急務となります。
企業もまた、従業員、ビジネスコミュニティー、製品やサービス、広告やマーケティングを通して、この分野で重要な役割を担っています。近年、企業が環境課題に投資する方法に根本的に変化が起きています。労働者や消費者が企業に対して、社会的に「ネットゼロ」に相当する取り組みを示すよう期待していることが明らかになるにつれて、社会的課題においても同様の動きが始まっています。不平等と社会不安の高まりに加えて、ESGのS(社会)への投資に新たな機会があることが認識されたことで、この1年間のソーシャルボンドへの投資金額は3倍に増加しました。社会全体に及ぶこのような新たな課題は、よりインクルーシブな経済の再構築を現実のものとするために取り組むべき根本的な課題です。
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