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ホームオフィス、会社、ハイブリッド、あるいはノマドスタイル?各企業の今後のプラン

The office: work hub or second home?

オフィス:ワークハブ、それとも第二の自宅? Image: Photo by Josh Duke on Unsplash

Gayle Markovitz
Head, Written and Audio Content, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。ジョブ・リセット・サミット
  • ワクチン接種プログラムが本格化し、企業では、今後の従業員の働き方を再定義する動きが見られます。
  • テレワークの経験は、自宅の広さ、育児の負担、仕事の性質、個人の気質など、それぞれの状況によって異なります。
  • オフィスの再考と新しいハイブリッドワークモデルは、社会的格差を解消し、すべての人にとって包摂的な復興をもたらすきっかけになるかもしれません。

未来のオフィスのあり方について、世界中で議論が巻き起こっています。パンデミック(世界的大流行)により、世界に12億5,000万人いる「ナレッジワーカー(知識労働者)」の働き方が一変しました。この1年半の間、自宅のパソコン画面の前で仕事をこなしてきた人たちです。

ワクチン接種プログラムが本格化し、一部の国では経済活動が再開される中、企業では、今後の従業員の働き方を再考する動きが見られます。

2020年、全世界の雇用市場は、2億5,500万人分のフルタイムの雇用、推定3.7兆ドルの賃金、世界のGDPの4.4%を失ったと言われています。これまで、テレワークは一部の高額所得者のみに許されるものでしたが、オフィスから人がいなくなったことで、都市の中心部は閑散とし、都市経済に大きな影響を与えています

カフェ、クリーニング店、軽食店など、オフィスで働く人を対象としたビジネスも停滞しています。通勤が減り自宅で仕事する人が増えたことで、都市のモビリティの未来に大きな疑問が生じています。都心部の住宅や商業施設の賃料は下がり、ホームオフィス機器の売上は急増、その一方で人々がかける交通費は減るなど、消費パターンが大きく変化しています。

デジタル化:予想されていた変革

1970年代初頭に「テレコミューティング(在宅勤務)」という言葉が生まれたときから、その兆しはありました。デジタル化は、働き方の新時代を約束していたものの、文化的な改革は立ち遅れていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、状況が一変したのです。

今や、「9時から5時まで」の勤務モデルは衰退の一途をたどっています。在宅勤務は24時間を自由に使える(見方によっては拘束でもある)ということで、上司は労働時間の長さや就業していること自体ではなく、生産性や結果で従業員を評価せざるを得ない状況です。

マッキンゼーが実施した「ハイブリッドワークの未来に対する最高責任者の洞察」調査によると、テレワークを導入した組織の67%で、生産性、顧客満足度、従業員のエンゲージメント、ダイバーシティとインクルージョンが向上したことが分かりました。

並行して進んでいる「ギグ・エコノミー」は、一時的な停滞は見られたものの、依然として好調です。時間や場所に縛られず、こなした仕事に対して報酬が支払われるという傾向が強まっています。

Image: McKinsey & Company

社会的な波

セールスフォース社のギャビン・パターソン氏は、オフィス文化の改革が社会的な波を起こすだろうと示唆しています。「これは単に働き方の未来という話ではなく、企業文化と社会が次に目指す進化を意味しています。ビジネスは、ポジティブな変化と成長のためのレジリエント(強靭)なプラットホームの構築を後押ししています」

社会の波はすでに動きつつあります。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)が最近実施した調査によると、テレワークの開始から一年が経過し、従業員の間に「ノマド的傾向」が見られ、22%が拠点となるオフィスの所在地から80km以上離れた場所への転居を検討、あるいは計画していることが明らかになりました。

アデコグループの調査では、従業員4人のうち3人が柔軟な働き方を望んでおり、それを叶えるためには転職も厭わないということも明らかになっています。米国で行われた調査によると、26%の労働者が数か月以内に転職を考えており、理由の一つに「柔軟な働き方」を挙げています。

Remote working expectations from office workers
リモートワークへの期待度 Image: Adecco Group

勝者と敗者

交通費の節減、ワークライフバランスの向上、自律的な働き方など、多くの人がテレワークで成果を上げています。管理職にはスタッフを信頼することが求められています。Zoom会議により、対面で参加できない人の障壁が取り除かれ、全員に公平な条件が整備されました。パンデミック以前は、障がいを持つ従業員からテレワークの導入を希望する声が強く上がっていながらも、受け入れられないケースが多く見られましたが、今ではオンラインワークでよりインクルーシブな体験が可能になりました。

そして、当然そこには敗者もいます。テレワークの経験は、自宅の広さ、育児の負担、仕事の性質、個人の気質など、それぞれの状況によって大きく差が出てきます。

女性の場合は、育児との両立という負担が大きくのしかかりました。ホームスクリーング(在宅教育)や保育の選択肢は限られており、子どもを持つ従業員にとって、テレワークは悪夢のようなシナリオでした。また、若年層や家族のいない従業員にとって、テレワークは孤独感を生み、うつ病や燃え尽き症候群の原因にもなっています

ハイブリッドな働き方は、実際にどのような形になるのでしょうか?

融通の効かない画一的な解決策は、結局誰にも合わないという結果になりがちです。むしろ、オフィスが「第2の自宅ではなくハブ」になる「ハイブリッド」モデルが最も望ましい形だと言えそうです。ハイブリッドな働き方への移行を支持する幅広いコンセンサスとデータがあるにも関わらず、その方法については未だに漠然としています。

モバイルワークが浸透した場合、企業は安価な労働力を利用できるようになり、従業員は現地の生活水準や物価に合わせて減給を受け入れざるを得ないなどの問題があります。それに加え、完全オフィス勤務を前提とした現在の税制は、新しいハイブリッドな働き方にどのような影響を及ぼすのでしょうか?米国を例に挙げると、取締役やパートナー企業が州をまたいで仕事をしている場合、コンプライアンスの問題や企業の税負担の問題が発生します。

国連ウィメン事務局長のプムズィレ・ムランボ=ヌクカ氏は、家事の負担が理由で女性の方がテレワークを選択するケースが多く、「オフィスは男性が行く場所という認識になるのでは」と危機感を示しています。

また、上級管理職がオフィス勤務を再開する兆しは見え始めているものの、従業員はそれに追随していないため、ダイバーシティの可能性がさらに損なわれています。

変化を促す

各界のリーダーたちは、どのように移行を促しているのでしょうか?成功には、さまざまな形があるようです。現在のビジネスリーダーシップは、確実性や透明性に欠け、従業員の士気を低下させるだけでなく、ポストコロナのナレッジワーカーモデルを緊急に定義する必要性を露呈させています。

Looking to the post-COVID future, how do you expect the world of work to be?
ポストコロナの未来における、仕事の世界への期待 Image: Adecco Group

ここでは、世界経済フォーラムのビジネスパートナーの事例やツールを紹介し、未来のオフィス像や、過去のモデルを改良して再生する方法についてご紹介します。

アクセシビリティ

マイクロソフトでは、アクセシビリティに配慮した職場づくりへの取り組みを開始しました。「ビデオや会議の字幕表示から、面接プロセスでのアクセシビリティの配慮まで、利用しやすいデジタル体験のための技術的なヒント」を提供しています。

スキル、人材、ロボットの再考

アクセンチュアは、新たな仕事の世界に関するマニフェストを作成し、様々な問題を提起しています。「時代遅れになるスキルは何か?これまで以上に重視されるスキルは何か?人間と機械のコラボレーションはどうあるべきか?どのように指導し、どのように学ぶのか?今でもオフィスという場所は必要なのか?あるいはホームオフィスで十分なのか?仕事のスペースはどのような機能を持つようになるのか?また、次世代の人材は、一つの企業で長期的に働くことを望むのか?」

職場での心の健康(メンタルヘルス)

ウェルカム・トラスト社は、メンタルヘルスを職場の課題として取り上げ、企業と研究者が協力して、科学的なアプローチで職場でのメンタルヘルスをサポートする必要があると訴えています。「メンタルヘルスは、企業にとって避けられない重要な課題になっています。新型コロナウイルスの感染拡大以前から、不安やうつは生産性を低下させ、世界経済に毎年1兆ドル以上の損失を与えていると推定されていたからです。2020年、自粛によりオフィス離れが進んだことで課題が一層浮き彫りになり、未来の働き方について大きな疑問を投げかけているのです。」と、ウェルカム・トラスト社のメンタルヘルス担当ディレクター、ミランダ・ウォルパート氏は語ります。

ダイバーシティとインクルージョン

ハイドリック&ストラグルズ社は、テクノロジーに関する意思決定の中心にインクルージョンを据えることが、スタッフを共通の目的意識のもとに集結させ、帰属意識を育むのにどのように役立つかという分析を行いました。「多くの組織が、この1年間に身に付けた柔軟性とインクルージョンを損なわず、ハイブリッドな働き方に潜む落とし穴を回避するには、リーダーはデジタルツールの活用方法と組織内でのテクノロジーの導入方法を慎重に計画する必要があります」と強調しています。

イノベーション

グーグルセールスフォースなどのテクノロジー企業は、イノベーションのモデルになり得るでしょう。「企業が、アジャイルなチーム、そしてアジャイルな働き方とは何かを再考する中で、未来の従業員体験は柔軟な勤務体制により力強いものになり、また職場の再構築によりもっと夢中になれるものになるはずです。」と、セールスフォース社の社長兼CEO、ギャビン・パターソン氏は語ります。

また、グーグルのサンダー・ピチャイ氏は次のように語っています。「こうした変化によって、ベストな状態で楽しみながら仕事ができるようになるのではと考えています。グーグルの社員の約60%は週に数日オフィスに出勤し、20%が新しいオフィスで仕事、20%が自宅で働くという体制を取っています」

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慎重な変革

銀行の場合は、プライバシーや国境を越えたサービスの提供に対する規制が強化され、対応が慎重な傾向があります。JPモルガンでは、7月から交代制のオフィス勤務を再開し、出勤率を最大50%とする詳細なスケジュールを発表しています。また、ゴールドマン・サックスのCEO、デービッド・ソロモン氏は、「革新的かつ協力的な実地体験を重視する当社のようなビジネスにとって、テレワークというシステムは理想的とは言えません。これがニューノーマルとは考えていません」と、述べています。一方、KPMGは、これは半永久的な変化であり、銀行にとっての「新たな現実」になると主張しています。

データ

正しい対応

テレワーク革命から得られた大きな教訓は、進化は必ずしも直線的ではなく、公平でもないということです。オフィスを拡大する必要はなくなり、都心の過密状態は解消され、無限に広がっていた交通インフラ計画は見直す必要があるかもしれません。このような最近の動向における大切な一本の筋があるとすれば、ハイブリッドな働き方革命は社会的格差を解消し、すべての人にとって包摂的な復興をもたらす可能性があるということ。対応を間違えず、正しく行動すれば。

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