Davos Agenda

トラストが揺らぐデジタル時代 -「トラストアンカー(Trust Anchors)」の役割

Image: Photo by Markus Spiske on Unsplash

Chizuru Suga
Director for Digital Economy, Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan
Teruka Sumiya
Project Specialist, Agile Governance, World Economic Forum, C4IR Japan
Jonathan Soble
Editorial and Communication Lead, World Economic Forum, C4IR Japan
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  • デジタル時代において社会が機能し続けるためには、トラスト(信頼)が欠かせません
  • 社会経済の急速な変化、政治的分断、そして、ディスラプティブ(創造破壊的)なテクノロジーによりトラストが揺らいでいます
  • 社会のレジリエンスを維持するため、必要なトラストを再構築するには、新たな連携とアプローチが鍵となります

機能的な社会は、信頼の上に成り立っています。蛇口から水を飲む、エレベーターに乗る、あるいは電子メールを送信する。いずれも、どこかで誰かがその行為の安全性を確認するために必要な措置をとっていると信頼しているからこそできるのです。

しかし今日、トラストという共有基盤はかつてない緊張状態にさらされています。社会や経済の急速な変化、深まる政治的分断、新しい技術の創造破壊的なインパクトが、従来の信頼構築システムの限界を押し広げており、政府、ビジネス、市民社会は取り残されないよう苦闘しています。

変化の激しいデジタル時代において、信頼できる相手を見極めることがますます難しくなっています。取引している人や企業は実在するか、それともオンライン上の見せかけなのか。視聴している動画は本物か、それともディープフェイクか。個人がデータを共有すると、それはどこに行くのか。すべてをファクトチェックする方法はなく、不安が残ります。信頼できるものの対象が直接見たり触れたりしたもの、あるいは面識のある相手だけとなれば、社会は機能しません。システムが緊張状態に置かれ、もはや信頼することも信頼を築くことも、当たり前のことだと思えなくなってしまいます。

トラストとその役割を理解する

ガバナンスと信頼について「社会をスムーズに機能させる」という文脈で語るとき、私たちは人間の基本的交流に欠かせない善意と安全がその前提にあると考えます。商取引や何らかの問題を解決するための協力などが例として挙げられるでしょう。知っている相手を信頼するとき、その信頼は個人的なものです。しかし、実社会では、ほとんどの人が他人であるため、第三者が仲介します。仲介役となることが多いのは、政府や信頼性あるブランドを持つ企業などです。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのアジャイルガバナンスチームでは、トラストがなぜ揺らいでいるのか、社会にとってトラストとはなにか、トラストを回復するために何ができるかを検討し、トラストとガバナンス の関係性を整理しました。これを共通認識として社会で共有し、協働するために、信頼とガバナンスをテーマにした白書「Rebuilding Trust and Governance :Towards Date Free Flow with Trust(DFFT)」を発刊しました。

この白書では、社会で信頼を生み出す関係とプロセスに着目しています。そこで明らかになったことは、いわば鶏が先か卵が先かという問題です。当局は人々から信頼されていなければ効果的に機能せず、効果的かつ信頼に値すると実証されていなければ人々は当局を信頼しません。ひとつひとつのつながりによって、「信頼の連鎖構造(Trust Chain)」全体がつくられなければならないのです。

このタスクは、技術革新のスピードがかつてないほどに加速しているため、より難しくなっています。例えば、自動運転が信頼できると見なされるためには、安全に関する追跡記録が事前に必要ですが、目覚ましい技術進歩のスピードにより、すでに自動運転車は路上を走行しているのが現実です。

「トラストアンカー」とその意義
私たちの研究調査を通して到達した結論のひとつは、社会が進歩や革新を続けるために必要なトラストの構築を後押しする「トラストアンカー」が必要だということ。トラストアンカーは、広く認知された機関として、認証によって信頼を担保します。

現代のトラストアンカーは、政府だけでは請け負いきれません。国家や国家機関は、良くも悪くもかつてのように自動的に尊敬を集めることはなくなりました。だからこそ、企業や市民社会も、トラストアンカーになりうる能力を向上させる必要があるのです。デジタル時代に信頼とガバナンスを機能させるためには、広範に渡る人々や団体がそのプロセスに加わる必要があります。

本白書は、第四次産業革命の時代に信頼と有効性を兼ね備えたガバナンスモデルを構築するための指針となる、新たな「トラスト・ガバナンス・フレームワーク(Trust Governance Framework)」を提案しています。このフレームワークは、信頼構築プロセスをいくつかのコンポーネントに分割し、この自己強化プロセスの循環の中に目的、主体、行為の関係をマッピングしています。そして、トラスト(良い、信頼できると感じる主観的感覚)とトラストワージネス(エビデンスと追跡記録によって支持される、信頼に値するという客観性)区別し、この二つがどのように相互作用するかを提示しています。

トラスト・ガバナンス・フレームワークは、公的機関や民間セクターのリーダーが、第四次産業革命時代のガバナンスシステムを更新を求める際に指針となるものです。

稼働しているトラストアンカー

国際的なイニシアティブの中で、包摂的なアプローチを取っているのが「コモンパス(CommonPass)」という、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて開発されたトラベル・ヘルスアプリです。このプロジェクトを主導しているのは、非営利団体であるコモンズ・プロジェクト(Commons Project)財団で、さまざまな政府や企業の支援を受けています。その活動の中心にはトラストがあり、医療パスポートのように広く受け入れられる健康証明書になることを目指した設計です。パスポートと異なるのは、発行元の政府や国際機関が認めていることにより信頼が生じるわけではない、ということです。コモンパスの信頼は、開かれた多様なイニシアティブの産物なのです。

コモンパスのような取り組みが成功すれば、社会に信頼の輪を広げる新しいトラストアンカーを作ることができます。

変化は一晩にして起こるものではありません。各国政府は新しいガバナンスの余地をつくるために、より柔軟かつアジャイルになる必要があります。民間セクターも新たな責任を引き受けることにより、調整を行う必要があるでしょう。信頼は社会をひとつにまとめる「接着剤」であると同時に、多くのパーツをスムーズに動かす「潤滑油」でもあります。デジタル時代にふさわしい形でトラストが構築されなければ、このデジタル時代は機能しないでしょう。

トラストの範囲とパワーを最大化する新しい方法を見つけること。これがトラストおよびガバナンスに関わるプロジェクトの核心です。この取り組みは、水平的かつセクター横断的でなければなりません。トラストに関するすべての保証を政府だけが請け負うことはもはや不可能であることを、新型コロナウイルスの感染拡大による危機が明らかにしました。私たちに今必要なものは、マルチステークホルダーによるインクルーシブなトラスト再構築のアプローチです。

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