新疆綿とウイグル強制労働、使用する西側企業の責任は
「衣料品メーカーは、公正な労働で生み出された製品を使用している」。そんな消費者の信頼をつなぐ一筋の糸が、まさに切れようとしている。なぜならその糸は、中国製の綿糸だからだ。 Image: 2020年 ロイター/Dominique Patton
「衣料品メーカーは、公正な労働で生み出された製品を使用している」――。そんな消費者の信頼をつなぐ一筋の糸が、まさに切れようとしている。なぜならその糸は、中国製の綿糸だからだ。
中国綿の8割以上は、イスラム系少数民族のウイグル民族が暮らす新疆ウイグル自治区で生産されている「新疆綿」だ。中国政府は、ウイグル民族を強制労働に駆り立てているとの人権団体の主張を否定するが、手をこまねいていればファッションブランドは、やがて窮地に陥る恐れがある。
今のところ、この問題に対する姿勢はブランドによって差がある。ドイツのスポーツ用品メーカー、プーマPUMG.DEは、自社への全てのサプライヤーに「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」が認定した綿だけを使用するよう要請していると説明した。BCIは持続可能な綿生産を目指して活動する非政府組織(NGO)で、今年になって新疆綿の認定を取りやめている。
対照的にティーンに人気のアパレル大手の米アバクロンビー・アンド・フィッチANF.Nの計画では、同社の綿調達におけるBCI認定品の比率は2025年までで25%にとどまる。
Breakingviewsがアパレル小売りなど主要10社に取材したところでは、使用する綿の原産地を開示したのは「Muji」ブランドを展開する良品計画7453.Tと、プーマだけだった。良品計画は、新疆綿を調達していることを認めた。ドイツのスポーツ用品メーカーのアディダスADSGn.DEは、自社サプライヤーは新疆以外で綿を仕入れていると答えたものの、本当かどうかははっきりしない。
そして、サプライヤーに労働基準を守らせようとする衣料品メーカーがこれまで学んできたように、大事なのは抜き打ち検査を含めた原産地の証明なのだ。
綿の調達を巡る論争が起きたのは、新疆が初めてではない。06年以降は、ウズベキスタン製の綿をボイコットする動きが企業の間で広がっている。同国が児童労働を強制していたからだ。この取り組みはかなり効果を発揮した。ただし、ウズベク製の綿は世界供給量の3%に過ぎない。
一方、新疆綿は世界の2割強に達する。大口需要者にとって、新疆綿の使用を避けるのは簡単ではないだろう。しかし、やってやれないことはない。必ずしもコストが高過ぎるわけでもない。
例えば、強制労働や15歳未満の子供の労働を排除し、地域や生産プロジェクトなどの発展に貢献することを目的とする、いわゆるフェアトレード(公正取引)の枠組みに適合していることを証明するには、小売店にかかる追加費用は綿製Tシャツ1枚につき5〜10%程度だ。
それでさえも、最終的には「安上がり」ということになるかもしれない。中国は新疆に「職業訓練施設」があると認めているが、亡命ウイグル民族の代表組織である世界ウイグル会議(WUC)や人権団体は、こうした収容施設で綿花栽培を含めて強制労働が行われていると批判。そうした訴えが、西側のメディアや政府からの厳しい目につながっている。英米両国は、新疆における中国の人権侵害を非難し続けているところだ。
各NGOは明るみになった実態を踏まえ、消費者に関連製品のボイコットを呼び掛け、ここに環境・社会・企業統治(ESG)を重視する投資家の圧力が加わってもおかしくない。
今後に警告を発していると思われるのは、複数のアパレルブランドをオンラインで展開していた英ブーフーBOOH.Lの事例だ。英国で従業員を法定最低賃金未満で働かせていたと報道された6月30日以降、同社の時価総額は25%強も目減りした。
先が読める経営者なら、メディアが大騒ぎして政府が規制を導入するよりも早く、手を打ちたいと思うだろう。より公正に生産された綿を入手することは現時点では面倒かもしれない。だが、この問題に正面から向き合わなければ、結局はかえって企業としての経済合理性が損なわれかねない。
〈背景となるニュース〉
中国は世界最大の綿生産国で、世界の主要衣料ブランドに供給している。国連食糧農業機関(FAO)の2018年のデータによると、世界全体の生産量の25%を占めた。中国綿の8割強は、ウイグル民族1100万人が住む新疆ウイグル自治区で生産されている。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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