日米ともに株価下落に直面している。単なる調整との声が上がるものの、市場は個人消費の先行きに隠されているリスクに対して敏感に反応したと指摘したい。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本では4−6月に支払われた企業従業員の給与が前年比8%を超す減少となっている。今の感染状況を見るとさらにマイナスが拡大するリスクもあり、消費の先行きに赤信号が点灯している。

株高に覆い隠され、世の中の危機感はかつての「オイルショック」ほどではないが、このまま消費が停滞し続ければ、日本経済は戦後最悪の景気後退に落ち込みかねない。

これを回避するために、筆者は消費税の大幅な引き下げが必要と考える。折しも次の首相を決めることになる自民党の総裁選が始まった。これまでのところ、3人の候補者はいずれも減免に消極的な姿勢を示しているが、選挙期間中の争点になることは間違いないだろう。

8%減少した従業員給与

今年1日に発表された今年4−6月期の法人企業統計には、ほとんどのメディアが注目しなかった項目がある。人件費の動向だ。全産業(金融・保険を除く)の人件費は41兆1464億円と、前年同期比7.3%減まで落ち込んだ。このうち従業員給与は同マイナス8.3%の27兆1960億円、従業員賞与も同マイナス6.3%の5兆1105億円となった。

コロナ渦で経営者の防御心理が高まり、比較的調整しやすい非正規社員の雇用が打ち切られ、テレワークの増加で時間外手当が大幅に減少した。それが人件費の削減につながったのだろう。1年前に当たる19年4−6月期の従業員給与が前年比横ばいだったことを考えると、経営者のうろたえぶりが見えてくる。

この先、コロナ感染の拡大防止策として「社会的距離」の保持が長く継続されることになれば、経済活動が受ける制約も長期化することが予想される。企業が人件費を抑制しようとする姿勢は長く維持され、削減幅はこの先1年、前年比で大幅なマイナスが継続すると筆者は予想する。

そうなると、心配になるのは国内総生産(GDP)の半分以上を占める個人消費への影響だ。6月の家計調査では、全世帯の消費支出は前年比マイナス1.2%だった。ロイターがまとめた市場予測値は同マイナス7.5%だったので、予想よりかなり上振れたことになる。

その要因は、政府が実施した10万円の定額給付金の存在だ。家電製品の販売が好調で、そちらの消費に使われたとみられている。この給付金の効果も、9月以降ははく落するだろう。一方、給与の減少は続く。消費が伸びる要素は、どこを見渡しても見つけ出すことができない。

ジェーシービー(JCB)とナウキャストがクレジットカードのデータから消費動向を把握するために作成した「JCB消費NOW」によると、今年1月後半を基準にした財とサービスを合わせた総合指数は、最新データの8月前半分を見ても、7月校半に比べて小幅ながら悪化。マイナス10%前半で足並みが続いている。

消費税減税はタブーなのか

給付金による押上げ効果は一巡した可能性があり、ここからは「緩慢な」回復ペースを覚悟する必要があると筆者は考える。特に人との接触がビジネスの根幹になっている多くのサービス業では、収容人員の上限規制の長期化が現実味を帯びており、経営難に直面する企業が年明けにかけて増加する事態も想定される。

政府が現状を放置した場合、「消費不振・売上減少・人件費カット」の縮小スパイラルが現実味を増すシナリオが浮上してしまう。

コロナ危機が長期化することを覚悟して、抜本的な消費てこ入れ策を検討しなければならない。定額給付金の再支給という選択肢もあるが、今回の10万円の支給でも各自治体ごとに支給の時期がばらつき、だらだらと支急手続きが長期化することになった。また、貯蓄に回るという懸念は依然として払しょくされておらず、デメリットの存在が相対的に大きい。

そこで、消費税率を時限的に引き下げて消費を喚起し、その間に官民挙げて生産性の向上につながる変革を押し進めるという「グランドデザイン」が必要になると考える。

消費税は高齢化社会に対応するための財源であり、引き下げはできないとの指摘がある。もっともな意見であるが、このまま大規模な景気後退に突入すれば、消費税率を据え置いても税収が落ち込み、日本経済の「背骨」が折れるという懸念も一方である。

消費税率引き下げの是非を今、本格的に議論しなければ、時間を空費してやがて有効な選択肢を見い出せなくなる「八方ふさがり」の事態に直面しかねない。

筆者は、5年間の期間限定で消費税率を5%に引き下げ、低所得者の消費を刺激し、すそ野を広げることが、回り道のようでいて景気回復への早道であると指摘したい。

これから正式に始まる自民党総裁選で、どの候補者も消費税率の問題を争点にしないなら、消費の先行きに懸念はないのかと3人に問いただしたい。

戦後最大の経済危機に陥らないためには、何が必要か。この機会に「実のある」論戦を望みたい。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。