新型コロナウイルスの感染拡大:働く目的、働き方、働く場所を再考すべき時
アクセンチュアの調査によると、従業員の半数以上が、在宅勤務では共同作業がよりはかどり、生産性が高いと感じている。 Image: REUTERS/Caitlin Ochs
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持続可能な開発目標8: 働きがいある雇用と経済成長
- 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、消費財産業の企業と従業員に重大な影響が及んでいます。
- 消費財産業を始めとする各業界のリーダーは、パンデミック後の世界において、仕事の目的だけでなく、働き方、働く場所を再考しなければなりません。
- テレワークが歓迎され、勤務の分散化が広がる中で重要なことは、従業員をいかに効率的に管理し、活用するか考察することです。
新型コロナウイルス感染拡大により、消費財産業は大きな打撃を受けました。消費財産業の労働者数は世界中の労働者の20%を占め、小売業は、民間部門における世界最大の雇用主となっています。パンデミックの影響で業績が低迷し、倒産にまで至る企業が増える中、従業員の働く場所と働き方を見直すことを余儀なくされています。パンデミックは、古くから続く働き方の慣行を変えるきっかけになったのです。
災厄と必要性にせまられて生じたこの働き方の変化は、ビジネスリーダーが従来の雇用戦略を考え直すきっかけとなりました。消費財産業は、インクルーシブで多様性に富み、レジリエントで持続的な新しい雇用モデル、そして、それに見合う労働力を確保することで、パンデミックから立ち上がることができ、そうするべきなのです。
世界経済フォーラムの消費財産業アクショングループ(IAG)は、この機会をどのように最大限活用すべきか検討を重ねてきました。IAGのCEOによる一連の議論では、雇用という概念を具体的に表す、3つの観点を挙げています。
1)働くことの基本的な目的、 2)働く場所、3)求人や人材育成などを含めた働き方
この広い観点を通じて、これからの慣習にとらわれない方向を具体的に示し始めました。
1.働くことの基本的な目的
責任ある企業であることは、成長や収益とは別物と見なすべきではないと提唱します。従業員の価値に関する新しい提案は、好循環を生み出せなければなりません。その好循環の中では、働く目的により構造的、体系的に従業員の育成が進められ、インクルージョンを可能にし、十分なサービスを受けていないコミュニティの経済発展が促されます。
アクセンチュアが実施した、新型コロナウイルス感染拡大に関わる世界的な消費者調査によると、パンデミックの結果、消費者の三分の二は、企業が高い倫理基準を守り、従業員、顧客、社会、環境に対する責任を持つことを期待しています。一方で、3万人の若者に対して最近実施されたグローバル・シェイパーズの調査では、若者の40%が就業先企業を決定する大きな要因として、給料の次に、雇用者の目的意識や社会への影響力を挙げていることが明らかになりました。
企業理念や慈善寄付だけでは不十分と見なされているようです。労働者は、「私の雇用主は社会に代わって倫理的決定を下している」と言いたいのです。
2.働く場所
企業が目的を達成するためには、生産性を犠牲にせずに、柔軟性を高めてインクルーシブな労働力を構築する必要があります。企業には、対面での仕事と分散型の仕事を組み合わせて、あらゆる労働の形を支援する混合型の戦略が必要です。
そのためには、対面で行う仕事が本当にその必要があるのか、疑いを持つことが不可欠です。新型コロナウイルスの感染拡大は、長年に及ぶ常識を覆しました。感染拡大の最中、在宅勤務が可能になった多くの従業員が高い満足度を示しています。アクセンチュアの調査によると、従業員の半数以上が、在宅勤務では共同作業がよりはかどり、生産性が高いと感じていることが分かりました。また、従業員の三分の一が、今後も週に1日以上自宅で仕事をすることを計画しています。
このような考え方は、オフィスワーカーに限ったことではありません。消費財業界のリーダーたちは、分散型の製造業モデルについて活発に対話を重ねています。分散型の製造業モデルでは、労働者ひとり一人が複数の勤務地に分散し、遠隔監視や遠隔監督によって円滑に仕事を進めています。このような対話は、対面での業務が不可欠な小売業やその他の業務環境にいたるまで、可能な限り広範囲に広げていく必要があります。
見方を広げると、このような柔軟な取り組みが、パンデミック以前の「タレントハブ(優れた人材が集中する場)」の外側に経済成長を生み出す可能性があります。従業員がどこにでも拠点を置くことができれば、勤務地に従業員を移動させる必要がなく、経済的に恵まれていない都市、小規模な都市、村落部に雇用をもたらすことで、企業はこのような地域を支援することができます。的確に実践されれば、不平等に対処するさまざまな機会を提供することができるでしょう。
最後に、柔軟な働き方は、インクルージョンの障壁への対応ともなります。ガーディアン・ライフ・インシュアランス社によると、柔軟な働き方は、障害のある人たちの就業機会を大きく広げる重要な要素です。アルティメット・ソフトウェア社の調査では、2019年に昇進した女性の割合は、テレワークをした女性で57%、従来型のオフィス環境で勤務していた女性では35%であったことが明らかになりました。ザピアー社の2019年の調査によると、オフィス勤務よりテレワークを望む知識労働者の割合は、女性で62%、男性で53%であり、さらに、在宅でのテレワークがもっとも生産性が高いとした同割合は女性50%に対し、男性は37%でした。
このような考え方には大きな可能性があるものの、従業員管理には課題が残ります。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の最近の記事では、「プロジェクトに長時間を要し、共同作業がますます困難になる」と指摘する経営幹部もいました。その解決には、企業が新しい働き方を積極的に設計する必要があります。可能なことを実行する技術を推進するために、人材と科学技術を融合させた小グループを創設し、物理的な働き方とバーチャルな働き方を最大限有効に両立させる方法を建設的に設計しようとする向きもあります。
3.求人や人材育成などを含めた働き方
今後数か月のうちに、経営幹部は以下の問いに答えを出す必要があります。
- 広範囲にわたるすべての従業員に対し、どのように民主的に意思決定するのか
- どのように従業員の業務実習を行い、人材を育成し、報酬を与えるのか
- 生産性と統制の両方を確保するために、上司はどのような物の見方、考え方、マネージメントとメンタリング手法を取り入れるべきか
- 法規制上の問題をどのように処理すべきか
喫緊に取りかかるべき次のステップは明確です。人材確保と人材育成に向け、産業界が団結して行動しなければならない、ということです。
何が可能であるかは、新型コロナウイルス感染拡大時に見られた企業間協力に示されています。スーパーマーケットやその他必需品の小売業で雇用ニーズが急上昇し、一方ホテル業では従業員を自宅待機させている間、ウォルマートやマリオットなどの経営者は「People + Work Connectプラットホーム」に参加し、十分に活用されていない従業員と仕事のマッチングを実施しました。企業は共通の利益のために団結することができます。
テレワークは、関連会社、フリーランス、消費者自身などの「流体化する」労働力の活用も可能にします。企業相互の職業認証がこれを可能とし、企業は適正な人材を円滑に採用できるようになります。新しい技能が生まれれば、産業界はそちらに方向転換していくため、たとえばシンガポールの「SkillsFuture」のプログラムのように、従業員が生涯にわたりリスキリング(再訓練)できる様、企業は教育界や行政と緊密に協力すべきです。生涯学習を可能とさせる産業界全体での協力は、新型コロナウイルスの感染拡大が生んだプラスの遺産となり得ます。
グローバルな調査結果は一貫しており、従業員は従来の働き方には戻りたくないと考えています。従業員、企業、そして広く世界にとってより良い方法で消費財産業をどこまで成長させるのか、その決定はビジネスリーダーたちに委ねられています。
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