• 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、データ共有によって患者の臨床転帰が改善できることが実証されましたが、データ共有のイニシアティブに参加している医療機関はほとんどありません。
  • 連合型データシステムは、取り扱いに注意が必要なデータの国際的な共有を可能にし、データセキュリティ、患者のプライバシー、データの相互運用性を確保することができます。
  • 世界経済フォーラム、オーストラリア・ゲノミクス、ゲノミクス4RDは、イノベーションを推進し、希少疾患の潜在的なリスクを軽減するために、ゲノムデータコンソーシアムのガバナンスモデルを開発しました。

ヘルスケアへ革新的で個別化されたアプローチを提供する上で、中心的な役割を果たしているのがデータです。個別化医療または精密医療は現在成長を遂げている分野で、科学的プロセス、テクノロジー、エビデンスを適用することにより、個々の患者の予防、診断、治療、そして、大規模な疾患管理における最適化を目指しています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、データへのアクセスが医療提供において、文字通り生死に関わる結果につながることが実証されました。データは、ウイルスを検査、治療、追跡することができるのか、それとも、デビッド・ノット氏が名付けた「見えない敵」の意志に屈するかの分かれ目となるという意味で、医療における生命線なのです。データの迅速かつ効率的な共有を目的に設立された病院やヘルスケアシステムは、新型コロナウイルスに関して新たに増大する情報の流れに適応することができていたものの、データ共有対策に参加する設備が整っていない病院は、その流れに適応することができず、苦戦していました。

しかし、データ連携の価値を認識し、データコンソーシアムを実際に設計、設立、運営することは、グローバルヘルスケアエコシステムを取り巻く制度の差別化にもつながります。医療機関の多くは、患者の臨床転帰を改善させるためにデータを共有したいと考えていますが、データ共有のイニシアティブに積極的に参加している医療機関は、現状としてごくわずかです。

ゲノムデータには、そもそも医療データが最初に収集されたときに想定されていた根拠を超える価値があるということが分かっています。ゲノムデータは、それ単独では洞察に満ちたものとはいえませんが、非特定化された臨床カルテや表現型データとリンクした大規模なデータセットは、最も複雑で破壊的な疾患に関して、情報の宝庫として機能します。

世界の医療コミュニティは、データ提携の利点とデータコンソーシアムに参加する価値についての理解を深めている段階ですが、どのようにすれば、ゲノミクスや取り扱いに注意が必要なその他の健康に関するデータについて、データの相互運用性を促進し、より個別化された医療アプローチをグローバルに提供していくことができるのでしょうか。

ゲノムデータは、それ単独では洞察に満ちたものとはいえませんが、非特定化された臨床カルテや表現型データとリンクした大規模なデータセットは、最も複雑で破壊的な疾患に関して、情報の宝庫として機能します。

機密データを共有の技術的側面

データコンソーシアムを構築する上で最大の課題は、データ共有と相互運用性を可能にする技術をどのように構築し、利用するかという点です。

ゲノミクスと健康のためのグローバル・アライアンス(GA4GH)など、国際的な連携が主導する様々な概念実証例の中で明らかにされた技術的な解決案は、連合型データシステムです。

実のところ、連合型データシステムと、それに関連した管理システムの開発・提供は、他のアプリケーションにおいて以前に解決されているのです。ELIXIRが構築・管理しているゲノムデータのグローバルネットワークは、共通の利害関係を持つ提携組織が、ライフサイエンスデータのための機能的な連合型データシステムを、比較的迅速に構築できることを例示しています。

データシステムへ「飛行中」のクエリ(処理要求)のセキュリティ管理や、同様に戻り値のセキュリティ管理などの課題には注意を払う必要がありますが、解決することは可能です。ゲノムデータのストレージの規模は手ごわい課題であり、年間のストレージ要件は2~40EB(EB = 10^18b)と予測されており、一般的には、全世界の天文学データやYouTubeデータの全体の何倍もの規模に相当すると考えられています。新しいストレージメディアから圧縮標準に至るまで、複数の技術によってこのニーズを支援していく必要があります。

課題をより厄介なものにしているのは、臨床カルテとゲノムデータを実際にリンクさせる必要があるという点です。ゲノムバリアント(個人のDNAの変異)と長期的な健康記録を組み合わせた場合は、どちらか一方だけのデータよりも情報量がはるかに多く有益です。データのオントロジーと標準は、今後数年のうちに普遍的なものになると考えられますが、電子カルテ(EHR)などのレガシーデータシステムには膨大な投資がなされていることから、このような既存データを標準化された機械読み取り可能なフォーマットに移行させていくことは非常に困難です。それでも、組織のニーズを調整し、特定の利用例に焦点を当てて共有データセットとして開始することで、この問題を解決することが可能になります。

独立した医療機関として、データを連携・共有する理由とは

オーストラリア・ゲノミクス保健同盟は、研究に参加しているパートナー組織、協力者、ヘルスケアシステム、個人や家族に大きな価値をもたらした、全国規模のゲノムデータコンソーシアムの一例です。これは、臨床医、研究者、学術者の共同ネットワークとして運営されており、科学的知識の向上に向けたデータ共有、患者の転帰改善、政策の情報提供を目的としています。

オーストラリア・ゲノミクスの研究で得られた臨床データ、表現型データ、ゲノムデータは、データ共有を容易にするために構築された、スケーラブルで標準化されたシステムによって管理されています。この共同研究で導入されたツールやガイドラインは、オーストラリアの人々が、データ共有に貢献できるように設計されています。

2,500万の人口を抱えるオーストラリアでは、国際的な連携とデータ共有は、特に稀少疾患において、同国の健康レベルとゲノムデータセットの能力を高め、その価値を最大化するために非常に重要です。

国際的なゲノムデータコンソーシアムの形成は、これを実現するための強力な手段となります。データコンソーシアムは、信頼できるパートナー、定義されたガバナンス、合意された基準とアプローチを備えているため、データ共有の価値を提供し、セキュリティリスクを軽減、世界中の他のゲノム関連イニシアティブから学ぶ機会を提供することができます。

信頼されるガバナンスモデルを構築するには

世界経済フォーラム、オーストラリア・ゲノミクス、カナダのゲノミクス4RDは、プライバシーやセキュリティ上の潜在的なリスクを軽減しながら、連合型データアクセスを通じてグローバルなイノベーションを推進することを目的とし、そのために、明確なガバナンスモデルの提供方法に対する理解を深めることを目指しています。

その成果が「連合型データ・コンソーシアム・モデルにおける機密な医療データ共有のための8段階ガイド」です。信頼できるパートナーを見つけること(ステップ1)から、有用な連合型データにおける共通の問題を判別すること(ステップ2)、インセンティブとキャパシティの調整(ステップ3)、リソースの特定(ステップ4)、ガバナンスモデルの設計と展開(ステップ5、6)、データの構造化(ステップ7)、API技術の展開(ステップ8)に至まで、新しい健康データコンソーシアムの作成を成功させ、長期的な実行可能性を確保するためには、カスタムプロセスと広範囲にわたる対話が必要となります。

Eight steps to follow to build a federated data consortium
連合型データコンソーシアムを構築するための8段階
イメージ: World Economic Forum

事前に収集された大量の医療データにアクセスして、一国の国境を越え、更なる分析を行うことは、新たなイノベーションや発見につながりますが、他方では、患者のプライバシーやデータセキュリティに新たなリスクをもたらすことにもなります。一つの政策によって、医療データコンソーシアムへの参加に関わる潜在的な危険性をすべて排除することは不可能ですが、計算された開発プロセスに従うことで、コンソーシアムのガバナンスモデルを作成することはできます。ガバナンスモデルを作成することで、同意、運営、セキュリティ、技術のモデルが異なる機関の間に結束力のある共生関係を促進すること、そして、最良の結果を得るための政策とその実施を最適化することが可能になります。

技術的な枠組みを超え、ゲノムデータ共有の運用面と、法的・倫理的な側面における枠組みは、医療提供の変革、あらゆる民族を代表する参照データベースの充実、臨床に関わる討議や科学的発見に利用できる大規模なゲノムデータ資源、そして、知識と権限を持った患者のコミュニティ構築を可能にします。