数年前、私は遠方の親戚が住む四国で家族とバスに乗り込んだ。窓の外に広がる田舎風景が美しかったが、そのほかに今でもはっきりと覚えていることがある。そのバスの乗客のほとんどが、60代か70代、またはそれ以上の高齢者だったのだ。後で知ったことだが、その方々の多くが3人に2人が65歳以上という村に住んでいるということで、驚いた。ある年配女性いわく、「私たちの子供はみんな出て行ってしまったのよ」と。

私たちの世界は今、急速に高齢化している。歴史上で初めて、世界で65歳以上の高齢者人口が5歳未満の子供の数を上回り、今世紀半ばにその数は2倍以上になると予想されている。

特に都市部では、長寿化と少子化が進み、この傾向に拍車をかけている。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、人口における65歳以上の割合が最も高い上位100の大都市圏は、日本、ドイツ、イタリア、アメリカ、フランス、イギリス、スペイン、ポーランド、オランダの9カ国にある。

しかし、高齢化は先進国だけの問題ではない。中国の上海や南通などの新興国でも、高齢化が大きな問題になっている。2030年までに高齢化率が最も高くなるのは、ラテンアメリカとカリブ海諸国、次いでアジア、アフリカになると予想されている。また、これらの地域では先進国よりも早いペースで高齢化が進み、インフラの未整備、低い国民所得、脆弱な社会セーフティネットなどの問題がさらに深刻化する可能性が高い。

Women sit on park bench
公園のベンチに腰を掛ける女性たち
イメージ: Martina Pellecchia/Shutterstock

では、どのようにすれば、可能な限りの経済効率を追求しつつ、高齢者が生産的で社会に不可欠な一員となれるようなまちづくりが可能なのだろうか。 その解決策の鍵は、都市政策における財政的インセンティブを変えることにあるのか?都市サービスの提供や住宅政策の見直しにあるのだろうか?

これらの問いに簡単な答えはないが、国が発展途上にある環境下では、都市開発に対する新たなアプローチが必要であることは間違いないだろう。新興国は公衆衛生や経済成長、基本的なサービスへのアクセスといった様々な政策課題を抱えているために、高齢化社会に対応した都市開発に力を入れる財政的な余裕や能力がない。

しかし、高齢化社会に対応するために必要な投資がすべて、多額な資金を要したり、巨大な初期投資を必要としているとは限らない。例えば技術的な基準もクリアしつつユーザーのニーズを細やかに取り入れられれば、「ユニバーサル・アクセシビリティ」のような観点を早くから取り入れてインフラ投資を行うことが、長期的なライフサイクルコストから見たときに有益であることが世界のさまざまな事例から実証されている。インフラ整備や都市構造の再設計にかかる時間やコストを考慮すると、こうした初期段階でのアプローチは時間とコストの両面でより効率的である。まちづくりにとっても、そこに住む人にとっても、経済効率から見ても、好ましいアプローチだと言える。

世界銀行は東京開発ラーニングセンターと連携し、高齢者を含むすべての住民にとって都市がより活気に満ち、生産的で住みやすい場所になる方法について議論するため、15カ国の代表団と対話を行った。世界銀行は、都市に住む人たち皆が安全に、自立して、快適に有意義な老後を過ごせる場所を確保しながら、各国が急速な都市化に持続的に対応できるように支援を行なっている。

例えばベトナムでは、ユニバーサル・アクセシビリティの考え方を取り入れたスラム地域の改善プロジェクトの支援を行っている。同国のメコンデルタにおける高齢者が障害者人口の割合の高さから言っても、有意義な取り組みだといえる。また同行においては、高齢化に対応するまちづくりのあり方を検討するための調査研究を開始した。高齢化社会に適応したまちづくりはどのようにあるべきか?都市がいかにアクセシブルであるか?いかに社会包摂性を担保できるか?といった点に着目して、都市という空間において、これから世界的に起こるであろう人口動態の変化に備えるために何をすべきか、という検討を行っている。その過程では、ジェンダー、テクノロジーといった横断的なテーマについて分析することも非常に重要であることが分かってきている。

バンコク(タイ):公園で高齢者が太極拳をしている様子
イメージ: aukhon/Shutterstock

人は必ず歳をとる。高齢化は最も確かな政策変数の一つであり、いつ、どこで、どのように高齢化が起こるのかを高い信憑性を持って把握することができる。だからこそ、開発計画において高齢化を軽視するべからず。将来を見据えておくことは、問題が起きてから対応するよりも費用対効果が高いのである。

私の息子やその同世代が2035年に日本の労働人口に加わる頃には、平均1.7人が高齢者1人を支えることになり、現在の平均2人に比べて負担は増す。これは、国民年金制度が創設された時の1961年の11.2人から大幅に減った数値となっている(内閣府のデータ参照)。

こうした傾向は今後、世界中の多くの地域で様々な形で顕在化し、さらなる調査が必要となるであろう。しかし、インフラや社会制度、テクノロジーが、高齢者が社会のアクティブな一員であり続ける大きなチャンスを与えてくれるなど、各国のシンプルな共通点があることも忘れてはいけない。

*この記事は、世界銀行のブログを転載したものです。