• 多くの産業が循環経済への転換を目指していますが、バイオ医薬品産業もそのひとつです。
  • 現在、医薬品は環境リスクとは関係なく承認されていますが、この特殊な状況も変化するかもしれません。
  • 環境への影響を早期に特定することで、リスクを軽減し、地球の環境を犠牲にせずに患者が医薬品を使用することができます。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、短期間のうちに世界全体の経済や社会、そして私たちひとり一人の生活に、長期に及ぶ影響を与えることになりました。将来を見据えて経済の復活を目指すにあたり、どうすればより持続可能な社会を築いていけるのでしょうか。

この問題は、2019年9月に世界経済フォーラムの支援を受けて設立された持続可能な市場に関する評議会(SMC)の活動を踏まえて、新たに策定された10項目の行動計画の根幹をなすものです。本稿では、人間と自然環境の共栄を経済回復の中核に据える、世界レベルでの持続可能なサーキュラーバイオエコノミーが持つ素晴らしい可能性について解説します。その中心にあるのは、土地や食料、健康、産業に関するシステムの転換と、管理するための新しい枠組み、つまり、社会と自然環境が調和して機能する仕組みです。

直線型のアプローチから循環型のアプローチへの移行は時間を要するでしょう。また、バイオ医薬品産業を含むグローバルな産業分野が取り組むべき課題には、以下のようなものあります。

  • 戦略策定や意思決定は自然や環境に与える影響を考慮して行う
  • 分野横断的な研究・教育を強化し、システム全体の解決策を考案する
  • コミュニティや地域のパートナーと共同で生み出すイノベーションの実践を展開する
  • 気候、土地・用地の管理、廃棄物、水、健康に関して、一貫性のある政策を策定する
  • 実現可能で透明性のある国際規制機関を活用したアプローチを構築する

サーキュラーバイオエコノミーと大手医薬品企業

世界はすでに、持続可能な未来に向けて直線型から循環型へアプローチを移行することが、経済的にも環境的にも必要であることを認識し始めています。また、投資家、政府、医療提供者の多くが、温室効果ガス削減目標を設定する必要性を理解しており、調達する物品・サービスや、投資先の企業間接的に排出する二酸化炭素の量を詳しく調査しています。

このような市場の需要の変化に伴い、ヘルスケアシステムは、医薬品そのものが環境に与える影響や、組織およびそのサプライチェーンによる権限と資源の使い方、管理の行き届いていない慢性疾患患者への影響など、すべてのケアパスを総合的な視点でとらえるようになってきています。

例えばイギリスでは、国内に540万人のぜんそく患者を抱えており、吸入器1台を使用した場合と1台の自動車が180マイル走行した場合の二酸化炭素の排出量が同じであることから、国民保健サービス(NHS)は、2028年までに吸入器による二酸化炭素の排出量を半減させる取り組みを進めています。

また、持続可能なヘルスケア連合は、既存のヘルスケアの経路が環境に与える影響を評価し、医療モデルを構築または再構築する際に持続可能性を考慮するためのガイダンスを作成しています。

人間と地球の健康をつなぐ

健全な地球は、人間が健康に欠かせないものです。私たちは、環境的に持続可能な経済モデルに基づいて行動し、健康な世界を実現し、人間と地球を保護・支援するための総合的な措置を講じて、地域社会と協働していく必要があります。

世界では、患者や社会に役立つと同時に環境保全にも貢献できる経済に転換するという潮流が生まれていますが、アストラゼネカでは、グリーン代替やグリーン調達の実践、溶剤の回収、水の再利用、自社製の医薬品の環境フットプリントの把握と低減を通じて、その流れに乗るよう意欲的に取り組んでいます。

AstraZeneca’s circular approach to sustainable medicines development
アストラゼネカが採用している、持続可能な医薬品開発のための循環型アプローチ
イメージ: AstraZeneca

人間の健康と地球の健康を結びつける必要性の認識は、持続可能な解決策をヘルスケア分野でより積極的に打ち出していく上で鍵となります。なぜなら、水や大気、土壌の汚染が原因で、世界では900万人が早死にしていると推定されているように、人間の健康に多大な影響を及ぼすからです。

健康な環境の創出を支援することで、より健康なエコシステムの構築に貢献し、地球規模で疾病が蔓延するのに歯止めをかけることができ、さらには、予防することさえ可能になるかもしれません。

世界中で、清潔な飲料水や基本的な衛生環境にアクセスできる人の数は、携帯電話を利用できる人の数よりも少ないのが現状です。

人生を変えるほどの治療や予防策を実現する、持続可能なヘルスケアソリューションにすべての人がアクセスできる未来の実現に向けて、ヘルスケア分野では現在、教育・啓蒙プログラムや医療専門家のトレーニング、医療施設の活性化を通じて、取り組みを進めています。このような未来の実現は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてさらに重要視されるようになりました。

グローバルヘルスに関わる全てのステークホルダーが、プロセスと資源を見直して、革新を導入する余地や、原材料を節約・削減・再利用・リサイクルする余地、ニーズと資源を確実にマッチさせるよう努める余地が、どこにあるかを見極める必要があります。つまり、医薬品開発において、創薬から製品寿命を迎えるまでのすべての段階において、循環性を維持する、徹底して持続可能なアプローチを取り入れることが求められるのです。

世界各国は、2050年までに二酸化炭素の排出量ゼロを目指すという目標を掲げていますが、大手企業はそれを上回る意欲的な目標を設定しています。アストラゼネカでは、2025年までに二酸化炭素の排出量ゼロを、2030年までにバリューチェーン全体でカーボン・ネガティブを達成することを宣言しています

現在、医薬品は、環境上の危険性やリスクに関係なく承認されている唯一の化合物です。その理由は、社会的利益は常に環境への影響よりも優先されるものだと考えられているからです。しかし、環境への影響を早期に特定することでリスクを軽減し、地球の環境を犠牲にせずに患者が医薬品を使用することができるのです。

私たちは、経済繁栄の中核に健康な社会と環境の実現を据えるために、一致団結してシステムレベルの総合的なアプローチを取っていく必要があります。このような協働体制は、ヘルスケア産業の枠を超えたものでなければなりませんが、それが達成できれば、事業上の必要性を満たすために天然資源を競い合うのではなく、そこに共同投資すること、そして、政府と連携してインフラや財政環境の整備、長期ビジョンの設定を適切に実現し、変化をもたらすことができます。