政府によるAI規制の未来の形成、イノベーションと成長を後押しする公共調達
2020年はじめ、イギリスの環境庁向けの氾濫区域特定に活用されたのは、AIに基づく地理空間分析でした。世界中の公的機関は既に、倫理的で責任ある使用を支持する方法で解決策をもたらす有用な枠組みを有しています。 Image: John Murray @MurraryData
Sabine Gerdon
Artificial Intelligence and Machine Learning Fellow, World Economic Forum, Senior Policy Adviser at the UK's Office for Artificial Intelligence- AI(人工知能)は、政府による新型コロナウイルス感染拡大への対応に役立ちます。
- このパンデミック(世界的大流行)は、倫理的かつ責任ある政府であり続けるために、AI技術の開発と導入を積極的に進めていくことの重要性を明らかにしました。
- 公共調達を活用することで、政府はAIのイノベーションや経済成長を支援できるだけではなく、適切な基準および規制を設けることもできます。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、2019年に同職に選出された時、AIの人間的および倫理的含意に関する欧州の協調的アプローチを提唱しました。
一般データ保護規則(GDPR)に似た強力なAI法、サンフランシスコで定められているような公共の場における顔認識技術の使用禁止や、カナダの自動意思決定に関する指令に類似した公共部門におけるAI導入への革新的なアプローチなど、想像されるシナリオは数多くありました。
現在、欧州委員会の白書に関するパブリックコンサルテーションと時を同じくし、新型コロナウイルスのパンデミックが起こっています。国連グローバルパルスで強調されているように、AIはこのパンデミックへの対応を手助けすることができます。AIは人間の知能と同じくらい正確で、レントゲン技師の時間を節約し、標準的な検査よりも迅速かつ安価にウイルス感染の診断を行うことができます。例えば、イギリスのスタートアップ企業BenevolentAIは、ウイルス感染者の治療に使える可能性のある承認薬を、AIを利用することで、わずか90分で探し出しました。
これらの開発は期待が持てるものですが、倫理的で責任あるAIの導入はどのようなものであるべきかという疑問も投げかけています。これは、AI業界だけに任せるにはあまりにも重大な議論であり、政府による積極的なAI技術の開発および導入の推進が必要不可欠です。
鍵となるのは、政府による適切かつ積極的な規制です。しかし、どうすれば政策立案者たちは開放性と革新性を保ちつつ、制限的かつ規範的であることでリスクを軽減する規制を生み出すことができるでしょうか?さらに重要なのは、技術の成熟に合わせて、どうしたらその規制を柔軟であり続けさせることができるかという点。これらの要件は、政府がいかに規制を行うか、具体的には、AIの未来を形成するためにその規制力をどう活用するかを再考することが急務であることを示しています。
そこで役立つのが、アジャイルガバナンスの原則です。コラボレーションとデータに基づいた意思決定、柔軟で包括的な規制の概念が含まれるこの原則は、政府が、産業および市場のダイナミクスを理解し、新しい開発の継続的な指揮をとる事を支援します。
政府がこれらの課題に対応していくための機会のひとつは、公共調達に対してアジャイルなアプローチを取ることです。EU内だけでも、25万以上の公的機関が外部のサービス、業務、供給に年間約2兆ユーロを費やしており、ソフトウェア、クラウドストレージ、ITサポートへの支出は増え続けています。この商業的な力を意識的に利用し、公共調達を活用すれば、政府はAIのイノベーションや経済成長を支援できるだけではなく、規格を設定し、市場にシグナリング効果を与えることもできるのです。
市場におけるイノベーションを促進するための調達の新しいアプローチは、イノベーションと経済成長を加速させるための政府の選択肢のひとつです。
例えば、市場への柔軟なルートや提案依頼によって、政府は技術の詳細な仕様よりも課題への注力が可能になります。AIに特化した入札テンプレート、モデル契約条項、そして、課題ベースの調達(例:イギリスのGovTech catalyst)のような特定の調達の枠組みがその支えとなるでしょう。
もうひとつのアイデアは、提案の公募に対応するだけの適切なインセンティブや組織力を持たない可能性のある、より小規模または若い企業に対する体系的なアプローチです。彼らにとっての課題は、長い入札プロセス、支払いの遅れ、公共部門における機会に関する認識不足などです。しかし、市場が急速に発展する中、これらのプレイヤーを公共政策に関わる話に巻き込むことには利点があります。ひとつのルートとして、政府が「ショー・アンド・テル」とコワーキングスペースを通じスタートアップ企業に働きかけることも考えられます。これにより、若い、小規模の革新的な企業による公共部門の仕事の獲得を妨げない公共調達プロセスを実現することができます。
公募入札の積極的かつ戦略的な設計は、政府が、公共調達を倫理的で責任あるAIの開発を促進する方策として活用する機会でもあります。
購買サイクルに説明責任と倫理を組み込むことにより、政府はその購買力を活用し、これらの原則を効果的に、そして実践的に運用できるようになります。例えば、政府はカナダのAIサプライヤーリストと同様の倫理的基準を満たすサプライヤーの事前承認を行ったり、説明可能なAIのベストプラクティスの活用を求めたりすることができます。さらに、調達文書にはAINow(AIの社会的な意味合いを検証する研究機関)が説明しているような、AIシステムおよびAI影響評価も盛り込む必要があります。
欧州委員会の白書は、行政が、将来を見据えた責任あるAIの導入をすることの重要性を強調し、公共調達に関する対話に関しても言及しています。しかし、公共調達プロセスの変革における目標や方法については詳しく説明されていません。6月14日にパブリックコンサルテーションが終了すると、欧州委員会はAIに対する規制アプローチを確定させることになります。
その時、AI技術の複雑な需要に対する委員会の対応が、アジャイル原則の採用だけでなく、公共調達への従来のアプローチを再考するプロセスの始動となることが望ましいと考えられます。今日、各国政府はAIの原則を話し合うだけではなく、リスクを軽減しながらAIの採用を促進する実用的な解決策を実行していく必要があります。
世界経済フォーラムの「AIと機会学習のプラットホーム」が提供する「AI procurement in a box」ツールキットは、AI調達のベストプラクティスと、政府チームによるその導入を支援するツールの概要を説明しています。
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