• 新型コロナウイルスの感染拡大が招いた危機は、政府がより公平かつ持続可能で、レジリエントな経済を構築する機会を与えている。
  • 各国政府は、ベイルアウト(公的資金投入による救済措置)を活用して、より責任あるビジネス慣行を奨励し、雇用を守り、不平等と気候変動に対処すると共に、長期的なレジリエンスを構築している。
  • 今後の救済措置は、より大胆で先見的な改革を実施するものである必要があります。

世界経済フォーラムが毎年発表している「国際競争⼒レポート」の2019年版では、141ヵ国の政府の将来への備えを評価しましたが、ほとんどの国において、この指標をはじめとする重要な長期的指標が低下していることが明らかになりました。パンデミック(世界的大流行)によるロックダウンが世界経済に大きな打撃を与え、さまざまな機関の不備が露呈した結果、「より大きく、そして大胆な政府」が必要な時代が到来しています。

すでに推定9兆ドルもの資金が、困窮する家計を支え、失業率の上昇を食い止め、事業を持続させるために、世界経済に投入されています。一部の国ではロックダウンを解除し、経済活動を再開していますが、指導者にとっては、繁栄を享受し、環境に優しく、すべての人に平等な冨を分配できるよう、経済を再構築する好機になるでしょう。

Countries have already deployed $9 trillion to help people and businesses get through the COVID-19 crisis.
各国は新型コロナ危機を乗り切るために、すでに9兆ドルを投入し人々や企業を支援している。
イメージ: International Monetary Fund

今回の危機は、世界経済フォーラムが「グレート・リセット」と呼ぶ転換期を、遠い未来ではなく、今すぐ始める機会でもあります。2008年の金融危機とその余波から得た教訓を踏まえ、多くの政府は、ベイルアウト(公的資金投入による救済措置)をはじめとする救済措置や破綻処理に意味のある条件を設けています。現在、実施されている短期的な支援は、より責任あるビジネス慣行を奨励し、雇用を守り、不平等や気候変動に対処するとともに、将来のショックに対する長期的なレジリエンスを構築するために活用されるものであり、そうされるべきなのです。

例えば、フランス、デンマーク、ポーランドでは、格差が拡大し、公的予算がひっ迫することを懸念し、欧州以外のタックス・ヘイブンに本社を置く企業に対する公的資金投入による支援を拒否しています。また、イギリスでは配当金の支払いを禁止し、融資制度を利用する企業のボーナス支給を制限する政策を打ち出しています。

また、多くの政府が、雇用水準を維持するために、企業に優遇措置を取ることで、雇用の保護を図っています。米国企業が「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES ACT)」の資金を利用する場合、9月30日まで、パンデミック前の雇用水準の少なくとも90%以上を維持することが条件付けられています。日本も同様の条件を適用し、中小企業と大企業の両方に雇用維持支援をしています。ロシアでは、90%以上の雇用を維持する企業には、雇用調整助成金を導入しています。一方、イタリアでは、一時的な措置として、公的資金を利用している企業に限らず、解雇を全面禁止しています。こうした措置は、規制が解除された後も雇用維持に効果があるかどうか定かではありませんが、この未曾有の危機において、そして、将来の経済回復に向け、労働者にとっては緩衝材、つまり「希望の糧」となるでしょう。

深刻な打撃を受けている業界でさえ、社会的・環境的責任を重視し、長期的な視点に立った取り組みを促すための救済措置が練られています。例えば、世界的に移動や渡航が規制された結果、航空業界は需要ショックに直面していますが、危機以前のビジネス慣行を見直す動きが強まっています。

過去10年間、米国の大手航空会社は自社のフリーキャッシュフローの96%を自社株買いに費やしており、これは他のS&P 500企業の2倍近くに当たります。財政難に苦しみ、公的資金注入を求める航空会社は、2021年末まで自社株買いや配当金の支払いが禁止されるだけでなく、9月30日までは強制的な人員整理や賃金率の引き下げを実施しないことが義務付けられています。同様に、フランス政府は、エールフランス‐KLM航空への70億ユーロ(79億ドル)の支援に「グリーン・ストリングス」を義務付けました。これは、2030年までに二酸化炭素排出量(乗客1人当たり、キロ当たり)を2005年比で半減する取り組みを求めるものです。

このように、短期的な施策に長期的な思考を組み込んだ事例は、明らかに正しい方向への一歩です。これまでの財政支援の規模の大きさ、不平等、気候変動、失業、公的債務に対する懸念の高まりを考えると、次の復興策の波はさらに大きなものになるはずです。

ここで、他の国々が追従するべきモデルとなるのは、欧州委員会の「次世代のEU復興基金」でしょう。これは、7,500億ユーロ(8,450億ドル)の助成金と融資を提供し、グリーンなデジタル経済への移行を加速させることで、公平で包摂的な復興の実現を約束するものです。欧州諸国が衰退しつつある重工業から脱却し、脆弱な労働者を支援することがその基本的な条件になると考えられます。しかし、すべてのEU加盟国がこの基金に参加するかどうかはまだ不透明な状態です。

パンデミックによって、各国の政府は、ほんの数ヵ月前には誰もが想像していなかったような先駆者的役割まで求められるようになっています。私たちが、当面の健康危機を乗り越えるためには、政策立案者はこの機会を活かして、大胆かつ先見的な改革を実施する必要があります。その改革には、ソーシャル・コントラクト(社会契約)の再構築、適切なセーフティネットの提供、未来の経済が必要とするスキルと雇用の育成、公共部門、国家、民間部門の間のリスクとリターンの配分の改善が含まれます。

しかし、政府のリーダーシップが求められる一方で、経済回復と成長への新たな道筋を描くには、企業、公的機関、政府機関、労働者の間でより大きな協力が必要となります。「グレート・リセット」を成功させるには、すべてのステークホルダーが手を携えなければなりません。

今、明らかなのは、多くの犠牲のもと限られた少数の者だけが冨を得ていた時代に戻ることはできないということです。各国のリーダーは、短期的なプレッシャーと同時に、長期的な先行き不安にも対処することを迫られ、歴史的な岐路に立たされています。各国政府の新たな影響力は、より公平かつ持続可能で、レジリエントな経済の構築を始める手段を与えているのです。