COVID-19

新型コロナウイルス感染拡大から学ぶ:新たな災害リスクの捉え方

A man looks out of his car during a traffic stoppage, during the outbreak of the coronavirus disease

新型コロナウイルスのアウトブレイクの中、通行止めに出くわし車から外を見る男性 Image: REUTERS/Andrew Kelly TPX IMAGES OF THE DAY - RC2I8G90HRGF

Mami Mizutori
Special Representative of the Secretary-General for Disaster Risk Reduction, United Nations Office for Disaster Risk Reduction
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  • 新型コロナウイルスは、人類の存在を脅かす多くの地球規模の危険のひとつにすぎません。
  • パンデミックにより良く備えておくべき根拠が山ほどあったにもかかわらず、これまでの警告の多くは各国により無視されてきました。
  • 本稿を通じて、あまたある地球規模の災害から身を守るため、リスク削減戦略の徹底的な見直しをどう行うべきかについて共有したいと思います。

一部の国では、新型コロナウイルスの蔓延が緩やかになり、かすかな希望の光が見えてきています。しかし、世界で最も弱い立場にいる人々が受ける社会経済的な影響は悪化の一途をたどっています。スラムや人々が密集する難民キャンプなどで、その日暮らしの生活を送る何百万人もの人々にとり、将来への見通しは大変厳しいものとなっています。

この挑戦の大きさを前に、私たちは今何をすべきなのでしょうか?

第一に認識すべきことは、現代社会においては、リスクの性質そのものが劇的に変化したということです。「人新世(Anthropocene)の時代」と呼ばれる今、人間の活動が環境や気候に圧倒的な影響をもたらすようになってしまいました。

今や、諸々のリスクは連鎖的に我々の生活を脅かすようになっています。その中で、保健関連機関、防災関連機関、早期警戒・警報センターといったように、個別の機関がバラバラにリスクに対応するようでは、もたなくなっています。政府が従来のようなやり方でリスクに対応し続ける限り、災害発生による影響の全体像は見えないままとなり、適切な解決策を取ることはできません。

水、公衆衛生、教育、健康と栄養、生計、子どもの保護、シェルターと住宅、公共のオープンスペースといった個別部門を横断するリスク削減のための包括的な解決策をとることが必要とされています。

更なる懸念材料として、複数の危険が同時に襲ってくる可能性があります。すでに世界のいくつかの地域では、新型コロナウイルスの危機と同時にいくつかの他の災害が発生しています。クロアチアでは3月22日にマグニチュード5.5の地震が起こり、バヌアツは、4月上旬にカテゴリー5のサイクロンに見舞われました。

ウイルスの蔓延は、他の災害が発生しているかどうかにかかわりなく進行します。また、ウイルスは国境線があろうがなかろうが、どんどん増殖することができます。だからこそ、私たちは、各国が国境を再び開くことを決めた時に備え、ウイルスの蔓延を防ぐことのできる各国一致したグローバルな解決策を取ることが必要です。

第二に、我々がとるグローバルな解決策においては、最も弱い立場にある人々への支援を優先する必要があります。世界の貧困層のほとんどは、平時でさえ公衆衛生のインフラやサービスが十分ではない国々で生活しています。

国連事務総長は、現在の状況は人類全体が直面する危機であるとして、最も弱い立場にある人々と彼らのコミュニティに焦点を当てた対策をとる必要性を強調しています。解決策には、新型コロナウイルスの拡散防止と同時に多くの人々への広範な社会経済的影響への対応を含める必要があります。

第三に、先進国は、あまりにも長期にわたりパンデミックのリスクを無視し続けてきたことを認識しなければなりません。何度も繰り返し予告されてきたにもかかわらず、この災害が今、地球上のすべての人の健康を脅かしているのです。

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わずか6ヶ月前、世界保健機関(WHO)と世界銀行の共同イニシアチブである「世界健康危機モニタリング委員会」が、報告書「危機的状況にある世界」を発表しました。そこでは、「急速に広がる致死率の高い呼吸器病原が5000万人から8000万人の死者を出し、世界経済の5%近くが消滅する非常に現実的な脅威」の存在について警告されています。

2年前には、パンデミックに備える金融政策に関する国際ワーキンググループが、報告書「パニックとネグレクトからヘルス・セキュリティへの投資へ」を発表しました。そこでも「今世紀に入ってわずか17年の間に、複数のパンデミック、多くのアウトブレイクの発生により何千もの命、が失われ、何十億ドルもの国民所得が消えた。それにもかかわらず、国際社会のパンデミックへの備えと対応に対する投資は、嘆かわしいほど不十分なままである。」との警告がなされています。

それでは、このような不測の事態から世界を守るには、果たしていかほどのの経費がかかるのでしょうか?

3年前、「将来のグローバルヘルスリスク枠組みに関する委員会」は、衛生関連災害を食い止めるための方策を提案しました。その中で提示された経費として、各国の医療システムを改善するための年間34億ドルの投資、研究開発への10億ドルの投資、WHOが専門的な健康危機管理センターを設立するための1億5500万ドルが含まれていました。

現在のとてつもない景気の後退状況、そしてパンデミックに適切に対応する能力があまりにも欠如しているという現実を踏まえれば、この水準の金額をもって対応することができれば、極めて合理的であると言わざるを得ません。

第四に、そして最も強く認識されるべきことは、災害リスク管理の成功は、優れたガバナンスと政治的なコミットメントにかかっているということです。

5年前、国連加盟国はエボラ出血熱、MARS(中東呼吸器症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)を経験した国々からの後押しを受け、「仙台防災枠組」採択時に生物学的ハザードを含めるべく、対象となるリスクの範囲を拡大しました。

仙台防災枠組は、今年の末までに可能な限り多くの国連加盟国が、国家防災戦略を策定するよう求めています。しかしながら、現時点でこのような戦略を持っているとの報告をしている加盟国は81か国に過ぎず、更に、この戦略の中にパンデミックの脅威を含めている国の数は多くありません。今こそ、WHOのガイドラインに従い、このような状況を是正すべきです。

我々が今、直面している危機は、実は、経済成長の在り方を再考し、何が人類の生存と地球の持続可能な発展にとって重要であるかを確認するまたとない機会ではないでしょうか。

新型コロナウイルスは、今こそ災害リスクの捉え方を変えるように促す警鐘に他なりません。先延ばしは致命的な間違いです。

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2022年4月12日

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