新型コロナウイルスの国内感染者が増加し続けている。これまで日本経済に与える影響は、中国を最大の発生源として、そこからの波及を念頭に想定されてきたが、どうやら様子が変わってきた。最も大きな要因は、感染者増大を防ぐための各種イベントの取りやめに代表される「コロナ自粛」だ。

国内の感染増加が止まらない場合、輸出だけでなく、消費をコアにした内需も打撃を受け、日本経済のツインエンジンが同時に停止する事態も否定できなくなってきた。国内感染者の増加テンポは、国内投資家だけでなく海外の投資家からも注目されるだろう。

忖度自粛とイベントの行方

新型ウイルスの国内感染者は、21日も新たに北海道で3人確認されるなど、増加する基調が鮮明になっている。感染経路が確認できないケースも増えており、いわゆる「市中感染」を前提に政府が対応しようとしている。

加藤勝信厚生労働相は「風邪の症状が見られる時は会社を休み、外出を控えていただくことが必要だ」と呼びかけ、厚労省は経団連などにテレワークや時差出勤の積極的な活用、症状のある労働者が休みやすいようにする環境の整備を図るよう要請した。

加藤厚労相は20日夜、イベント開催に関し、「政府として一律の自粛要請はしない」としつつ、「主催者に開催の必要性を改めて検討していただきたい」と述べた。

地方自治体や企業からすれば「政府は責任を取らずに、イベント自粛の結果を求めている」と映っているに違いない。実際、複数の企業関係者はそのような「本音」をもらしている。これはある種の「忖度自粛」を求めているとも言えるのではないか。

今後、かなり広い範囲でイベントの中止や延期が起きるだろう。東京都は22日から3週間、屋内での主催イベントのうち、大規模なものや食事を提供するものは原則として中止もしくは延期すると発表した。

スポーツイベントも次々と中止になっており、感染防止の対応としてはかつてない規模に上りそうだ。

2月上中旬から悪影響

また、自民党は3月8日の党大会を延期した。会場になる都内のホテルの大宴会場はキャンセルとなり、地方党員の客室予約も同様の対応になるに違いない。大手企業の中には出張を原則、取りやめる方針を打ち出しているところも多く、交通機関の稼働率にも影響が出そうだ。JR東海(9022.T)によると、今月1日〜19日の東海道新幹線の利用者数は前年比8%減と東日本大震災直後の2011年8月以来の落ち込みとなった。

自粛の影響は、外食産業にも出始めている。大手企業の中には休日や平日の夜でも繁華街を出歩かないよう社員に呼び掛けているところがあり、さらに「市中感染」の可能性が連日報道されているため、足が遠のいている。

求人サイト「クックビズ」が今月6日〜13日に全国の飲食店(有効回答147カ所)を対象に新型ウイルスの影響を聞いたところ、大きな影響が出ているとの回答が31%、多少の影響が出ているが20%となり、合わせて51%に影響が出ているとの結果が出た。今後、多少の影響が出そうだとの回答も20%となり、70%超の店舗で警戒している姿が明らかになった。

日本商工会議所の会員企業へのアンケート調査でも、影響が出ているとの回答が11.3%、長期化すると影響が出る懸念があるとの回答が52.4%となった。

新型ウイルスが内需系を直撃か

マクロ的に日本経済をみると、昨年後半までは米中摩擦の影響で輸出に比重を置く製造業の業況が悪いものの、底堅い消費を基盤に非製造業が健闘し、外需の弱さを内需がカバーする構図になっていた。

しかし、昨年10月以降、消費増税の影響や自然災害、暖冬などにも足をすくわれ、内需は変調をきたし始めていた。そこにこの新型ウイルスの国内感染が加わった。ある大手企業の幹部は「少なくとも1〜3月期は、大きく落ち込んだ10〜12月よりもさらに悪化するだろう。覚悟が必要だ」と述べていた。

1月下旬の時点で、政府・日銀は新型ウイルスの影響が3月に入るとピークアウトし、そこから回復するとみていた。だが、国内感染の広がりに頭打ち感は見えず、ピークアウトの時期は全く見えなくなった。感染症の専門家の中には、国内で感染が急増するかどうかは、ここから1〜2週間が分かれ目と警戒する声もある。

ウイルス注視で円とウォン売り

4月に入っても感染のピークが見えない場合、東京五輪の運営をどのようにするのかという問題も浮上する。一部では「中止」シナリオを述べる向きもあるが、五輪開催の行方が不透明になれば、日本株の売り材料にもされかねない。

ある国内証券の関係者は「中止となれば、株価の大幅な調整は避けられない。心理的な下押しも相当大きくなり、消費も大打撃だろう」と予想する。

五輪開催が確認されても、国内感染者の増加が続く場合、中国の一部のように物流に影響することも予想され、さらに「自粛ムード」が強まってしまうだろう。

21日の東京市場では「韓国ウォンと円の売られ方が大きい。欧米の短期筋は新型ウイルスの感染者増加が止まらない日本と韓国を狙い打ちした可能性もある」(国内銀行の関係者)との観測も出始めている。

3月期決算直撃のケースも

短期的には、3月末の決算期を迎える企業が、決算対策に苦悩して保有株を売り出すことなどで決算内容を「整える」動きに出ることも予想される。

さらに観光に関連した業種では、足元で売り上げが急減し、短期的な資金繰りに窮するケースも増える兆しがある。そう遠くない時期に政府・日銀が大胆な「資金繰り支援パッケージ」を打ち出す展開もありそうだ。

国内感染者の増加にいつ歯止めがかかるのか──。その時期が4月以降、先に延びるほど、日本の社会的・経済的動揺が大きくなってしまうだろう。新型ウイルスから受ける悪影響のフェーズが当初の想定から「1ランク」上がったことは間違いない。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。