女性軽視が金融サービスでの損失につながる理由
取締役会の女性比率は欧州全体でわずか29%にとどまっている Image: Amy Hirschi/Unsplash
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持続可能な開発目標5: ジェンダー平等の実現
過去10年において、金融業界では、ジェンダーバランスの改善が欧州並びに世界全体における課題となってきました。依然として男性優位の状況が続く金融業界、特に取締役会レベルでは、その傾向は顕著です。世界的に見ると以前よりも女性役員の比率は増えているものの、その増加ペースは緩やかで、理想的なバランスとはほど遠いことが、経営コンサルティング会社オリバー・ワイマンによる「ウーマン・イン・フィナンシャルサービス・レポート 2020」によって明らかにされています。ジェンダーバランスの不均衡が金融業界に与える損失は、ますます大きくなってきています。
目標到達にはまだ道半ば
欧州では、金融業界で活躍する著名な女性リーダーたちをよく目にしますが、その中でも最も有名なのが、クリスティーヌ・ラガルド氏でしょう。個々の企業や活動で見た場合、表面的な状況は良い傾向にあるとように見えます。例えば、英国では最近、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドグループのCEOにアリソン・ローズ氏が就任するなどの画期的な動きがあるほか、FTSE100やFTSE250の取締役会における女性役員の比率向上を目指す「サーティパーセントクラブ(30% Club)」の取り組みは、この時代に大いに必要とされる変化の到来を告げる動きとして、注目されています。
しかし、以下に示される数字からは異なる事実も見えてきます。オリバー・ワイマンによると、欧州全体で経営委員会における女性比率は現在20%、取締役会では29%まで増加しているものの、スウェーデンの33%からギリシャのわずか6%まで、国や地域によって大きな差があります。
幅広いアプローチ
現在に至るまでの取り組みが、私たちを次のレベルへと押し上げてくれるものではないことは、はっきりしています。さらに次の変化の波を起こすためには、金融業界が、ジェンダーバランスがもたらす影響を、労働力という領域を超えて波及するものであることを理解する必要があると、このレポートは示しています。女性を顧客として考え、より良いサービスを提供していけば、世界的に、少なくとも7,000億ドルの収益を生む機会をもたらします。
政治と経済の状況が急速に変化し、非常に不安定な中で、この状況を危機として捉えるのは決して大げさなことではありません。ジェンダーバランスを図ることは、ビジネスを成功へ導くために極めて重要な要素と認識されるべきですが、現時点で多くの組織は、ジェンダーバランスを組織が生き残るために欠かせないものとして捉えています。
ジェンダーギャップを解消し、収益を上げ、持続可能なビジネスを推進させるために、さらに多くの取り組みが必要です。従来よりも、一層幅広いアプローチを図り、組織内のジェンダーバランスを正すことで、組織の外の女性顧客の要望を満たすことに繋がることがことが重要です。
収益増加の機会
金融サービスに関して、女性は間違いなく、十分にサービスを享受していない最も大きなグループと言えるでしょう。金融商品やサービスの購入者として、これまで以上に影響力を発揮しているにもかかわらず、女性のニーズは十分に満たされていません。企業は、女性顧客に耳を傾けず、ニーズを理解しないことで、結果として収入の機会を逃しているのです。
中小企業(SME)の中で、女性リーダーが経営する企業への資金が乏しいことや、従来よりウェルス&アセットマネジメントにおいて、男性のキャリアが優遇される傾向があることは、これまでにはっきりと証明されています。それだけでなく、私たちの研究では、保険会社、リテールバンク、コーポレートおよびインスティテューショナルバンクによる、女性顧客に対するサービスの提供方法に、男性とのギャップがあることも明らかにしています。
柔軟性が足りないことに加え、男女の性差のいずれにも偏っていないように見える商品やサービスが、実際には男性を対象に提供されている事実は、リテールバンクが女性に対して行うサービスにギャップを生じさせることになります。
世界レベルで考えた時に、もし、現存の個人顧客に対する住宅ローンや、その他の与信承認において、女性が男性と同じ割合で承認された場合、銀行は650億ドルを生み出すことができると、私たちは分析しています。
この金額には、女性が経営する中小企業への、ローンを通じた300億ドルの純金利収入が伴います。同様に、現在、女性は男性に比べて、資産の多くを株式や債券よりも現金で保有しています。ウェルス&アセットマネージャーは、女性の資産投資を男性に対する場合と同じようにサポートすることで、新たに250億ドルの手数料を得ることができるでしょう。
さらに、保険会社が女性に対して、収入に占める比率を男性と同じ割合にして生命保険を販売した場合、5,000億ドルの新たな計上保険料が見込めます。また、コーポレートおよびインスティテューショナルバンキングの分野では、銀行が女性顧客と良い関係を築き、競合他社よりも大きなシェアを獲得すれば、現存の800億ドルの収益が、さらなる効果を現すことにもなるでしょう。
ジェンダーバランスを正すことは、社会や特定の企業にとって良いだけではなく、ビジネスにとっても絶対的に良いことなのです。
ジェンダーギャップの解消は、付加価値ではない
現在、私たちが置かれている、不安定かつ急速に変化する時代にビジネスを展開する上で、金融サービス企業は、労働力としても、顧客としても、女性の存在を見過ごす余地はありません。欧州では、近いうちに経済への逆風が強まることは明らかで、景気後退はほぼ確実と考えられています。歴史的に見ると、経済が不況に陥った時、ジェンダーバランスの問題は後回しにされ、「取り組むべき課題」としてよりも、「取り組むことが出来れば、それに越したことはない課題」として捉えられてきたことを、私たちは過去の分析によって明らかにしています。
経営陣に占める女性比率を向上させることは、能力や経験、知見など、目に見えない価値の多様性「タスク型ダイバーシティ」の拡大と、創造性の強化につながる点から、危機に対処する上で大きな役割を果たすことが期待できます。少なくとも、このことを企業や組織は理解しておくべきでしょう。
ジェンダーバランスを改善させることで生まれる文化的な変化は、企業が顧客を含めたすべての利害関係者のニーズを理解し、反映させようと取り組む中で、組織内の意思決定を助けるだけでなく、顧客に向けた商品開発にも役立ちます。商品開発が活発化し、異なる視点からデータに向き合うようになり、それが新たな提案へとつながります。新たな視点から、無給の家庭内労働、柔軟かつ目標を見据えた資産アドバイス、育児休暇を踏まえた住宅ローンのアドバイス、これらを考慮した生命保険の提案なども考えられるでしょう。究極的には、このような提案は女性のみならず、すべての顧客に歓迎されるものとなるのです。
同様に、企業がジェンダーバランスや、偏見の問題に積極的に取り組むことで、従業員のモラルや才能ある人材の採用、さらにはブランドや企業の評判に至るまで、あらゆる面で良い効果が現れるようになります。ジェンダーバランスの取れた職場は、効率の良いビジネスを実現し、組織外では、社会全体における平等の促進を助けることにつながります。
このように、より幅広いアプローチを展開していく中で、ジェンダーバランスは、最終的に各企業の目的、顧客サービス、ビジネス戦略、ブランドにおいて中心的役割を果たすようになるでしょう。そのため、ジェンダーバランスはもはやCEOの選択の問題ではなく、変化を実現する権限を持つCEOのコミットメントにより、実現されるべきことなのです。
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