アートとカルチャー

ソーシャル・チェンジをもたらすアーティストが必要な理由

Bringing art down to earth: Entrepreneurs focus on real-world challenges

アートを身近なものへ: 起業家は、現実世界の課題を重視 Image: REUTERS/Peter Nicholls

いわば、アートとは . . . 道義を表すもの、私たち人間の信念を表すものである。それらがなければ、まったくアートとは言えない。

アイ・ウェイウェイ

「アート」と「ソーシャル(社会的)」はどちらも非常に幅広い意味を持つ言葉です。そして、このふたつの言葉を組み合わせると、意味合いは何倍も複雑になります。「アート」は、個人が何気なく作ったものから、公的な政治的マニフェストまで様々なものがあります。「ソーシャル」とは、定義によると、他者の態度、行為、関係性、交流、関心、意思、ニーズを考慮していることを指します。

社会起業家には、ふたつの概念が同時に含まれます。両者はかけ離れた意味を持ち、共通点があまりないように見えますが、起業活動と社会的使命の融合は、現代社会が抱える深刻な社会問題や環境問題への解決につながると期待されています。高いレベルのイノベーションや、戦略・実行・管理の知識に資金を結びつける起業活動には、非常に大きな力があると広く考えられています。自己の利益と公共の利益のバランスを取り、また、資金の持続性と社会的成果・イノベーション・実行性のバランスを取るムーブメントは、この40年の間に生まれものです。

現代における理想的な起業家や経営者とは、リチャード・ブランソンとマザー・テレサを合わせたような人物と言えるでしょう。社会起業活動の支援に関して世界をリードしているシュワブ財団アショカによると、より良い社会を願う心を持ち、自らの頭脳と手腕を最も効率的に使う方法を知っている複合型人材が、現在約4,000名いるとされています。このような人材支援は間違いなく成功するはずです。実際、創造性に富んだ多くのアイデアが出ており、何百万もの人が確実にその恩恵を受けています。システムの変化は世界中で起きていて、その典型的な例が、ウィキペディア、フェアトレード、マイクロクレジットです。

eBay、テスラ、Airbnb、Uberなども当初、社会的な問題への対応から始まり、グローバルな市場を開拓しました。例えばeBayの市場では、買い物に不便な地域に住む人々もアクセスできます。高い利益を上げているこの企業が社会変化のために取り組んでいると思うかどうかは、ここで議論することではありません。これらの企業は、数十億人がアクセスでき、数十億ドルを企業の金庫にもたらすような市場を、革新的な技術の進歩によっていかに生み出すかを示すために、よく取り上げられる単なる代表例です。

では、リチャード・ブランソンをピカソやモーツァルトと掛け合わせるとどうでしょうか。アートの価値と経済の価値を組み合わせることに真剣に取り組んだら、どのような高め合いが生まれるでしょうか。「アート」と「社会的アート」の間の違いは何でしょうか。

社会変化のためのアートをどう定義するか

社会変化のためのアート(ASC)は従来のアート作品とは異なり、特定のスタイル、流派、ムーブメントに属するものではありません。ASCは展示施設や、ステージ、スクリーン、印刷物、その他いかなる素材も、演じ手、観衆さえも必要としません。新たな社会秩序を定義し、社会に関わる上でこれまでとは異なるアプローチ方法を取り、新たな手段、新たな感覚で、新たな環境を設定します。しかし、人々の交流と発展を推進するという目標は、他のアートと共有しています。作品そのものではなく、社会に変化をもたらすためのプロセスがASCなのです。そのため、社会問題の解決を目指すのではなく、それを評価する新たなアプローチ方法を取っています。

これにより、アーティストは新たな立ち位置に置かれます。アーティスト自身や彼らの作品はもはや中心的存在ではありません。アーティストは正確には触媒として捉えられ、観衆との関係を作り上げ、その関係を維持します。ASCは作品の内容よりも、参加や関係の側面に重点を置いているのです。

ASCはどのような場所で可能なのか?

ASCはコミュニティーと共に取り組み、コミュニティーのために存在するものです。単なる象徴ではなく、現実の環境で、社会的・政治的変化を求めて活動します。それぞれのプロジェクトは社会問題を反映したもので、アート作品が作られるコミュニティーがその活動に関与するようにします。その結果、アーティスト、クリエイター、プロデューサーは取り扱う社会問題に自分を深く重ね合わせ、個人、組織、環境と関係を作り出します。作品に関わる人々との深いつながり、共感、協力がなければASCの作品を作ることは不可能です。アーティスト、クリエイター、プロデューサーがまずやるべきは、信頼を得て、「私たち」と「彼ら」との間の心の分断を乗り越えることです。それゆえ、コミュニティーや環境は、単にそれぞれのプロジェクトに外から影響を与える要素なのではなく、内在化された一部分なのです。

アートを作る環境に関して、制限はありません。道路、ガレージ、バス、ホテルの部屋など、ASCはどこでも可能です。ギャラリーや博物館で展示したり、メディアで流したり、ウェブで配信することができます。組織の垣根を越え、音楽が流れるのと同じで場所を選びません。その結果として、アートへの親しみが少なく、文化の世界に触れた経験や知識が少ない観衆に広く届けることができるのです。

ASCの未来

私たちは誰もがこの世界をより良いものにし、社会の分断を緩和し、公共の利益になるための解決策を探ろうと努力しています。社会起業活動は経済に付加価値をもたらし、教育機関の中に浸透し、さらに政治家の間で議論され、メディアで取り上げられています。これまで、社会変化のためのアートの力は十分に利用されてきませんでした。つまり、社会の中にある様々な枠を超えるレベルまで届いておらず、依然として世の中の大部分の人から遠く離れたものとなってしまっています。これは単にお金のある人だけが恩恵を受けるという「ペイウォール(有料の壁)」の問題ではありません。これは考え方の問題、あるいは、アクセスできる環境が十分に整っていないことにより、恵まれない状況にある人々がアートや文化の良さを体感することができていないことが問題なのです。しかし、システム的にアートとコミュニティーを結びつけるためには、欠けているのはほんの小さなピースだけなのではないでしょうか。

30~40年前に社会起業活動という考えが生まれた時、営利と非営利の世界の間には埋め難いギャップがあると考えられていました。私利と公益の世界は結びついておらず、不信感と疑念を持って互いを見ていました。

10年前、「社会起業家(social entrepreneur)」という言葉は全く知られていませんでしたが、今では既存の構造の中で社会変化をもたらす人材を表す、いわゆる「社内起業家(social intrapreneurship)」という派生概念も生まれています。

今、さらに「アート起業家(artepreneur)」、つまりアートを通じて社会的使命を追求し、革新的で未来につながる、成果が目に見えるモデルを作り出す人たちが求められています。

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