ソーシャルディスタンス、渡航禁止、隔離措置により現地調査が中止され、新型コロナウイルス感染症は科学研究に影響を及ぼしている。
研究助成金の申請は保留となり、学会も中止された。
「この危機により、次世代の研究者は支援を受けられず、あらゆる研究分野に悪影響が及んでいる」と、グリフィス大学の准教授兼主任研究員、ローレン・ボールは記している。
2020年は、私を含む研究者にとって大きな期待を抱かせる年だった。前年、私は第1回のオーストラリア国立保健医療研究評議会(NHMRC)研究者助成制度に採択された。博士号を取得してから6年後、私はヘルシー・プライマリー・ケア研究チームを立ち上げることができた。
私たちは、健康的な食事や運動といったウェルネスの原則を、特に一般診療において、医療にどのように取り入れるかを研究している。私は夏の間、影響力と研究成果の実社会への応用に重点を置き、今後5年間にわたってチームを支援する方法を計画した。
大きな計画が進行中だった。胸躍る時期だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の危機において、医療におけるウェルネスは優先事項ではないことが明らかになった。
パンデミックが長引くなか、世界各地の大手組織は(特に製薬会社は)当然ながらすべてを中断し、ウイルス対策に全力を注ぐため手を組んだ。
突然の喪失
私のチームのプロジェクトの多くは、データの収集や提供を医師、看護師、その他の医療従事者に頼っていた。パンデミックで医療現場に負荷がかかるなか、研究を続けることはもはや不可能だった。研究助成金の申請、国内外の渡航、学会、会議はすべて中止または無期限延期となった。
指導者として最もつらかったのは、診療所でのプロジェクト開始に向けて手配していた研究学生やインターンに、参加を取りやめてもらうことだった。このパンデミックは、私たちの研究の妥当性、影響力、生産性に疑問を投げかけている。
この衝撃は、壊滅的な山火事が発生した夏の直後に起きた。火災の被災地域から専門家を退避させ、広範囲の機材を破壊した山火事は、研究の進展を妨げ、一部の研究を「数か月、あるいは数年遅らせた」と報じられている。
現地調査の中断
ソーシャルディスタンス、渡航禁止、隔離措置により、世界中の科学的な現地調査はほぼ完全に停止している。
連邦農業・水・環境省が主導するオーストラリア南極プログラムは、必要不可欠な職員のみに縮小された。南極大陸で新型コロナウイルス感染症の発生を防ぐためだ。次の夏季シーズンには探検隊員500人を派遣する予定だったが、オーストラリア南極局が派遣するのは約150人にとどまる。
ソーシャルディスタンス措置は、気候科学者が研究所を訪問することも妨げている。パンデミックが続けば、重要な気象・気候観測に支障が出るおそれがある。研究再開に備え、実験動物の命を守ることだけを唯一の任務とする不可欠な職員1人だけで運営する研究所もある。
遅延は、ダークマターの性質を解明する世界最大級の取り組みにも影響を与えた。XENON実験はイタリアを拠点とし、価値は3,000万米ドルを超えると、ニューヨーク・タイムズ紙は報じている。今年初めに同国がロックダウンを余儀なくされた際、この実験は数多くの障害に直面した。
若手研究者が機会を失う
若手研究者にとって、ソーシャルディスタンスやイベントの中止は、専門性を高めるうえで特に大きな痛手となる。学会や会議は協力を促し、雇用の機会につながることもある。
資金提供の中止や助成制度の遅延は主に研究実績のある研究者に影響するが、若手やポスドク研究者を支援する制度も延期されている。たとえば、レベッカ・L・クーパー医学研究助成制度や、グリフィス大学ポスドク・フェローシップ制度がある。
この危機により、次世代の研究者は支援を受けられず、あらゆる研究分野に悪影響が及んでいる。健康と疾病予防においては、ワクチン以外の研究も依然として欠かせない。新型コロナウイルス感染症が出現しても、慢性疾患の増加は止まっていないからだ。
前向きな面もある
オーストラリアには力強く情熱的な研究者層があり、新型コロナウイルス感染症の危機のような共通の課題に資源を振り向けることができる。ワクチン開発競争が続くなか、科学界以外の人々にも、研究の価値がこれほど明白になったことはない。これは、反科学的な言説を弱める助けになるかもしれない。
パンデミックは、将来の大学リーダーが大学運営、資金調達、ガバナンスに関する意思決定を理解する機会にもなっている。資金の出所に関する情報が、これほど容易に入手できる時代はなかった。
研究関連のオンライン会議や共同作業によって、参加しやすく、費用も抑えられるようになった。対面の集まりに参加できない人々、たとえば身体障害のある人、フルタイムで介護にあたる人、経済的困難を抱える人々の障壁を取り除き、参加の包摂性を高めている。国内外の移動が減ったことも、二酸化炭素排出量の削減につながっている。
前進を続ける
医療制度は通常どおり機能しておらず、それに伴って私のチームの研究も通常どおりには進んでいない。それでも、この不確実な時期にうまく方向転換している。私たちは、国内各地で関連研究を利用しやすくするため、オーストラリアのプライマリ・ケア分野初のオンライン会議の企画を支援している。
新たな助成機会では、新型コロナウイルス感染症を私たちの研究テーマに結び付けている。たとえば、オーストラリア王立一般開業医協会と病院貢献基金による、一般診療における新型コロナウイルス感染症に関するプロジェクトの特別公募がある。
新型コロナウイルス感染症以外の研究は今は必要ないと考える人もいるかもしれない。しかし、この病気を克服した後には必要になる。その時が来れば、私たちは中断したところからすぐに研究を再開できるだろう。


