アルミニウム業界は、電力の脱炭素化、クリーン技術の導入、リサイクルの拡大を通じて、間接排出と直接排出の脱炭素化を進めている。
脱炭素化への道筋によって必要な設備投資の水準は異なるため、投資額を、得られる脱炭素化の成果や排出削減量とより適切に結び付けるべきである。
脱炭素化への意欲と進捗を反映する一貫した定義とカーボンフットプリント測定手法を適用すれば、さらなる投資を呼び込める可能性がある。
科学的な計算から異常気象、消費者の嗜好の変化まで、重金属業界が脱炭素化を進める必要性を示す理由は数多くある。世界のアルミニウム業界は、世界の温室効果ガス排出量の約2%を占め、年間のCO²e(二酸化炭素換算)排出量は合計11億トンに上る。
この業界も、早急なクリーン化が求められている。アルミニウム需要は2030年までに40%増加すると予測され、排出量のさらなる増加を招く。鉄鋼業界に次ぐ世界第2位の金属産業であるアルミニウム業界でも、脱炭素化の潮流が広がっている。
この必要な変化を促すため、アルミニウムの大手企業購買者の一部は、世界経済フォーラムの「First Movers Coalition」のメンバーを含め、2030年までに一次アルミニウムの総購入量の少なくとも10%を、深く脱炭素化されたアルミニウムに振り向けることを自主的に公約し、公表している。このアルミニウムは、排出量を80%削減して生産され、世界の業界平均を下回る。こうした強い需要シグナルとともに、これらの購買者は脱炭素化によるグリーン・プレミアムを支払うと約束しており、意欲と進捗、そして大幅な脱炭素化に必要な画期的技術への投資に報いる。
それにもかかわらず、業界全体で大幅な脱炭素化を実現する画期的技術への大規模な設備投資は、明らかに不足している。なぜだろうか。
アルミニウム業界の脱炭素化の道筋と関連コスト
エネルギー消費量と関連するカーボンフットプリントが最も大きいアルミニウムの工業プロセスは、次のとおりである。
1. アルミニウム製錬の主な方法である、エネルギー消費量が非常に大きい電解プロセス
2. 電解プロセスで使用する炭素陽極の製造
3. ボーキサイトをアルミナに精製するバイヤー法
4. ボーキサイト鉱石そのものの採掘
水力発電などの再生可能エネルギーを以前から利用できる生産者は、すでに環境配慮を訴求し、それによるグリーン・プレミアムを得るうえで有利な立場にあり、現在、市場に供給する一次アルミニウムは、総一次生産量の約30%に上る。しかし、再生可能エネルギーを従来から利用できる環境にない生産者にとっては、その価格、供給可能性、発電量の変動が競争力に大きな課題をもたらし、脱炭素化への移行を遅らせている。
複雑な生産プロセスからの直接排出を削減するには、画期的技術と、時間(試験的な実証)、資金(大規模な設備投資、価格競争力の未達)、人材(新たな技能の育成)に関する大規模な投資が必要である。この道を選ぶ動機となるのは、知的財産権で保護された新技術をさらに大規模に展開できる可能性と、世界の一次供給量の一桁台の割合にすぎない現在の追加的な一次アルミニウム生産量を、化石燃料を使う代替手段とコストで競争できる水準まで拡大できる可能性である。それにより、脱炭素化された一次アルミニウムへの拡大し続ける需要に応えられる。それまでは、脱炭素化の度合いが高いアルミニウムの需要が大きい一方で供給が少ないという大幅な需給の不均衡を背景に、買い手と売り手双方の合意に基づいてグリーン・プレミアムが形成される。
アルミニウムのリサイクルは、アルミニウム総生産量に占める割合の拡大が見込まれ、業界の脱炭素化を大きく進める手段とみなされている。再生アルミニウムの製造に必要なエネルギーは一次アルミニウムの製造より95%少なく、二次アルミニウムは、その製造方法自体によって環境負荷が低い。
これまでに生産された15億トンのアルミニウムをスクラップ化し、再生アルミニウムの生産を拡大するには、スクラップの回収、選別、選択、分別に向けた新技術やプロセスへの追加投資が不可欠である。しかし、こうした投資は、直接排出の削減や新たな画期的技術に必要な投資よりはるかに少なく、後者には数十億ドルが必要となる。さらに、この脱炭素化の道筋は、スクラップの供給量によって制約される。
脱炭素化されたアルミニウムの種類、それぞれに伴う脱炭素化コスト、環境配慮の訴求内容、関連するグリーン・プレミアムを明確に区別すれば、公平な競争環境が生まれ、業界の脱炭素化に向けた有意義な大規模投資を促せる。
アルミニウム業界の脱炭素化を成功させる3つの基本要素
業界が直ちに直面している3つの課題は、低炭素をめぐる用語、カーボンフットプリントの測定手法、そして脱炭素化技術の導入に対するグリーン・プレミアムに関係している。
1. 脱炭素化されたアルミニウムの種類を明確に定義する
現在、「低炭素」という用語は、再生可能エネルギーと画期的技術を用いて製造した一次アルミニウムに使われている一方、二次アルミニウムにも使われている。後者では、スクラップの調達元や種類、それに伴うカーボンフットプリントが必ずしも開示されていない。
一次アルミニウムと二次アルミニウムでは、脱炭素化の道筋も関連コストも根本的に異なる。それにもかかわらず、両者の生産者は、「グリーン」「ニアゼロ」「ウルトラロー」「低炭素」など同じ、または類似した用語を使い、内包する排出量や排出削減量が異なる製品を表している。その結果、低炭素アルミニウムに対するグリーン・プレミアムが、必ずしも直接排出の削減に報いるとは限らない。
2. カーボンフットプリント測定手法を一貫して適用する
業界の排出削減に向けた進展は、業界固有のカーボンフットプリント測定手法を一貫して適用できるかどうかにも大きく左右される。カーボンフットプリントに基づいて異なる一次アルミニウム製品を比較できるようにするには、統一された排出境界を用い、製品レベルで単一の手法を確実に適用することが不可欠である。
最も広く用いられている「ゆりかごからゲートまで」と呼ばれるカーボンフットプリント測定手法は、採掘から製錬所の鋳造工程までの排出量を対象とし、(スコープ1、2および上流のスコープ3排出量)を含む。これをアルミニウムの唯一のカーボンフットプリント測定手法として義務付けるべきである。そうすれば、公平な競争環境が整い、比較可能な製品カーボン表示を業界全体に普及させられる。
3. 脱炭素化の進捗と意欲に応じたグリーン・プレミアム
業界横断的なネットゼロへの移行には、2050年までに年間平均9.2兆ドルの支出が必要と考えられている。一次アルミニウムの大幅な脱炭素化に貢献する複数の画期的技術によって、業界の直接排出量を大きく削減できると見込まれる。早期のイノベーターや導入者には、新技術と関連技術への投資、そしてその導入に伴うリスクに対し、脱炭素化を促すグリーン・プレミアムを通じて報いるべきである。
業界で大幅な脱炭素化を実現するには、名目だけの「グリーン・アルミニウム」ラベルでは不十分だ。しかし、グリーン・アルミニウムの種類と、それぞれに必要な脱炭素化によるグリーン・プレミアムを区別し、製品の排出量という結果だけでなく、排出削減を優先して環境面での意欲と進捗を反映させれば、実現できる可能性がある。




