シリコンバレー、ヘルシンキ、ドバイ、深圳、ベンガルール、シンガポールに共通するものは何だろうか。いずれも、成功したイノベーション・エコシステムを持つ都市または地域である。世界中の人材を引きつけ、未来を形づくる革新的な企業を呼び込む磁石のような存在だ。官民の関係者による連携が成功していなければ、どの地域も発展を遂げることはなかっただろう。世界は、こうした成功例をさらに生み出す必要性を認識しているが、そのエコシステムは包摂的で持続可能な成長を支えなければならない。
企業は常に、世界規模の環境下で生き残りをかけた競争を強いられてきた。そのため、イノベーションが常に企業の重要課題であったことは驚くにあたらない。近年では、地域政府や市政府もイノベーション・エコシステムを優先課題に掲げるようになった。その経済的、社会的な恩恵を理解するようになったからだ。官民両セクターのリーダーたちは、イノベーション・エコシステムが生み出す経済的価値だけでなく、それ以上に、雇用の創出や人材を引きつけ定着させる機会の提供を通じて育まれる社会的価値を重視している。
イノベーション・エコシステムやクラスターは新しい現象ではないが、デジタル、生物、物理の各分野における近年の技術進歩の急激な加速は、そうした仕組みを意識的に増やす取り組みを促す重要な要因となっている。とりわけシリコンバレーの成功は世界中の羨望を集め、さまざまな地域がそのモデルに倣うきっかけとなった。
一例がニューヨーク市だ。同市は、シリコンバレーに着想を得たテクノロジー主導のイノベーション・エコシステムを築き、経済面での主導的地位を将来にわたって確かなものにしようとした。ブルームバーグ市長の意欲を原動力に、市は2011年、活気あるイノベーション・エコシステムの人材拠点となる大手技術系大学を誘致するため、世界規模のコンペを開催した。コンペで選ばれたコーネル大学は、イスラエルのテクニオンと連携し、ルーズベルト島にコーネル・テックを設立した。
コーネル・テックの成功は、大学が民間・公共双方の主要な地域関係者と連携し、活動するために取り入れた数々の新しい手法によって後押しされてきた。たとえば、コーネル・テックの一流研究教授には、授業時間の一部を地域の中学校で過ごすことが求められている。民間企業もコーネル・テックのキャンパス内にスペースを借りてイノベーション・ラボを設置でき、優秀な教員や学生との連携を深められる。
シリコン・サバンナはサハラ以南のアフリカにあるテクノロジー・イノベーションのエコシステムで、新興市場の中でも最も急速に成長しているものの一つだ。インテル、IBM、マイクロソフトなどの企業は、200社を超えるスタートアップの成長を支えるため、10億ドル超を投資してきた。他のエコシステムとの興味深い違いは、シリコン・サバンナの企業が、駐車や洗濯物を畳む作業を助けることではなく、市場の解決策が機能してこなかった現実の問題の解決に取り組んでいる点だ。
テクノロジー企業BRCKは、太陽光発電のルーターとタブレットを使い、電力網の届かない地域の学校をインターネットに接続している。AB3Dは電子廃棄物を、義肢を製作する手頃な価格の3Dプリンターへと再生している。モバイル送金企業Mpesaの飛躍的な成功に加え、地域政府が新たな海底光ファイバーケーブルに大規模な投資を行ったことで、安価で信頼性の高いブロードバンドが実現した。東アフリカの平均通信速度は米国より速い。これがシリコン・サバンナの成長に大きく寄与してきた。今後も成功を続けるには、シリコンバレーを再現するのではなく、固有の競争優位性を活用し、差別化につながる強みに注力することが鍵となる。
イノベーション・エコシステムは経済的、社会的価値の創出に重要な役割を果たす。だからこそ、現在のエコシステムが世界的課題の中でも最も差し迫った問題、すなわち包摂的で持続可能な成長の支援に十分取り組んできたかを問わなければならない。多くの場合、その答えは心強いものではない。シリコンバレーやボストンなどの地域でイノベーション・エコシステムが目覚ましい成功を収めている一方、米国の広い範囲、とりわけ農村部には、その恩恵がほとんど及んでいない。
ブルッキングス研究所によると、2008年の金融危機以降、米国の雇用増加の72%は、国内上位53の大都市圏に集中している。都市と農村の隔たりは、米国だけでなく、フランス、イタリア、英国など他の多くの先進市場でも、ポピュリズム的な政治思想の台頭につながってきた。エコシステムを擁する地域の中でも、成功の恩恵が均等に分配されることは少ない。シリコンバレーやボストンでは家賃や住宅価格が高騰し、多くの人にとって暮らしが手の届かないものになっている。
私たちは、世界経済フォーラムのイノベーション・エコシステムに関するグローバル・フューチャー・カウンシルの共同議長を務め、包摂的で持続的な世界の成長を促進する方法について知見を提供している。メンバー間の初期の議論から、次の四つの重点分野が明らかになった。
1. 新たな資金調達の仕組みを設け、長期的な視点に立つ資金だけでなく、収益性とともに包摂性を重視する資金を提供する。
2. 包摂的な調達を進め、調達先の裾野を広げてイノベーターに公平な機会をもたらす。調達戦略は成果を重視し、包摂的で持続可能な成長を支えるものでなければならない。
3. エコシステムのマッピングを行い、イノベーション・エコシステムのさまざまな関係者のつながりを示す枠組みをつくる。これにより、新たな参入者を受け入れ、支援することで、システムをより包摂的で持続可能なものにできる。
4. 新たなエコシステムの加速、とりわけ、世界の中でも課題の多い地域における包摂的なイノベーション・エコシステムの加速を図る。この分野で得られた教訓や優良事例を記録し、共有する必要がある。
上記のテーマは、ダボスで開催される2019年世界経済フォーラム年次総会の参加者の多くが持つ専門性や関心分野と重なる部分がある。包摂性を備え、持続可能な成長を支えるイノベーション・エコシステムの構築を支援するため、参加者の皆さまにぜひ連絡を取り合い、協力していただきたい。これは私たち共通の取り組みであり、共に成功を収めなければならない。

