AI時代に迫るリーダー育成の危機、企業はいま何をすべきか

エントリーレベルの仕事は、単に成果物を生み出すためだけのものではありません。 Image: Unsplash/Brooke Cagle
- AIは次世代のマネジャーを育ててきた従来のエントリーレベル職を減少させており、近い将来、リーダーシップ不足という危機を招く可能性があります。
- 職場における人間の役割を守りながら、エントリーレベル業務を「生産」から「評価・分析」へと転換するための5つの重要なアクションがあります。
- 有望なアイデアをいかにスケール可能なインパクトへとつなげるかは、2026年6月23日から25日に中国で開催される世界経済フォーラムニュー・チャンピオンズ年次総会(通称「サマー・ダボス」)の主要テーマの一つです。
今、多くの組織が見過ごしている人材上の課題があります。この課題は四半期決算の説明会には現れることも、来年の人員計画にも反映されることもないかもしれません。しかし、企業が今のうちにこれを組織設計上の欠陥として捉えなければ、今後5年以内に深刻なリーダーシップ不足に直面する可能性があります。
AIは私たちの生産性を飛躍的に高める一方で、これまで次世代リーダーを育成してきたエントリーレベル社員の経験そのものを根本から変えつつあります。
すでに市場にはその兆候が現れています。ハーバード大学の研究によると、生成AIを導入した企業では若手層の雇用が9%減少し、エントリーレベル採用は2023年以降、四半期ごとに80%低下しています。また、ZipRecruiterの「2026 Graduate Report」によれば、エントリーレベル職の割合は2026年初頭に38.6%となり、3年前の44%超から大きく低下しました。
これまで若手社員が担ってきた初歩的な業務は自動化されるか、より上位層に移管されつつあります。その結果、中間層の業務負荷が高まり、将来的にはリーダー育成のパイプラインが滞る可能性があります。
「雑務」の終焉なのか
エントリーレベルの仕事は、単に成果物を生み出すためだけのものではありません。実際には、体系的な学習環境としての役割を果たしてきました。
手作業でモデルを構築する若手アナリストは、モデルが誤っている場合に気づく直感を身につけます。メモを作成し、上司から修正を受ける新入社員は、自らの考え方に対するフィードバックを通じて判断力を磨きます。また、難しい顧客対応を経験する新卒社員は、研修では学ぶことのできない精神的な強さを培います。
AIが若手人材のキャリア初期に及ぼす影響について、世界経済フォーラムは、かつて自信や能力を育む土台となっていた定型的、反復的な業務が自動化されるなかで、社会に出る世代の姿を描き出しています。今日の若手プロフェッショナルには、入社初日から分析力や洞察力、適応力を発揮することが求められています。しかし、そのために必要な経験や成長の機会が十分に提供されていないケースも少なくありません。
最も影響を受けながら、最も支援が不足している世代
Cornerstoneが2,000人の労働者を対象に実施した調査によると、Z世代はAIによる職務変化を最も強く感じており、38%が「AIによって仕事に求められる内容が根本的に変わった」と回答しています。一方で、その変化に対応するための正式な研修を受けた割合は最も低い水準でした。職場でAIを利用しているZ世代の59%は、組織から正式なAI研修を受けたことがないと答えています。
これは、「若い世代はAIに強いので支援はそれほど必要ない」という一般的な見方とは正反対の結果です。十分な支援がない中で若手社員は自己流でAIを活用せざるを得ず、その結果、承認されていないツールやルール外の利用、いわゆる「シャドーAI」のリスクが高まっています。
失われつつあるのは仕事そのものではなく、「実践の機会」です。エントリーレベル職はこれまで、優先順位の付け方、失敗からの立ち直り方、不確実性の伝え方、信頼関係の築き方などを学ぶための反復訓練の場でした。AIがその反復業務を担うことで、組織は効率性を高められる一方、将来の有能なマネジャーや地に足のついたリーダーを育てる育成経路を失う危険があります。
AI時代の「徒弟制度」を再構築する
AIはすでに企業活動の基盤インフラとなっています。だからこそ、リーダー育成もまた意図的に設計し、測定し、継続的に改善していく必要があります。
1. 再設計された業務の中で学習サイクルを守る
AIが業務を代替したからといって、その業務を単純に削除してはいけません。代わりに、成果物のレビュー、前提条件の検証、提案内容の精査、例外案件への対応といった「判断力を鍛えるサイクル」に置き換えるべきです。
AIは非常に優秀な結果を出すこともありますが、重大な誤りを犯すこともあります。その違いを見抜く力を育てる必要があります。
AIには草案や選択肢、シナリオを作らせ、人間、とりわけ若手人材にはそれを評価し、改善し、意思決定を正当化する役割を担わせるべきです。学びは「評価すること」の中にあります。
責任を担うための段階的な仕組みを構築する
市場では、若手社員により大きな責任を早い段階で与える傾向が強まっています。これは成長を加速させる可能性がある一方で、不要な失敗を招く危険もあります。
監督下での低リスクな意思決定から、独立した責任ある判断へと段階的に進める仕組みを整え、それぞれの段階で何が「良い成果」なのかを明確にする必要があります。
また、AIエージェントは業務の流れの中でコーチ役を果たし、その場で参考資料や事例、次のステップを提示できます。これにより、学習が形式的な研修だけに依存しなくなります。
マネジャーに成果だけでなく育成への責任を持たせる
若手の仕事が変化するなら、マネジャーの役割も変わらなければなりません。
単に「何をするか」を教えるだけでなく、「どう考えるか」を教える必要があります。そのためには、責任あるAI利用の基準や、エスカレーションのタイミング、不確実性の伝え方などを明確に示すことが重要です。
さらに、AIによる継続的な人材分析を活用することで、能力の成長や課題を早期に把握し、適切な指導やプロジェクト機会、学習機会を提供できるようになります。
社内人材流動性を新たなリーダー育成工場にする
変化の激しい環境では、異動や短期プロジェクトなどのストレッチアサインメントがリーダー育成の重要な手段となります。
こうした越境的な経験は、実践を通じて判断力を鍛え、固定的な職務よりも速く広い視野を身につけることにつながります。
例えば当社の「Cornerstone Gigs」プログラムでは、社員が所属チーム以外の短期プロジェクトに応募できます。新たなスキルの習得や既存スキルの応用機会を提供するとともに、組織に新しい視点や潜在能力をもたらしています。
AIは社員のスキルに応じて適切な機会を提示できるため、人材流動性を属人的な仕組みではなく組織的な仕組みへと進化させることができます。
AIによる能力形成不足を防ぐためのシンプルなガードレールを設ける
若手社員には、AI支援の利用を適切に開示し、成果物を検証し、思考そのものをAIに丸投げしないための明確な指針が必要です。
あらゆるアイデアをAI経由で生み出すようになると、自らの直感や判断力を育てる機会が失われる恐れがあります。
そのため、承認済みツールの利用、適切なプロンプト例、チェックリストなど、実践を支える軽量なガバナンスを組み込むべきです。
残された時間は限られている
真の競争力を左右するのは、AIを導入するかどうかではありません。AIの進化に合わせて人材育成の仕組みも進化させられるかどうかです。
人間の判断力を伴わない自動化は、成果を拡大するのではなく、誤りを拡大するだけです。
この変化は、「宿題を解く側」から「採点する側」へ移ることに例えられます。AIに支援された環境では、エントリーレベル社員は単なる生産者ではなく、評価者や意思決定者としての役割を担うようになります。
採点するには基準が必要です。また、何かがおかしいと感じ取るだけの専門知識と批判的思考力、そして権威あるように見えるシステムであっても必要に応じて異議を唱える自信が求められます。
世界経済フォーラムによる、仕事の未来の研究によると、2030年までにコアスキルの39%が変化すると予測されています。AIが仕事のあり方を変えると同時に、人材に求められる能力も変えていきます。失われた実践機会を意図的な判断力育成に置き換えられる組織は、テクノロジーとともに成長するリーダーシップ能力を蓄積していくでしょう。
一方で、効率化だけを追求する組織は、将来になってリーダー不足という大きな代償を支払うことになるかもしれません。
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