医療アクセス向上の革新的モデル「ソーシャルフランチャイズ」

開発途上国は、特に危機的状況において劣悪な健康アウトカムにつながる構造的課題に直面しています。ソーシャルフランチャイズが解決の一助となる可能性があります。 Image: REUTERS/Sumaya Hisham
- 開発途上国は、劣悪な健康アウトカムにつながる構造的課題に直面しています。
- 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のような危機的状況下では、こうした格差が壊滅的な結果をもたらします。
- 一方、南アフリカなど、ソーシャルフランチャイズ・モデルが、脆弱なコミュニティの医療アクセスを拡大する支援となっている地域があります。
新型コロナウイルスによる世界的かつ壊滅的な被害は、基本的な医療サービスを受けられずにいる数十億の人々に一次医療を拡大するという、喫緊のニーズがあることを浮き彫りにしました。
新型コロナウイルスによる超過死亡数の推計値によると、人口統計上の差異を調整した後でも、医療インフラの不十分な開発途上国が特に大きな被害を受けたことが示されています。
検査キットやワクチンの到着の遅れに加え、集中治療室の不足が重なり、極めて多くの死者が出ました。その結果、多くの人々がさらに深刻な貧困に陥ったのです。
現在の課題は、将来のパンデミックにより適切に対処できるよう、貧困地域のレジリエンスを向上させることです。
アフリカの医療課題
これは非常に大きな課題です。サブサハラ・アフリカは、世界の疾病負担の25%を背負っているにも関わらず、この地域には世界の医療従事者のわずか3%しか存在せず、支出される医療費は世界総額の1%にも足りません。
南アフリカなどの国々では、結核からHIV/エイズ、そして新型コロナウイルスに至るまで、複数の健康危機が公的医療制度を圧迫し、深刻な過密状態や長時間に及ぶ待機を招いています。
この大きな格差の解消には企業や非政府組織(NGO)による支援が強く求められますが、近年では、医療サービス提供者もこうした課題に直接取り組むようになりました。起業家精神と地域社会の福祉を融合させた、革新的な組織形態が取り入れられているのです。
中でも、「ソーシャルフランチャイズ」は、恵まれない背景を持つ医療従事者をエンパワーメントすると同時に、既存の医療提供者に見過ごされがちな遠隔地へ医療を届けるという、二重の利点をもたらします。
ソーシャルフランチャイズとは
ソーシャルフランチャイズとは、商業フランチャイズの原則を応用し、社会的インパクトを拡大する仕組みです。このモデルでは、実績のある社会的ビジネスコンセプトを持つフランチャイズ運営者が、恵まれない背景を持つ個人と協力し、彼らが独自のフランチャイズ診療所を運営できるよう支援します。
例えば、バングラデシュの農村部で展開されているソーシャルフランチャイズ「クリシ・ウツホ(Krishi Utsho)」は、数百のフランチャイズ店舗を運営。恵まれない人々が起業家としてマイクロビジネスを運営できるようにすることにより、市場へのアクセスが限られている農村コミュニティに、重要な農業資材を供給しています。
医療分野の場合、ソーシャルフランチャイズ運営者は同様に医療提供者を支援し、医療サービスが行き届いていないコミュニティに一次医療を提供する、医療施設のネットワークを開設、運営させます。
医療分野におけるソーシャルフランチャイズの構築
社会サービスへのアクセスを拡大する大きな可能性を秘めているにも関わらず、医療分野においてはソーシャルフランチャイズがあまり一般的ではありません。これは、規制の厳しい分野でフランチャイズのネットワークを調整するには、多大なコストとリスクが伴うためと考えられます。
これまでの調査によると、ソーシャルフランチャイズは、フランチャイズ運営者とサービス提供者の目的が相反する場合があるために、成長に苦労していることが示されています。
例えば、フランチャイズにより開設された診療所の財務的持続可能性と、医療サービスが行き届いていない地域社会へのアクセスを最大化するという使命とのバランスを取ることは、ネットワークメンバー間の対立を招く可能性があります。
最近発表された研究において、私たちは医療分野のソーシャルフランチャイズが、いかにして調整上の課題を克服し、規模拡大を実現しているのかを理解しようと試みました。
南アフリカの医療ソーシャルフランチャイズ、ウンジャニ
私たちは、135以上のかかりつけ診療所ネットワークを構築した南アフリカのソーシャルフランチャイズ「ウンジャニ(Unjani)」について、詳細な調査を行いました。
同団体のフランチャイズ診療所は、黒人女性看護師によって運営されており、低所得の農村地域コミュニティに手頃な価格の一次医療を提供しています。社会的目的を持つ民間非営利組織として、同団体は、南アフリカにおける債務超過の公的医療制度に代わる選択肢を提供。また、その診療所では、毎月8万人以上を診察しており、来院患者のほとんどは都市部以外に住む人々です。
分析の結果、フランチャイズ運営者がネットワーク全体に社会的インパクトを浸透させようとした試みが、個々の診療所に悪影響を及ぼしていることが明らかになりました。
手頃な価格とサービスの質を確保するために設けられた煩雑な手続きが、診療所の看護師たちの自律性を制限し、モチベーションを低下させ、機会主義的な行動を助長していたのです。これは最終的に、恵まれない背景を持つ医療従事者をエンパワーメントするという、この社会的フランチャイズ運営者の中核的な目標を損なう結果となりました。
ただし、だからといってこのモデルが機能しないわけではありません。同団体は、フランチャイズ内に支援的な社会的環境を構築することにより、全体として管理責任を持つ「ネットワーク・スチュワードシップ」という文化を育み、こうしたエージェンシー問題(主体者と代理人との間で利害の対立が発生すること)を克服しています。また、看護師が起業家と社会サービス提供者という二つの役割を両立できるよう、一貫したメンタリングを提供。さらに、オンラインと物理的な場の両方で、看護師がアイデアを交換できる非公式な「ケアの場」を立ち上げ、ネットワーク全体での相互扶助を促進し、レジリエンスを強化しました。
これにより、フランチャイズに加盟した看護師の間で責任を分かち合う意識を育み、ネットワーク・スチュワードシップにより、煩雑な調整手続きの必要性が最小限に抑えられました。メンバーが個々のクリニックだけでなく、ネットワーク全体の成功に充実感を見出すようになったからです。
ネットワーク・スチュワードシップの利点は、新型コロナウイルスのパンデミックの際に特に顕著になりました。当時、深刻な健康面および経済面の圧力に直面しながらも、同団体は事業を大幅に拡大することができたのです。
ネットワーク・スチュワードシップを育むことは、個々の看護師のレジリエンスを構築しただけでなく、フランチャイズ運営者にとって、成長と経済効率という目標と、恵まれない背景を持つ看護師が、成功した起業家や社会サービス提供者となることを支援するというコミットメントとのバランスを取るための枠組みにもなりました。
ソーシャルフランチャイズの意義
こうした知見は、ソーシャルフランチャイズがその成長段階において、ネットワークメンバー間で共有するアイデンティティを育み、メンバーの高次のニーズを満たすことにより、いわゆる「エージェンシー問題」を緩和できることを示唆しています。
このような戦略は、強い共同体意識や他者への配慮といった規範が特徴的な多くのアフリカ諸国で特に有望でしょう。一方、フランチャイズのネットワークが一定の規模を超えると、関係性の調整が非常に困難となるために、ネットワーク・スチュワードシップはあくまで暫定的な拡大戦略として機能するに過ぎない可能性があります。
そうであっても、同団体の経験が示すように、ソーシャルフランチャイズのような革新的モデルの適用により、開発途上地域における医療へのアクセスを拡大し、 脆弱なコミュニティが将来のパンデミックに対応するための能力を強化することができるのです。
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