港湾セキュリティの未来は、共同サイバー防衛にあり

港湾のサイバーセキュリティは、ガバナンスとエコシステムの課題です。 Image: REUTERS/Bart Biesemans
- 物流、産業、エネルギー、インフラが高度に相互接続されたエコシステムである港湾は、世界的に見ても最も重要な経済、物流の玄関口の一つです。
- 港湾および港湾を拠点とする産業クラスターにとって、サイバーセキュリティは根本的な技術課題であるだけでなく、エコシステムとガバナンスの課題でもあります。
- オランダの主要5港と、その港湾内で事業を展開する1,000社以上の企業による連携プロジェクト「フェルム・シーポーツ」は、サイバーセキュリティの競争ではなく協力を目指しています。
国際貿易の取扱量の約80%を担い、グローバル経済を支える港湾。単なる輸送ハブにとどまらず、港湾は海上輸送と広大な産業エコシステム、そして深く相互接続されたサプライチェーンを結びつける複雑な産業クラスターです。
同時に、港湾エコシステムのデジタル化と相互接続は一層進展し、結果としてサイバー攻撃に対して脆弱になっています。その一方で、依然として不可欠であるにも関わらず相互依存的な性質を持つために、多くの港湾で集団的なサイバーレジリエンスが欠如しています。オランダのイニシアチブは、協働を通じ、こうした課題への取り組みを試みています。
港湾エコシステムに集団的なサイバーレジリエンスが不可欠な理由
自動化されたターミナル、スマートインフラ、リアルタイムデータプラットフォームは、港湾を通る貨物の流れだけでなく、より広範な産業エコシステムにおける業務の調整、エネルギー管理、共有インフラの利用方法をも変革しており、港湾の効率化と相互接続性を高めています。
例えばロッテルダム港では、高度な寄港最適化と共有データプラットフォームにより、より予測可能かつ協調的な運営が可能になりました。
これにより、船舶の到着予測がさらに正確になり、待機時間が最大20%短縮。また、混雑が発生する前にバース、設備の配置、内陸部との接続を最適化できるようになりました。
ただし、このデジタル相互依存の拡大は、サイバー攻撃の対象範囲も広げます。一つのシステムへの障害が、港湾運営、産業パートナー、内陸輸送ネットワーク全体に急速に波及する可能性があるのです。
同時にサイバー脅威は、より標的が絞られ、洗練されたものとなっています。地政学的な動機によるものもあり得るでしょう。2025年の報告では、海事サイバーインシデントが103%増加。内容は、港湾運営システムの脆弱性の悪用、インフラを標的としたサービス拒否攻撃(DoS攻撃)、主要ターミナルを対象としたランサムウェアの被害などです。
例えば、サイバー攻撃の際にランサムウェアがターミナルのオペレーティングシステムを暗号化すると、コンテナの取り扱い作業が停止し、多大な遅延やグローバルサプライチェーン全体への波及効果を引き起こす可能性があります。
このような環境下でサイバーセキュリティに対処するには、港湾エコシステム全体にわたる集団的なレジリエンスが求められます。
オランダの取り組みは、国家および欧州の繁栄を守るために港湾のレジリエンスを高める、確固たる事例研究となっています。
同国の「フェルム・シーポーツ(Ferm Seaports)」プロジェクトは、港湾自身によって策定された「オランダ海港共同サイバー戦略」に基づき、オランダ港湾協会(Branche Organisatie Zeehavens: BOZ)、同国インフラ・水管理省、および国家安全保障・対テロ対策調整官(NCTV)との協力の下で設立されました。
この取り組みの前提は、港湾間では商業的な競争があるとしても、サイバーセキュリティとレジリエンスに関しては協力しなければならないということです。サイバー脅威は、組織構造、業務上の境界、市場競争を考慮しません。したがって、対応策もそれらにとらわれてはならないのです。
ガバナンスの課題への対処
港湾を拠点とする産業クラスターには、港湾当局、ターミナル運営会社、物流事業者、製造企業など、様々な主体が集まっています。各主体は、異なる規制上の義務、リスク許容度、サイバーセキュリティの成熟度を持っています。一方、彼らは共有インフラと密接に相互接続されたサプライチェーンに依存しています。
この相互依存関係により、責任の所在が曖昧になります。例えば、クラスター全体のサイバーレジリエンスについて、最終的な責任を負うのは、港湾当局、主要なオペレーター、それとも中立的な調整機関でしょうか。明確なリーダーシップと、強制力のある調整メカニズムが欠如している場合、サイバーセキュリティの取り組みには共通して「うまくいく方法」が欠けがちであり、取り組みはエコシステム全体ではなく断片化したままとなります。
さらに、信頼の障壁が協力を複雑にしています。商業的に機密性の高い情報、競争上の立場、評判への影響に対する懸念が、インシデントデータや教訓の共有意欲を制限する可能性があります。そのため、しばしばサイバーリスク管理はサイロ化され、その決定や不作為がもたらすシステム的な影響は十分に考慮されていません。

こうした構造的な課題に対処するため、同プロジェクトは以下の3つの補完的な役割を通じて活動しています。
- オーケストレーター:サプライチェーン全体にわたる共同脅威分析、シナリオ計画、サイバーストレステスト、およびエコシステム全体のインシデント対応計画を実施し、港湾や企業が共有リスクを理解し、単独では対処できない連鎖的な障害シナリオに備えられるようにします。
- ファシリテーター:信頼できる情報共有、コミュニティ構築、および同業者間の協力を促進します。これには、オランダ国家サイバーセキュリティセンターや海事セクターからのシグナルなどの情報源から情報を収集、分析する脅威インテリジェンスサービスも含まれます。技術的なアラートや複雑なセキュリティアドバイザリーは、港湾運営に合わせて調整された明確で実行可能なガイダンスに変換され、潜在的なビジネスへの影響と実践的な緩和策の説明もあります。
- 代表者:政府、規制当局、国際的な港湾ネットワークと連携し、国境を越えた脅威に対処。早期警告を可能にします。
同プロジェクトの強みは、セクター横断的なアプローチ、実務との密接な連携、そして参加を任意としながらも、すべてのステークホルダーに関連する課題での協力を促進することにあります。
港湾サイバーレジリエンスを実現する多層防御モデル
同プロジェクトは、関連する公的パートナーやステークホルダーによる支援を受け、主に3つの組織グループに焦点を当てています。
第一のグループは、船舶交通サービス(VTS)の運営者や係船サービス提供者など、海上交通の安全な取り扱いの基盤となる組織。これは港湾チェーンの中で最も重要なプロセスであり、貨物の流れ、物流、産業生産を可能にするもので、その影響は港湾エコシステム全体およびその域外にまで及びます。
第二のグループは、ターミナル運営会社や化学企業など、オランダ経済および欧州内陸部の継続性にとって重要なチェーンを形成する組織です。同プロジェクトはこれらの重要なチェーンをマッピングし、混乱が生じた場合に経済的、社会的な影響が最も大きくなる箇所を特定しました。
第三のグループには、正式には重要と指定されていないものの、日々の港湾運営において重要な支援的役割を果たす、港湾関連のすべての組織、つまり海運会社、造船会社、航海サービス提供者、および港湾内の非海事組織などが含まれます。
欧州における応用
同プロジェクトは、エコシステムレベルでの連携が、港湾およびそれに依存する相互接続された産業システムにおけるサイバーレジリエンスをいかに強化するかを示しています。
ロッテルダムを皮切りに、この取り組みはオランダの他の4つの海港へと拡大。これらの港湾全体で1,000社以上の企業が活動していますが、同プロジェクトは体系的な調整と情報共有を通じて、約80の組織を直接結びつけています。
また、平均して15の脆弱なシステムを特定し、週に約2件の緊急セキュリティ勧告を発出。これは、リスクにさらされている規模の大きさと、調整された監視および対応の価値の両方を示しています。
その成功の要因は、明確で共有されたビジョン、経営陣の強力なコミットメント、そして同国の5つの海港当局による支援・資金提供という持続可能な長期的な資金調達パートナーシップにあります。
そこから得られる教訓は港湾の枠を超えたものです。つまり、産業クラスターのデジタル化が進むにつれ、集団的なサイバーレジリエンスは構造的な必要条件となりつつあるということです。同プロジェクトのような取り組みは、競争ではなく協働こそが、重要な経済的ライフラインの継続性を守るための戦略的資産となり得ることを示しているのです。
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