オピニオン
AIがもたらす、人間性の学びの課題

AIによって、子どもの発達に不可欠な人間関係の摩擦を損なう恐れがあります。これは、世代を超えた実験です。
- 子どもの発達に関する100年にわたる実験は、AIが幼い子どもと関わる際に潜むリスクについて手がかりとなる可能性があります。
- 十代の若者はすでにAIコンパニオンに接していますが、子どもが幼ければ幼いほど、発達上の歪みが生じるリスクは高まります。
- 私たちは、つながり、協力し、互いを理解する能力、つまり人類の始まりから私たちの本質を形作ってきたスキルを守る、人間中心のAIを設計しなければなりません。
1930年、ウィンスロップ・ケロッグ教授とその妻、ルエラは、長男ドナルドを授かりました。我が子の誕生は同教授に、長年抱えていた疑問を検証する機会をもたらしました。チンパンジーを人間のように育てれば、ホモサピエンスの親戚として匹敵する能力を発達させられるのでしょうか。過去に同様の試みはあったものの、人間の習慣、スキル、文化を育む、日々の無数の微細な相互作用を再現するのは困難でした。そこで同教授は、息子のドナルドとチンパンジーを一緒に育てることにしたのです。
ドナルドが生後10カ月になると、ケロッグ家は生後7カ月の雌チンパンジー、グアを家族の一員として迎え入れました。グアとドナルドには、同じ物理的、感情的な安らぎ、活動スケジュール、行動への期待が提供されました。グアは急速に人間的な特徴を発達させ、より直立して歩き、言語を理解し、さらには(ほぼ)トイレトレーニングまで習得しました。
この驚くべき初期の発見は、この研究が人間と霊長類の発達を理解する上で貴重な知見をもたらすことを示唆していました。もしかすると、古くから続く「生まれか育ちか」という議論さえ解決するかもしれないと感じさせるものでした。しかし、そうした可能性にもかかわらず、同教授は9カ月後に実験を突然打ち切ります。ドナルドがチンパンジーのような行動を見せ始めたためです。
AIと子どもたち―人間の発達に関する実験
私たちは今、世界中の幼い子どもたちを対象に、同様の実験を行おうとしています。ただし今回は、人間ではないパートナーが機械である点が異なります。音声認識技術の進歩により、デジタルシステムが、流暢さに欠け、変動の激しい幼い子どもの発話を理解できるようになる日が間もなく訪れるでしょう。スワイプやタイピング、クリックといった操作の制約から解放されることにより、幼児は対話型AIを含む多様なデジタルツールを通じて、意味のある持続的な関わりを持ち続けることが可能となります。
対話型AIは、青少年や成人の働き方、学び方、愛し方を変容させています。幼児や就学前児童向けに最適化されれば、その影響は子どもの粘り強さ、社会的行動、人間関係を構築、維持する能力の発達にまで及ぶ可能性があります。
今後の展望
対話型AIは、幼児の関与を収益に転換する「アテンション・エコノミー」の中で登場します。2024年の米国保護者調査によると、3~5歳の子どもの10人中9人がスマートフォンやタブレットを利用可能であり、そのうち約半数が単独または主たる利用者です。また、就学前児童は、1日平均2時間以上を画面の前で過ごしていると報告されています。事業者にとって明確な経済的インセンティブは、その関与を最大化することにあるでしょう。広告、アプリ内課金、サブスクリプションなど、ビジネスの成功は子どもたちの関与を維持できるかどうかにかかっているからです。
幼い子どもたちが高度なAIを搭載したデバイスとシームレスに交流する際に何が起こるかを理解しようとするならば、少し年上の同世代の事例を観察するのが良い出発点でしょう。既存の対話型AIは、ユーザーがAIの「友人」とリアルタイムで継続的な個人チャットを行う、コンパニオンや助言者として振る舞うオンラインキャラクターとロールプレイをするなど、驚くほど十代の若者に人気を博しています。これらのコンパニオンボットへのアクセスは成人に限定されていますが、米国の十代の若者の4人に3人近くが対話型AIと交流した経験があると報告しており、半数以上が月に複数回利用しています。
十代の若者が対話型AIに関わる危険性については多くの論文があり、AIとの関係が若者の自傷行為や他者への危害につながった悲惨な事例も報告されています。一方、若者自身は、こうした交流の大半は無害であり、むしろ有益であると評価。中には、日々の愚痴を話す、助言を得る、孤独を感じた時に「誰か」と話すなどのために、AIコンパニオンを利用する若者もいます。また、現実の場面で試す前に、難しい社交状況をリハーサルする、課題や課題について話し合う、就職面接や紛争解決といったスキルを練習するなど、社会的に有益な方法で活用するケースも見られます。こうしたスキルはオフラインの実生活にも活かせるものです。
結局のところ、個々の対話型AIとのやり取り自体は懸念されるものではないかもしれませんが、心理学者らは、このような定期的な関わりがシミュレーションと現実の関係性の境界線を曖昧にする恐れがあると警告しています。米国心理学会(APA)は、青少年は大人に比べてチャットボットの正確性や意図を疑う傾向が低く、そのシミュレートされた共感を本物の人間の理解と誤認する可能性があると指摘。また、青少年とAIの関係が健全な現実の友情や家族関係を置き換える恐れがあり、不健全な依存関係を助長する可能性があると警告しています。また、初期の研究では、AIキャラクターへの強い愛着が、社会的スキルや現実世界での感情的なつながりを妨げる可能性があることが示唆されています。
ほとんどのティーンエイジャーは、AIの相棒に対して、その対話相手が血の通った人間とは異なるという基本的な認識を持って接しています。彼らはこれらのシステムを、人間の代わりではなくツールとして捉えているのです。若者は仮想関係よりも人間との関係を圧倒的に好み、80%が現実の友人をAIの相棒よりも優先すると答え、3分の2がボットとの会話は友人との会話よりも満足度が低いと述べています。彼らはAIの発言に懐疑的であり、誤情報、ディープフェイク、個人情報が悪用されるリスクを認識しています。
一方で、未就学児は、現実と空想の境界がまだ形成中であるため、年上の子どもたちのように距離を置いてAIと接することができません。ある事柄をどのように学んだのか(見たのか、想像したのか、教えられたのか)を自覚していないことが多く、AIが提供する情報を真実として受け入れる傾向が強いのです。また、未就学児は、非人間的な存在に対しても人間の思考や感情、意図を自由に投影します。目や鼻、耳を持つ対話型AIを提示されると、子どもたちはその行動に感情や意図、さらには親切さや意地悪ささえも容易に帰属させます。そして一度安心感を得ると、自身の居住地や生活の細部に至るまで、気軽に情報を共有するようになります。
ほとんどの幼児は、AIが人間とは異なる存在だと認識することができます。ただしこれは、現在のシステムが依然として機械的な特徴を示すためです。例えば、発話前の間が少し長すぎる、話す速度がやや速すぎる、声が機械的すぎる、大人が台本を読む際のような表現が使われるなどが挙げられます。
こうした特徴は、技術的に解決可能な課題です。具体的には、AIツールをカスタマイズし、低遅延の会話の受け渡しを実現すること、合成音声の機械的な性質を軽減すること、自然な言葉の詰まりや息遣いを含む表現豊かなパターンをプログラミングすること、子ども向けの語彙調整をモデル化、構築すること、一貫した人格と過去の会話の記憶を可能にすること、そして自然な視線や状況に応じたジェスチャーを模倣できる、友好的な機械にこれらを組み込むことが求められます。
このようにしてこれらの課題が解決されたとして、幼い子どもたちが人間と機械を確実に区別できるでしょうか。それは保証できません。AIが温かみのある、状況に応じた、子ども向けの会話に近づけば近づくほど、幼い子どもはそれを感情的で信頼できる友人と見なし、絆を深めていくでしょう。
機械のパートナーが人間に与える影響
ケロッグ教授の実験から1世紀が経ち、生まれと育ちの議論は決着しました。答えは、両方です。子どもの遺伝子は設計図を提供しますが、経験がその遺伝子の発現の仕方を形作ります。他の人間との相互作用は、こうした経験の中で最も必要かつ重要な要素の一つです。発達は、研究者が「サーブ・アンド・リターン」と呼ぶプロセスを通じて展開します。つまり、子どもが行動し、別の人間がそれに応答するのです。こうしたやり取りの繰り返しが、時間の経過とともに脳の構造を形成し、社会的、認知的発達のあらゆる側面に影響を与えます。
健全な発達には温かさだけでなく、適切な制限も不可欠です。子どもが挫折に直面した際、冷静で一貫した対応を受けることで、感情の管理、衝動の抑制、計画通りに進まない状況への適応を学びます。
また、幼児期から就学前へと成長するにつれ、仲間との関わりが発達の中核となります。人間関係の構築は時に困難を伴います。その主な理由は、5歳未満の子どもの多くが「他者も自分と同じように見たり、考えたり、感じたりしている」と信じているからです。他の幼児と数分間おもちゃを共有するだけで、その考えはすぐに覆されるでしょう。
子どもの欲求が互いに異なる際に生じる摩擦は、健全な発達に不可欠であり、それが共感力、忍耐力、理解力を育むのです。友達になる方法を学ぶ過程だと言い換えることもできるでしょう。友情を育む課程にある4歳児は、自分の考えや感情を伝え、妥協案を提案し、関係がうまくいかない時には調整することで、友情を壊すことなく対立を処理する方法を学びます。
幼い子どもたちが、決して「嫌だ」と言わず、決して誤解せず、決して立ち去ることのない対話型AIに依存していると、摩擦や挫折、修復の経験を逃す可能性があります。これらは人類の歴史を通じて、共存に不可欠なスキルを育んできたものです。
幼少期に私たちは、仲間から学ぶだけでなく、仲間と同じように振る舞うことを学びます。ケロッグ教授の実験は、このことを劇的に示した一例です。保護者は、子どもが家庭とは異なる、クラスの友達の習慣や話し方、価値観を身につける様子を日々目の当たりにしていることでしょう。対話型AIと日常的に交流する幼い子どもたちも同様です。
人類のために機能するAIの設計
2024年のベストセラー『The Anxious Generation(邦題:「不安の世代:スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由」)』において、著者はソーシャルメディアを導入した際、その影響を十分に考慮せずに「世代全体を実験台にした」として、テクノロジー業界と政策立案者を批判しています。
幼い子どもたちに向けた対話型AIの導入は、次の大きな実験となるでしょう。これらのデバイスやアプリケーションは、少なくともある程度、人間としての最も基本的な役割である幼い子どもを育てる仕事を奪う可能性があります。
現在なされている選択が、対話型AIが子どもの発達に与える影響を形作るでしょう。設計者、投資家、政策立案者には選択肢があります。基準を設けることにより、幼い子ども向けの対話型AIに、その非人間的な性質について透明性を保つことを義務付けることができます。また、設計規範により、未熟な自制心を悪用して過度な使用を促す説得力のある機能を抑制し、データ収集に制限を設けることにより、あらゆる手段で関与を最大化しようとする動機を減らすことができるでしょう。
これはイノベーションを拒絶するものではありません。幼い子どもたちが誤解や交渉、修復を含む現実の人間関係を通じて共感力、レジリエンス、協調性を育むことを証明している、数十年にわたる人間発達科学との整合を図るものです。対話型AIがより流暢に話し、応答性の高いものへと洗練される中、核心的な問いは幼い子どもたちがそれらと関わるかどうかではなく、その関わりが成人期まで続く感情的な習慣をいかに形成するかです。
対話型AIのプログラムが、人類の始まりから私たちの本質を形作ってきた「つながり」「協力」「理解」という根本的な能力を失わせないように、意図的に進め、協力して取り組む必要があるのです。
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