2019年以来、回復していない業務スキルとは

調査によると、人間中心型の業務スキルは2019年から2021年にかけて急激に低下し、パンデミック発生からほぼ5年が経過した現在も、パンデミック前の水準には回復していません。 Image: Unsplash/Scott Graham
- 調査によると、人間中心型の業務スキルは2019年から2021年にかけて急激に低下し、パンデミック発生からほぼ5年が経過した現在も、パンデミック前の水準には回復していません。
- 人間中心型の業務スキルは重要ですが、組織の投資は十分に行われていません。これらは職場で最も認識されていないスキルの一つであり、求人広告に登場するのはわずか2%です。
- 組織全体にわたる人間変革に向け、適応を促すシステムが必要です。コーチングによる介入を検証した査読付き研究では、コーチングを受けた参加者の業務スキルが著しく向上したことが示されています。
現代のテクノロジーや生産性ツールの利用が前例のないほど容易であるにも関わらず、組織全体で疲弊の兆候が見られます。現場の従業員は仕事への意欲を失い、管理職は意思決定に追われ、上級リーダーは権限を持つ直属部下たちが大胆な選択をためらう様子に頭を悩ませています。人々はこうしたヒューマン・スキルの弱さを嘆きますが、直感を裏付けるデータや変革の根拠を提示できていません。
6年間にわたるパフォーマンスの低下
2019年から2025年にかけ、コーチング企業のベターアップ(BetterUp)は、35万1,000人以上を対象に人間中心型の業務スキルとパフォーマンスの動向を追跡調査し、驚くべき事実を発見しました。人間中心のスキルはいずれも例外なく、2019年から2021年にかけて急激に低下し、パンデミック発生からほぼ5年が経過した現在も、パンデミック前の水準には回復していないのです。
人間中心のスキルの衰退は、将来の労働力準備態勢への懸念にとどまらず、すでに測定可能な業績への悪影響をもたらしています。業務効率性のあらゆる側面において最大6%の低下が確認されているからです。この低下傾向を踏まえると、現在の従業員を2019年の業績基準で評価した場合、約75%が現在の位置よりも低い業績層に分類されることになります。
この低下には単一の要因はありませんが、複数の要因が複合的に影響していると考えられます。具体的には、パンデミック後の長期にわたるストレス、経済的不安、地政学的な不確実性、ハイブリッドワークによる分断、バーンアウト(燃え尽き症候群)の増加、従業員の期待における世代間の変化、教育・訓練機関による人間中心のスキルの軽視などが挙げられます。さらに、AIやテクノロジーへの認知的負荷の移行や、スキルの衰退に対する懸念も高まっています。他のあらゆる経済指標と同様に、人間中心型の業務スキルも外部ショックや社会変化の影響を受けやすい性質を持っています。
皮肉なことに、こうしたスキルが低下している今、その重要性はかつてないほど高まっています。世界経済フォーラムによると、創造性と課題解決能力(一つのスキルセットとして統合)が金銭的価値の最も高いスキルとして浮上。一方、好奇心と生涯学習は変動の激しいVUCA環境における重要な生存能力であり、加速する変化に対応し続ける労働者を支えるものです。
AIが日常的な認知作業を自動化し、産業全体を再構築する中、創造性と課題解決能力、好奇心と生涯学習といったヒューマン・スキルこそが、競合他社に対する組織の重要な差別化要因として浮上しています。これらのスキルはAIで代替することができないばかりでなく、職場に及ぼすAIのプラスの影響を増幅させる可能性が高いのです。
可視性という課題
これらのスキルは重要ですが、組織の投資は十分に行われていません。人間中心型の業務スキルは最も認識度の低い業務スキルの一つであり、求人広告に登場するのはわずか2%です。これらの能力はパンデミック期間中に4%低下し、いまだ回復していません。
特に、好奇心と生涯学習のスキルは、雇用主によって人材の習得度が最も低いと評価されています。同社のデータで明らかになったその理由は、好奇心と生涯学習は、最も習得が困難なスキルだからです。基礎的な習熟度を得るには、スキル不足の学習者の50%に8カ月間のコーチングが必要です。また、実際にこのスキルを獲得するには90%の学習者が約24カ月を要し、完全な習得の域に達するのはさらに困難です。こうした可視性と投資の不足、習得困難な経験、外部からの衝撃が相まって、競争優位性を支えるスキルが枯渇する要因となっているのです。
最も深刻な影響を受ける独立職
独立職(Individual Contributor, IC)は、人間中心型の業務スキルにおいて最も急激な低下を経験しました。特に顕著なのは、創造性と課題解決、好奇心と生涯学習、レジリエンスと適応性、リーダーシップと社会的影響力の分野です。この衰退は、長期化した社会的孤立によって引き起こされた可能性が高く、いくつかの結果をもたらします。
弱体化したICは業績が低下するだけでなく、管理職の負担を増大させます。管理職は現在、この層に対してより深いメンタリングを行い、彼らの課題を解決すると同時に、ますます大規模かつ地理的に分散したチーム(AIの使用が義務付けられているチーム)を率いる必要があります。この悪循環の兆候は、すでに「ワークスロップ」という形で現れています。これは、AIが生成した低品質な成果物で、与えられたタスクを有意義に進展させる内容に欠けており、その負担を受取側に転嫁するものです。AIが強化された職場環境では、個人の能力の影響は大幅に増幅する可能性があります。一人ひとりの能力が重要です。
従来、リーダーたちの対応は不十分でした。既成の研修コースやワークショップは議論のきっかけになる可能性はありますが、持続的な行動変容をもたらすことはないでしょう。従業員には継続的な関与、長期的な投資、そして個々の状況に合わせた個別対応が必要です。
構造的な解決策の原則
科学は、組織全体にわたる人間変革に向け、適応を促すシステムが必要であることを示しています。391名の参加者を対象としたコーチング介入に関する査読付き研究では、参加者のヒューマン・スキルが著しく向上しました。また、9万人以上を対象とした同様の介入は、パンデミック中およびその後の不振からの専門職の回復を支援し、2019年のパフォーマンスやスキルレベルを上回る成果を生み出しました。
ヒューマン・スキルに投資するための戦略には、以下のようなものがあります。
- 特に最も影響を受けるICを含む、全従業員に届く開発プログラム。
- 長期的かつ継続的な介入。前述の報告書にもあるように、人間中心のスキルの大半は習得に平均6~8カ月を要します。 従業員は新たな情報を吸収するだけでなく、それらを実践し、確実に習得するための時間が必要です。
- 解決策は、汎用的なベストプラクティスではなく、組織戦略、職種、市場実態、個人の状況に合わせて調整されなければなりません。
- 組織はタイムリーなパフォーマンス情報を収集し、課題が深刻化する前に対応に取り組まなければなりません。
リーダーたちの必須課題
これらの提言は、リーダーたちが組織システムをより深く検証し、未解決の課題に答えることを促すものです。例えば、不均衡な影響を受ける従業員向けに最適な介入策をどう構築するか、あるいは職場スキル低下の要因をどの程度まで特定できるかといった課題です。AIが働き方を再構築する中、リーダーたちは技術導入とヒューマン・スキルの関係性の変化を明確に定義するための確かな研究を必要としています。
ヒューマン・スキルの低下を理解するには、そもそもこの危機を招いたシステム、構造、盲点を検証しなければなりません。そうして初めて、組織は将来の課題に直面した際にもパフォーマンスを維持できる人材基盤を構築できるのです。
世界中のリーダーたちが、AI導入、組織構造の再構築、人材開発といった数十億ドル規模の意思決定を行っていますが、これらの変革の核心にあるヒューマン・スキルについての理解は十分とは言えません。人間の能力とパフォーマンスを低下させる要因を理解し、それを逆転させる方法を見出すことこそが、次の変革が投資に見合う成果を確実にもたらすための鍵となるでしょう。
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