公海条約の発効が官民連携の取り組みに重要な理由

20年にわたる交渉を経て、公海条約が国際法として正式に発効しました。 Image: Emily Ledwidge
Peter Thomson
United Nations Secretary-General's Special Envoy for the Ocean, United Nations- 公海は気候変動の抑制、生物多様性の保全、食料安全保障、そしてグローバル経済の発展において極めて重要な役割を果たしています。
- 一方で、これまで公海には包括的ガバナンス体制が長らく存在していませんでした。公海条約の発効は多国間主義における画期的な成果であり、持続可能な開発目標14(SDG14)の達成に向けた新たな可能性を切り開くものです。
- 各国政府、企業、市民社会など、多様なステークホルダーがそれぞれ重要な役割を担い、同条約の効果的な実施に寄与しなければなりません。
海洋の 3分の2以上は各国の排他的経済水域(EEZ)の外側に位置しており、これらは「公海」と呼ばれる領域です。この広大な海域は地球上で最も重要な環境システムの一つであり、私たちは今、ようやくその重要性を理解し始めた段階にあります。
これまで公海には、その保全と資源の持続可能な利用を導く、包括的かつ統合的な枠組みが欠如していました。この地球規模の共有財産を適切に管理するため、「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定」(通称:公海条約)が策定。これは国連海洋法条約(UNCLOS)を基盤とした法的枠組みであり、海洋に関する基本法体系の重要な一翼を担っています。
20年にわたる交渉と最終的な合意を経て、2023年に条文を承認。2025年9月までに十分な数の批准が得られたため、2026年1月17日に公海条約が国際法として発効しました。
この決定は、海洋ガバナンスにおける新たな時代の幕開けを意味します。これは各国政府、市民社会、アカデミア、企業に直接的な影響を及ぼし、持続可能な開発目標14「海の豊かさを守ろう」で掲げられているように、現在および将来の世代のために海洋を共同で保護する重要な機会を開くものです。
海洋保全において公海条約が不可欠な理由
これまで公海は、漁業や船舶航行など特定の活動をそれぞれ規制する様々な国際機関や協定がパッチワークのように存在し、統治されてきました。この分断化の結果、海洋の健全性と生物多様性は深刻な影響を受けてきました。
クジラ、ウミガメ、サメ、マグロなどの回遊種が「ブルーコリドー(青い回廊)」を移動する際には、様々な管轄区域を横断するため、そのライフサイクルを通じて重複する形で圧力を受けることになります。
彼らの餌場から産卵場所、移動経路に至るまでの旅路は、海洋がいかに深く相互に関連しているかを示しています。また、生物多様性と生態系機能を保護するためには、科学的根拠に基づいた一貫性のあるガバナンスが極めて重要であることを如実に表しているのです。
時が経つにつれ、生物多様性を脅かす様々な圧力が積み重なることで、この分断された分野別アプローチの限界が明らかになり、連鎖的なリスクが生じています。こうした課題に対処するには、ステークホルダー全員が責任を共有し、協力して取り組むことが不可欠です。
また、ネイチャーポジティブな未来を実現するためには、持続不可能な漁業や鉱物資源の採掘、海洋汚染、気候変動の影響など、海洋劣化の根本原因に対処する必要があります。
公海条約では以下の4つの相互に関連する課題に対処します。
第一に、海洋遺伝資源から得られる利益を公平かつ公正に分配することを義務付けています。公海は人類共通の遺産であり、その管理には包括的な参加と責任ある技術革新が不可欠です。
第二に、海洋保護区などの区域ベースの管理ツールを導入し、保全と持続可能な利用のバランスを図っています。
第三に、環境影響評価の要件を強化し、公海における意思決定プロセスの質を向上させています。
第四に、海洋技術の能力構築と移転を支援し、各国が実施活動や科学的協力に効果的に参加できるよう後押ししています。これらの措置は、透明性の向上、データ共有、科学的協力と合わせて、大規模な官民連携による協調的な取り組みを実現するための条件を整備することになります。
新たな海洋ガバナンスの時代へ
健全な海洋の維持には、各国政府、産業界、研究機関、金融セクターが連携して取り組むことが不可欠です。
今回初めて、公海における海洋保護区の設置を可能にする法的拘束力のある仕組みが整備されました。これは、2030年までに海洋の30%を保護するという、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で合意されたグローバルな目標の達成に向けた重要な一歩です。これは、海洋生物多様性、生態系サービス、そして気候変動へのレジリエンスを支える上で極めて重要です。
さらに、海洋活動が環境に与える影響を評価、検証するための枠組みを提供することで、公海条約は海洋管理に対するグローバルな共通のスチュワードシップを明確に示しています。
海洋関連産業は、この条約の目的達成において重要な役割を担うことになります。2030年までに自然消失を停止、反転させるネイチャーポジティブな未来への転換は、最大10兆ドル規模の経済的価値を引き出す可能性を秘めています。
公海条約はまた、海運、海洋エネルギー、通信、漁業などの企業のステークホルダーと、各国政府や科学者が協力し、公海の保全と再生に向けた責任を共有する枠組みをもたらします。
世界経済フォーラムの報告書『Governing Marine Biodiversity Beyond National Jurisdiction: Roles and Opportunities for the Private Sector(国家管轄権外区域における海洋生物多様性の管理:企業の役割と機会)』によると、企業による効果的な実施には、管轄区域間の規制の整合性、海洋データの利用可能性と透明性の向上、影響を受ける各セクターとの早期かつ継続的な連携が不可欠であることが示されています。
公海条約は、企業が長期的な海洋環境の健全性と整合性のある戦略を策定するための明確な機会を提供します。これにより、競争優位性を確保し、繁栄するブルーエコノミーに向けたイノベーションを推進することが可能になるでしょう。海洋関連産業は生物多様性の専門家と協力し、科学的知見を意思決定プロセスに統合すると同時に、海洋生物が繁栄できる形で公海を利用する方法を検討しなければなりません。
海運業界はこの貢献の好例です。港湾から深海に至るまで活動する同業界は、多様な生態系と交差しており、これらは人類にとって不可欠な生態サービスを提供しています。汚染物質の削減、水中騒音の抑制、生態学的に敏感な海域の回避などにより、海運業界は海洋の健全性とレジリエンスを支え、ステークホルダーや投資家の信頼を確保することができるでしょう。
漁業も同様に、健全な海洋環境に依存しています。公海条約が定める、科学的根拠に基づく意思決定と情報共有、環境影響評価、海域ベースの管理手法は、既存のガバナンスシステムを補完し、魚類資源の持続的利用と生物多様性の保全を両立させる、生態系ベースのアプローチを可能にします。
海洋活動において公海条約が不可欠な理由
公海条約の発効は、海洋保護における転換点となります。ただし、これはゴールではなく、新たな出発点に過ぎません。
同条約が遂行されるためには、各国政府、機関、産業界、アカデミア、伝統的知識の保持者、市民社会が一体となり、文書の上での約束を実際の海洋保全活動へと転換していく必要があります。透明性のある対話と、海洋に関わるすべての主体による効果的な協力体制が、世界が緊急に必要としている保全とレジリエンスにおける成果を達成する上で不可欠となるでしょう。
各国政府、自治体、漁業から海運、研究機関から沿岸地域に至るまでの各分野の組織が連携し、協調して取り組むことが新たな常識とならなければなりません。海洋は相互につながり合った三次元のシステムであり、人間の境界線が生態系の実態とはほとんど関係を持たない場合が少なくありません。
国家管轄権内および管轄権外の海域を含む海洋全体を、生物多様性の喪失を防ぎ、社会と経済が依存する生命維持機能を保持できるよう、責任を持って管理していく必要があります。
公海条約は、海洋が常に多国間協力と地球規模の発展の原動力であり続けるという力強いメッセージをグローバルに発信しています。今こそ世界が一丸となって、透明性のある対話を通じてこの条約を実装し、海洋に携わるすべての人々が条約の義務を遵守するという明確な決意を持って取り組む時なのです。真の変革は、多様な主体が連携し、責任を共有することによってのみ実現することができるでしょう。
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