地政経済と政治

地政学的な激動の時代に必要な、企業の「筋肉」を構築するには

スマートシティを高速の光が駆け巡る、ビッグデータ接続技術と地政学的な力のイメージ。

「地政学的な筋肉」を構築することは、この新たな多極化世界における衝撃を予測、対応する上で組織を支援します。 Image: Getty Images

Simon Evenett
Professor, Geopolitics and Strategy, IMD Business School
Sean Doherty
Head, International Trade and Investment; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
Cristián Hernan Rodriguez Chiffelle
Partner and Director; Trade, Investment, and Geopolitics, Boston Consulting Group (BCG)
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2026
  • 新たな報告書では、グローバル企業が地政学を組織の能力として定着させ、意思決定に組み込む方法を検証しています。
  • これにより、「地政学的な筋肉」、つまり地政学的な強靭性を定義する5つの構成要素が特定されました。
  • この能力の重要性と急速な進化に対応するため、世界経済フォーラムは「チーフ・ジオポリティカル・エグゼクティブ・コミュニティ」を立ち上げました。

過去1年間に、地政学的な混乱はリスクレベルを上昇させると同時に、様々な分野で新たな機会を生み出す可能性があることを示しました。また、貿易の分断化、技術分野における戦略的競争の激化、サプライチェーンへの圧力により、地政学はビジネスパフォーマンスを形作る中心的な力となっています。かつては例外的な事象と思われていたものが、今や普遍的かつ持続的なものとなりました。

ある自動車メーカーは、影響の約35%を相殺する軽減策を講じた後も、新たな関税により約40億ドルの利益減が見込まれています。また、ある製薬会社は、2024年の米国選挙を受けて、米国における製造投資を500億ドルに倍増。あるエネルギー企業は、完成直前で中断された大規模再生可能エネルギープロジェクトの再開許可を得るため、訴訟ではなく現地当局との協議を選択し、ある物流事業者は、米国国際開発庁(USAID)の資金削減により生じた、アフリカ数カ国における重要医療製品が患者の手に確実に渡るよう、各国の保健省と積極的に連携しました。

こうした事例は、経営幹部との対話において繰り返し浮上した複数のテーマを反映しています。すなわち、グローバルな貿易産業政策の変動性、ウクライナ戦争の継続的な影響、米国と中国の競争激化、そして多国間経済体制の弱体化です。これらの動向は新しいものではありませんが、多くの経営幹部は「方向性は認識していたものの、混乱の速度と規模には驚かされた」と語りました。これらはもはや、はるか彼方の政治的動向ではありません。業界を問わず資金調達決定、調達戦略、市場アクセス、さらにはイノベーションポートフォリオさえも形作っているのです。

世界経済フォーラムがIMDビジネススクール、ボストン・コンサルティング・グループの協力を得て作成した新たな報告書『Building Geopolitical Muscle: How Companies Turn Insights into Strategic Advantage(地政学的な筋肉の構築:企業が洞察を戦略的優位性へ転換する方法)』は、55名以上の上級幹部へのインタビューから得られた知見をもとに、グローバル企業が地政学を組織能力、すなわち「地政学的な強さ」として定着させ、意思決定に組み込んでいる実態を検証しています。

インタビュー対象企業の業界別分布

「地政学的な筋肉」を定義する構成要素

同報告書では、地政学的な筋肉、つまり地政学的な強靭性を定義する5つの構成要素を特定しています。この能力により、組織は国境を越えた動向を感知し、計画を立て、体系的に行動することが可能となります。各構成要素は準備態勢と成熟度の核心要素を表し、認識を持続的な能力へと転換しようとする企業のための枠組みとなるでしょう。

1. 権限の確立

効果的な地政学的機能は、トップレベルに根差した明確な権限から始まります。これは「様子見」アプローチと先手を打つアプローチの差を決定付ける最も重要なステップです。取締役会とCEOによる支援体制で優先順位を確立し、迅速かつ大規模な行動のための権限委譲を実現するのです。権限委譲の形態は様々ですが、優れた企業には共通の目的があります。それは、地政学的認識を事業意思決定に直接結びつけることです。従来、企業は地政学を主に管理すべきリスクとして扱い、危機発生時には事業売却や市場撤退によってリスクへの曝露を最小限に抑える対応が主流でした。先進的な企業は現在、より積極的に行動し、リスク事象の実現を予測、軽減すると同時に、商業的機会の特定と創出を図っています。

2. レーダーとソナーの活性化

地政学的分析には、単なる論評ではなく、体系的な情報収集と統合が求められます。競争優位性は、(i) 現地から直接、一次情報を収集する能力、(ii) その情報をグループ全体で集約し活用する組織能力という2つの能力を組み合わせることで生まれます。

先進企業は、現地チーム、規制当局、顧客から得た現地情報を表面化させ、中核機能と連携させるための内部チャネルを構築。また、内部の知見を補完し、より広範な視点を構築するため、外部の情報源も活用しています。情報の統合も同様に重要です。多くの企業では、シナリオを体系化し、場合によっては定量化して財務予測と連動させ、ストーリーラインや指標、トリガーを明確にしています。

3. 運用モデルの設計

インタビュー対象企業の5社に1社未満が、地政学または国際問題専門の部門を設置。一方、半数以上がこれを政府・企業渉外部門内に組み込んでいます。「地政学的な筋肉」を構築する手法として、企業間で4つの運用アーキタイプが浮上しました。

「地政学的な筋肉」構築のアーキタイプ Image: Executive interviews -- World Economic Forum, IMD Business School, BCG analysis

これらのアーキタイプは固定的なものではなく、ほとんどの組織が構造を継続的に進化させ、4つのアーキタイプのうち少なくとも2つを組み合わせています。一方、社内の意思決定者への近接性と強力なプロジェクト管理が、これらのアーキタイプを横断する重要な成功要因として浮上しました。

4. 部門への人材配置

この職務に対する信頼性は、外部の複雑性とビジネスロジックを結びつけられる人材にかかっています。最も効果的なリーダーは、企業に対する深い知見と、地政学的動向をビジネス文脈の意味合いに変換する能力を兼ね備えています。企業は、この責任をどの部門が担当するかによって生じる、採用パターンの一般的な偏りに留意する必要があります。例えば、政府渉外部門は外交や政策の経歴を持つ人材を、企業戦略部門はコンサルタントやアナリストを採用する傾向があります。これに対して、最も強力なチームとは、政策、戦略、リスク、情報、法務の各分野の専門知識を融合したチームです。こうしたチームは、経験豊富なリーダーとアナリストを組み合わせることで、役職のバランスも取っています。

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5. 意思決定への組み込み

地政学的洞察は、タイムリーにビジネス判断に影響を与えてはじめて価値を生み出します。ただし、「地政学的な筋肉」を構築するために必要な、資本投資や人的資源を正当化するための価値創出を実証することは、依然として大きな課題です。調査により、地政学の影響を最も受けやすい、ビジネスにおける次の8タイプの意思決定分野が明らかになりました。

  • 調達とサプライチェーン:サプライヤーの抱えるリスクの大きさ、在庫水準、物流のボトルネック、制裁措置の影響可能性の評価。
  • リスクレビューと企業リスク管理(ERM):ERMのリスク分類体系およびシナリオプランニングにおける地政学的要因の検討。
  • 政策提言とエンゲージメント戦略:市場アクセス優先度と規制リスクに基づき、政策決定者との関与を調整。
  • 戦略的計画策定:市場参入・撤退、製品発売、価格設定の意思決定への地政学的な要素の組み込み。
  • 資本配分と投資:製造の現地化、M&A、設備投資配分の指針策定。
  • イノベーションと知的財産:技術主権と輸出管理を考慮した研究開発(R&D)および知的財産の(再)現地化先の特定。
  • 対外コミュニケーションとマーケティング:公共メッセージが地域の政治的な敏感さに配慮していることを確認。
  • ITとサイバーセキュリティ:サイバーリスクと地政学的リスクの関連性を把握し、技術基盤の近代化を優先すべき国や事業部門を特定。

分析と意思決定の連携を明確に定義することが、効果的な運用には不可欠です。業界や地域を問わず、企業においては以下のベストプラクティスが確立されています。

「地政学的な筋肉」を構築するためのベストプラクティス

地政学は急速にビジネス戦略に深い影響を与える要素となりました。長期にわたってレジリエンスと成功を保つ企業は、地政学的対応力を中核的競争力として位置付けるでしょう。

この機能がグローバル企業において重要性を増し急速に進化していることを受け、世界経済フォーラムは最近、信頼に基づく同業者間の交流と共有学習を促進する「チーフ・ジオポリティカル・エグゼクティブ・コミュニティ」を立ち上げました。グローバルな不確実性が継続する中で、課題はあらゆる混乱を予測することではなく、確信を持ってディスラプション(創造的破壊)を感知し、適応し、行動することのできる組織を構築することにあるのです。

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