なぜ今、強いブランドを持つことがこれまで以上に重要なのか

強力なブランドは、情報過多に対する特効薬となり得ます。 Image: Maxim Hopman/Unsplash
Nicki Allitt
Head of Strategic Communications & Coordination; Member, Executive Committee, World Economic Forum- 偽情報がグローバル経済に与える損失が年間約780億ドルに達する現在、「真実の崩壊」は組織が無視できない重大な財務リスクとなっています。
- 「AIスロップ」の時代において、リーダーは評判とブランドを区別し、混沌とした状況を乗り切らなければなりません。
- データが示すように、70%もの人々が「誤った情報に惑わされている」と感じている現状では、価値観を基盤としたブランド戦略こそが、「情報過多」を切り抜け、雑音の中で確かなシグナルとなるための唯一の方法です。
私たちは今、雑音の中で溺れています。「情報過多」「情報汚染」「情報肥満」など、情報が多すぎることを表す様々なバズワードがインターネット上で飛び交っています。そして今年、生成AIが量産する粗悪なコンテンツを表す「AIスロップ(AI slop)」という新たな用語が加わりました。これは、マッコーリー・ディクショナリーが2025年の「今年の言葉」に選定したものです。
どのような呼び方をするにせよ、それが私たちに与える感覚は変わりません。圧倒され、ストレスを感じ、混乱するのです。
これは驚くべきことではありません。なぜなら、推定で毎日4億テラバイトものデータが生成されているからです。これは、人間の脳が処理するには想像を絶するほど膨大な量です。
しかもこれは、意図的に流布される虚偽情報を考慮に入れる前の数字です。
世界経済フォーラムの2025年版『グローバルリスク報告書』によると、今後2年間で世界が直面する最も深刻なリスクとして誤情報と偽情報が挙げられています。
AIによって増幅されたこの真実の崩壊は、グローバル経済に年間約780億ドルの損失をもたらしています。
英国だけでも90%以上の人々が、ソーシャルメディア上で(意図せず拡散された)誤情報を見たことがあります。
そして深く憂慮するのは、70%もの人々が、政府、企業、メディアの指導者たちが意図的に自分たちを欺いていると信じていることです。
つまり、私たちはリーダーとして矛盾した状況に直面しています。これまで以上に多くの情報があり、それを伝達する手段も多様化しているにもかかわらず、受け手側の情報に対する信頼性は低下しているのです。
分極化が進み、不確実性が増す世界において、信頼こそが私たちにとって最も重要な、そして見過ごされがちな資産となっています。
一方で、良い知らせもあります。組織はすでにこの解決策を手にしているのです。
新しい戦術ではありません。新しい伝達手段でもありません。もっと根本的なもの、それは、一貫性のある明確なブランドアイデンティティです。
ブランドと評判の違い
「ブランド」と「評判」は同じ意味で使われがちですが、それは正しくありません。
誤情報や偽情報が急速に現実を歪め得る現代において、ブランドは認識を生み出し、親しみを育む重要な防御資産となります。
防衛にあたり、基本となるのはブランドと評判の違いを理解することです。
・「評判」とは地形のようなものである
「評判」とは、他者があなたについて語る物語です。アルゴリズムや世間の認識、実際の経験によって、時間をかけて形成されるものです。方向性を導くことはできても、完全にコントロールすることはできません。
・「ブランド」はあなたの羅針盤である
「ブランド」は、あなたが自分自身について語る物語です。自分が何者であるか、何を大切にしているか、そしてどのような影響を与えたいかという意図的な表現なのです。
では、なぜブランドが今、重要なのでしょうか。
情報過多で混乱を招くホワイトノイズに満ちた世界では、人々はさらなる情報を探し求めるのではありません。確かな情報(シグナル)を求めるのです。
”人々があなたの本質を正確に理解している場合、つまりあなたがそれを明確に伝え、一貫して示してきた場合、人々は誤った情報に対して大きな耐性を持つようになります。
価値観を基盤とした強固なブランドには、2つの重要な効果があります。
1. 真実の基盤:誤情報が広がった際にも、一般の人々に明確な基準点を提供することができます。
2. 選択の簡素化:情報過多による認知的負荷を軽減します。
「評判」が守るべき基盤であるならば、「ブランド」は守り方なのです。
価値観を基盤とした強固なブランドの構築に投資することにより、組織は能動的に世間の期待を形成し、有害な情報や誤解を招く情報から人々を守ることができます。
雑音を増やすのではなく、あなた自身が明確なシグナルとならなければなりません。
信頼のギャップに対処する
羅針盤を設定したら、次は最も険しい道のりを進まなければなりません。それが「現代の信頼ギャップ」です。
2025年版の『エデルマン・トラスト・バロメーター』によると、企業は依然として最も信頼される機関であり、企業のみが「有能である」と同時に「倫理的である」と認識されています。
一方、従来のメディアからソーシャルメディア、検索エンジン、さらには自社メディアに至るまで、あらゆるニュースソースに対する信頼は低下しています。
これに拍車をかけるように、企業や政府のリーダーたち、さらにはジャーナリストたちまでもが、意図的に人々を誤解させているという認識が広がっています。
信頼のギャップを解消することには、ビジネス上の大きなメリットがあります。フィナンシャルタイムズ紙の調査によると、現在では信頼が「製品やサービスの品質に次いで、利益、市場シェア、顧客獲得といった重要なビジネス成果を推進する2番目に強力な指標」であることが判明しています。
では、どうすればこのギャップを解消することができるでしょうか。
以下の3つの要素が重要です。
- 明確性:明確に定義されたブランドは、組織全体の方向性を統一します。これは、一つのミッションと一貫したブランドの本質を、繰り返し伝えることで実現します。
- 一貫性:コミュニケーション理論によれば、メッセージが確実に定着するまでには7回の接触が必要であるとされています。ただし、そのメッセージは明確で簡潔、かつ分かりやすいものでなければなりません。
- 信頼性:ブランドは、組織の価値観、戦略、ミッションにしっかりと根ざしている必要があります。方向性の統一がなければ、言葉と行動が食い違い、信頼は失われてしまいます。
世界経済フォーラムでは、50年以上にわたり、そのミッションを一貫して「官民連携を通じて世界をより良くする」と定義しています。
ただし、世界は変化しています。グローバルな課題は相互に関連し合う度合を強めており、信頼は低下し、テクノロジーの進化は加速しています。
そこで私たちは、自らの表現方法、つまり私たちのブランドの本質をより研ぎ澄まし、確実に届くようにしました。それが、「リーダーたちをつなぎ、グローバルな課題への理解を深め、共に世界を前進させる」という言葉です。
この簡潔な一文と、その明確さが、私たちの意思決定を導き、チームを一つにまとめ、私たちの本質を伝える役割を果たします。
従業員が持つ隠れた力
ブランドの実践には3つの重要な要素があります。
1. 明確化:誰もが使える明確で簡潔な一文で、ブランドの物語を定義します。その周りにメッセージングと裏付けとなるエビデンスを構築します。
2. 定着化:ここが真の奇跡が起こる場所です。あなたの従業員こそがブランドの大使なのです。採用活動、オンボーディング、リーダーシップ研修、日常のコミュニケーションにブランドを浸透させることで、全員が初日から同じ言語で話せるようになるでしょう。
ブランドの認知と理解は、組織の内側から始めなければなりません。
3. 増幅:ブランドが明確になり、組織に定着することにより、自然にその影響力を拡大することができます。コンテンツ、キャンペーン、イベント、コラボレーションなど、すべてを一貫した意図を持って展開します。地域ごとのニュアンスや文化的な配慮は尊重しますが、中核となるメッセージは揺るぎません。
しかし、これで終わりではありません。
ブランドとは静的なものではなく、常に進化し続ける生きたエコシステムです。組織の成長やステークホルダーのニーズの変化に合わせて、常に進化し続ける存在なのです。
”世界経済フォーラムでは、組織全体から多様な声を集めたブランド・アドバイザリー・グループを設立し、思慮深い進化をサポートしています。また、ブランドの健全性を計測するダッシュボードを構築し、組織の内外における認知度、理解度、整合性を測定しています。
これは、ブランドを統制するためではなく、ブランドの声に耳を傾けるためです。
最終的に成功とは、単に全員が同じ言葉を使い、同じ物語を語ることではありません。その物語がなぜ重要なのかを全員が理解することです。
情報過多の現代において、強力なブランドとは単なる付加価値ではありません。
それは混沌の中の確かなシグナルであり、混乱の中の羅針盤です。信頼が揺らぐ時も、揺るぐことのない錨なのです。
問うべきは、強力なブランドを構築する余裕があるかどうかではありません。それを構築しない余裕があるのかどうかです。
最新の解説動画『Who is the World Economic Forum?(世界経済フォーラムとは)』は以下のとおり。
このトピックに関する最新情報をお見逃しなく
無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。
ライセンスと転載
世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。
この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。
最新の情報をお届けします:
AIとロボティクス
「フォーラム・ストーリー」ニュースレター ウィークリー
世界の課題を読み解くインサイトと分析を、毎週配信。







