エネルギー転換のリーダーたちに学ぶ、電化戦略

電化によってもたらされる柔軟性は、まだ十分に活用されていません。 Image: Getty Images/iStockphoto
- ノルウェー、中国、米国テキサス州などの先駆的な経済圏では、最終エネルギー消費に占める電力の割合が大幅な上昇傾向にあります。
- 分析によると、エネルギー転換の主要な推進要因は、政策枠組み、経済的メリット、テクノロジーの進歩です。
- 送電網の整備を行い、容量、信頼性、柔軟性を活用することも、グローバルなクリーンエネルギーへの移行を加速させる上で、極めて重要な要素です。
先駆的な経済圏では、最終エネルギー消費に占める電力の割合が大幅な上昇傾向にあります。 その軌跡こそが、グローバルなクリーンエネルギーへの移行の鍵であるはずです。では、そこから得られる教訓とは何でしょうか。
電気は一般的に化石燃料よりも効率が高く、その大きな利点の一つは、様々なエネルギー部門の連携により再生可能エネルギーの統合が可能になることです。これにより、電化はグローバルなエネルギー転換における重要な手段となります。
実際に、最終エネルギー消費に占める電力の割合は、ネットゼロに向かう道筋に沿う形で2024年の21%から2030年までに約30%へと上昇すると見込まれ、電力は静かに産業力の新たな指標となりつつあります。
ただし、主要経済国は石油やガスなどの化石燃料を電力に置き換える一方で、その進展にはばらつきが見られます。中国、ノルウェー、インドネシア、米国テキサス州など、特に電化が急速に進んでいる経済圏も存在します。
本寄稿文では、データに基づき、これらの地域が先行する要因、今後の課題、そして他地域が追いつくために必要な要素を明らかにします。
電化における世界の先駆者たち
電力の割合は、電化を測る唯一の指標とはなり得ません。なぜなら、産業の電化、電気自動車(EV)の普及拡大、AIの成長と冷却需要の増加による、様々な分野の電力需要増大が反映されるからです。
ただし、電力の割合の変化は、変革をもたらす具体的なイネーブラーの存在を示す可能性があります。国際エネルギー機関(IEA)と米国エネルギー情報局(EIA)が、共有する複数年の統計に基づき、顕著な要因を挙げています。
- 中国は過去10年間で、総最終エネルギー消費に占める電力の割合を10パーセントポイント以上増加させ、膨大な容量を有しています。
- インドネシアは、産業部門の最終エネルギー消費に占める電力の割合において、最も高い成長率を示しています。
- 韓国は産業の電化が特に顕著であり、産業部門の最終エネルギー消費に占める電力の割合が50%を突破。なお増加を続けています。
- ノルウェーは一貫して最先端を走り続けており、最終エネルギー消費の半分以上がすでに電化されています。
- かつて石油とガスの象徴であった米国テキサス州では、現在、米国で最も急激な電力使用量の増加を記録。最終エネルギー消費総量に占める電力の割合の10年間の伸びは、米国平均を大きく上回っています。
エネルギー転換を支える要因
電化推進の背景には、脱炭素化、エネルギー安全保障、経済目標といった共通の要因があります。例えば中国のような国々は、2030年までの炭素排出量ピークアウトと2060年までのカーボンニュートラル達成という「二つの炭素目標」を再生可能エネルギー発電によって実現しようとしています。
また、ノルウェーのような資源豊富な国でさえ、国内の石油、ガス消費に代わる戦略的手段として電化を活用してきた経緯があります。
各経済圏の電化手法は、地理的条件、エネルギー構成、市場環境など地域事情に応じて大きく異なりますが、分析によれば、その主要な推進要因としては以下の3つが顕著です。
- 政策枠組みはすべての先駆国において基盤的役割を果たしていますが、その実施状況はそれぞれ異なります。中国における国家主導型の電化推進の道筋は、政策と規制を通じた体系的な国家行動が、産業部門の最終エネルギー消費の電化を加速させる様子を示しています。例えば、新型エネルギー車(NEV)の義務化や国家レベルの行動計画などが挙げられます。一方、インドネシアの鉱物資源の川下加工を促進する「ヒリリサシ(下流化)」政策は、議論の余地はあるものの、鉱物精製産業のエネルギーミックスにおける電力の割合を大幅に増加させています。
- 財政的メリットはエネルギー消費を直接刺激し、化石燃料から電力への移行を促進します。ノルウェーや米国テキサス州では、豊富な再生可能エネルギーや競争的な電力市場による安価な電力価格が、伝統的な石油・ガス産業においても電化を誘引。一方、直接的な補助金制度も電気を使用する代替手段の導入を促進します。例えば、中国のNEV買い替え補助金やノルウェーの住宅用ヒートポンプ補助金などが挙げられます。
- テクノロジーの進歩は電力集約型アプリケーションの新たな可能性を開拓しています。近年ではAIの技術成熟度が急速に向上し、関連アプリケーションが急成長して日常生活に浸透しているほか、EV技術の成熟が輸送部門の電化を促進し、ヒートポンプ技術のブレークスルーが産業分野をはじめとする幅広い導入の道を開いています。
電化拡大が直面する避けられない障壁
電化の進展に伴い、電力需要は増加を続け、既存送電網のボトルネックに直面するでしょう。需要側における電化努力は、発電源から需要地まで電力を輸送する十分な経路がなければ、その大部分が無駄になる可能性があります。
したがって、容量、信頼性、柔軟性を組み合わせた送電網の整備こそが、電化の究極の基盤となります。ただし、分析によると、そのためには以下の要件が存在します。
- 再生可能エネルギー発電と負荷の両方を混み合うことなく収容するために、容量の増強が必要です。送電網インフラは、需要増加に先立って整備しなければなりません。国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、2040年までに世界全体で8,000万キロメートルの送電網を新設または更新する必要があり、これは現在の全世界の送電網総延長に相当します。国家主導の投資により、中国は送電網アップグレードの先駆者となりました。中国南方電網は、遠隔地の再生可能エネルギー源と需要地を結ぶ高電圧直流送電網において世界をリードしています。また、テキサス州では送電網強化投資の一環として、民間事業者による送電網整備に成功していることが実証されています。
- 一方、高度な製造業やデータセンターなど、高い電力品質を要求する新たな負荷のニーズに対応するため、信頼性はますます重要となるでしょう。韓国は世界トップクラスの信頼性を誇る送電網を有しており、これは2011年より国家推進法のもと計画、導入、開発プロセスを経てきたスマートグリッド技術に起因しています。テキサス州の送電網では、2021年の冬季暴風雪(歴史的な低温と降雪をもたらし、エネルギー管理のため計画停電が実施された)のような異常気象による信頼性低下を補うため、広域的な相互接続の強化が検討されています。また、インドネシアでは電力網構想である「ASEANパワー・グリッド」イニシアチブの一環として、地域間相互接続も提案されています。
- 電化によってもたらされる柔軟性は、まだ十分に活用されていません。電化は送電網インフラに負荷をかける一方で、スマート家電や電気自動車(EV)といった電化技術は、柔軟な電力消費者を意味する「フレクスマー」を生み出し、既存インフラを活用した柔軟性向上の機会を提供します。中国南方電網が推進する「デジタル・パワー・グリッド」は、データ資産、5G、AI、IoTの統合を通じた包括的なデジタル変革戦略により、柔軟な電力利用を実現しています。
こうした事例が示すように、先進国は電化への道程が短距離走ではなく、持続的な政策、利益創出、技術革新を伴う長距離走であることを実証しています。その基盤となるのは、十分な容量を備え、信頼性と柔軟性を兼ね備えた送電網です。
エネルギー転換をこれから進める国々にとって重要なのは、こうした青写真を自国の状況に合わせて学び適応させ、実証済みの戦略を活用して自国ならではのエネルギー転換を加速させることです。「電力の時代」は到来しています。今こそ的を絞った断固たる行動が必要なのです。
本稿の執筆にあたり、貴重なご意見とご助言をいただいた、インジエ・タン(中国南方電網公司電力研究院 シニア・リサーチ・エンジニア)、エレニ・ケメネ(世界経済フォーラム、材料システム、リード)、エスペン・メラム(世界経済フォーラム、エネルギー部門長)、カイチ・フー(アクセンチュア ストラテジー・コンサルタント)の各氏に感謝いたします。
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