マニュファクチャリングとバリューチェーン

産業人材のアップスキリング~生産現場から学ぶ最先端の取り組み~

人の少ない工場の生産ラインを少し上から映した写真(2023年5月24日ナイジェリア、ラゴスにて)。拡大の加速する人間機械混在型環境に対応するため、産業人材には新たなスキルが求められています。

拡大ga加速する人間機械混在型環境に対応するため、産業人材には新たなスキルが求められています。 Image: REUTERS/Temilade Adelaja

Aarushi Singhania
Initiatives Lead, People Centric Pillar, Advanced Manufacturing, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 AIエクセレンス
  • 生産現場では、生成AIや複数ロボットのルート最適化といったデジタルスキルの必要性が明らかになりつつあります。
  • 包括的なデジタル・アップスキリング・プログラムにより、新たな産業人材は拡大の加速する人間機械混在型環境で活躍するための高度なスキルを習得できるようになります。
  • 生産ラインの隣にはデジタル学習ハブやトレーニングのための「道場」が設置され、労働者はシミュレーション主導型の安全な環境でスキルを練習することができます。

グローバルな製造業において、経営陣は二重の現実に向き合っています。

生成AI、複数ロボットのルート最適化、ローコード/ノーコードツールの活用といった先進技術が生産とサプライチェーンに革命をもたらす一方で、変化のペースに追いつくためには、従業員に対する新たな研修とスキル開発が必要とされているからです。

世界経済フォーラムの『仕事の未来レポート』によると、製造業者の70%以上がこうしたテクノロジーを変革の主要な推進力として認識している一方で、ほぼ同数の企業が成功への最大の障壁に拡大するスキルギャップを挙げています。

課題は極めて深刻です。今後5年間で、製造業の中核スキルの約40%が変化すると見込まれ、企業は人材の育成、スキルアップ、定着の方法を早急に再考せざるを得ないでしょう。

したがって、未来の工場は機械だけで稼働するのではなく、絶えず進化する新たな能力を備えた産業人材に依存することになります。

世界経済フォーラムの白書『Empowering Frontlines: Retaining, Training, and Upskilling the Industrial Workforce,(現場の力を強化する:産業人材の定着、育成、アップスキリング)』は、成果を重視したスキル開発の重要性と、訓練、アップスキリング(技能向上)のための実証済みの戦略と手法を示しています。

同白書では、グローバル・ライトハウス・ネットワークおよび「未来のフロントライン人材」コミュニティにより実施された現地調査から、ケーススタディとして産業人材に対する効果的な訓練、アップスキリングの具体的な内容とその実施方法を詳細に解説しています。

企業は現在、以下の指標を用いて訓練、アップスキリングへの投資対効果を測定することが可能です。

  • 平均修理時間(MTTR)の短縮:機械やシステムの修理にかかる平均時間。設備の修理を迅速化し、ダウンタイムを最小限に抑え、操業をより早く再開することで、MTTRが短縮されます。
  • エラー率の低減:生産、保守、操業におけるミスが減少し、不良品、品質に関する課題が少なくなり、工程における安全性が向上します。
  • 技能認定時間の短縮:労働者が新たな技能や業務について認定を受ける、または習熟するまでに要する時間。シミュレーションやデジタル学習などの効果的な訓練方法により、従業員はより早く必要なスキルを習得できます。
  • 多能工化の進展:オペレーターが品質検査や基本的なメンテナンスを行うなど、複数の役割をこなせるよう訓練された従業員の増加。
  • 昇進までの期間短縮:スキルベースの訓練やメンター制度、キャリアパスの明確化などにより、従業員がより迅速に上級職や管理職に昇進できるようになります。
  • 離職率の低下:仕事の満足度向上、労働条件の改善、またはスキルに焦点を当てたキャリア開発により、会社を離れる従業員が減少します。
  • 業務効率の全体的な向上:上記の改善策の相乗効果により、より少ないリソースでより多くの成果を上げることができ、生産速度の向上、資源使用量の削減、廃棄物の低減、品質の向上が実現します。
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進行中のリスキリングとアップスキリングの取り組み

技術的アップスキリング

ブラジルにあるユニリーバのポウゾアレグレ工場では、メンテナンス組織における深刻な人材不足を解消するため、「技術オペレーター」という役割を新たに創設しました。

オペレーターがメンテナンスに関する課題の第一対応者としての役割を果たせるよう、技術的トレーニングと課題解決力、批判的思考力を統合したメカニックおよびメカトロニクス向けアップスキリングプログラムを開発。

その結果、平均修理時間は3.1時間から2.3時間へと27%短縮され、同時に、故障による損失が半減しました。このことは、業務中断を最小限に抑えるプログラムの効果を裏付けています。

高度な学習

同様の取り組みとして、デジタルストレージソリューションを提供するウエスタンデジタルが、タイのプラチンブリ工場で提供する「デジタル・リーダーシップ・エッセンシャル・プログラム」が挙げられます。このプログラムは、新製品に関連した複雑な課題に取り組むことのできる現場従業員を育成するもので、同社にとって画期的な変化をもたらしました。

同プログラムでは、基礎から高度な機械学習まで、第四次産業革命の多様なテーマを学び、学位取得単位を取得できる学際的な研修コースを提供しています。

その効果は顕著で、研修を受ける現場の正社員の割合は49%増加し、従業員エンゲージメントスコアは21%上昇しました。

この包括的なデジタル・アップスキリング・プログラムは、自動化に伴う不安を和らげると同時に、従業員に高度なスキルを身に付けさせています。

デジタルがもたらす力

2022年から、中国、常州にある精密機器およびサービス供給企業メトラー・トレドの主要生産ラインの一つに隣接するスペースで「デジタル学習ハブ」が稼働しています。

オペレーター研修プログラムの中核ではありませんが、現場従業員の50%以上が勤務時間外に講座を受講し、共同デジタルプロジェクトに参加。コーディング、デジタルシミュレーション、CADなどのスキルを習得しています。

デジタル学習ハブへの参加により、オペレーターの当事者意識が向上し、結果として退職率が80%減少すると同時に、昇進までの時間が短縮されました。ハブ自体も、アップスキリングを通じてデジタルコーディネーターに昇進した元オペレーターによって運営されています。

これにより、デジタルの文化が強化され、現場従業員が学び、協働し、継続的にスキルを向上させるための安全かつ刺激的な環境が提供されています。

革新的な研修提供手法

高度にパーソナライズされた学習プラットフォーム

急成長に伴い、繁忙期に2,400名の新入社員を研修する必要に迫られたタイ、シーラチャの中国家電メーカー、ミデアは、仮想現実(VR)と生成AIを活用したシステム「Meike」を導入。様々な文化的背景を持つ従業員のアップスキリングを大規模に実現しています。

この社内プラットフォームは、文書をワンクリックでオンライン学習コースに変換し、研修を簡素化。現在の講座は28,000以上で、4言語に対応し、音声認識機能も備えるので、多様な従業員が受講することができます。

AI教育、VR訓練、自動認証を組み合わせた結果、コアスキルの資格取得期間を63%(8日間から3日間に)短縮、サプライチェーンにおける多技能労働者を6%増加、離職率を40%削減(16.5%から9.9%へ)することに成功しました。

トレーニングの「道場」

別の事例として、中国のハイセンス日立の高度に自動化された生産現場があります。この工場の従業員は、複雑な溶接作業、機械の監視、安全な生産環境の維持において重要な役割を担っています。

従業員たちは、最初は現場にある「トレーニング道場」で、業務の遂行を練習することができます。「道場」は、スキル、自動化、安全、リーン生産の4つのコア領域に分かれており、例えば安全道場では、消火器の使用方法など命に関わる業務について、ダミー人形やゲーム化されたシミュレーションを活用して訓練が行われます。

溶接などの日常業務スキルは、AIを活用した画面フィードバック支援とVRを統合したスキル道場で研鑽を積みます。こうした取り組みにより、業務適性マッチング率は98%に向上し、標準的な訓練サイクルは32%短縮されました。

業務の流れに沿った学習

もう一つの有望な事例として、レノボのメキシコ、モンテレイ工場が挙げられます。同社は製造現場全体の運営を支援するため、生成AIを活用した「製造管理タワー」を導入しました。

この管理タワーは、リアルタイムで主要業績評価指標(KPI)分析を実行し、99言語に対応した音声操作による対話型根本原因分析を実施。AIエンジンを通じて即座に是正措置を提案します。

一方、最も意義深い成果は、根本原因の特定を支援するAIコパイロットコーチの形で現れています。この先進システムは、毎時更新されるリアルタイム生産データと、包括的なナレッジベースから収集した3万件以上の過去事例を統合したものです。

作業員がリアルタイムでシステムと対話し、現場で課題を解決できるため、継続的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が促進されます。こうした体制により、管理者の指示や教室での研修を待つのではなく、次に何をすべきかが分かるようになります。

その結果、時間当たり平均生産量は42%増加、平均修理時間は95%短縮されるという、目覚ましい成果がもたらされました。

インテリジェント時代への対応

では、未来に向けた現場人材の育成において、実際に効果を発揮しているのは何でしょうか。最も有望な取り組みは、学習を実践的なものにすると同時に個人に最適化し、日常業務に統合することです。

AI搭載の仮想コーチが従業員をリアルタイムの課題解決へと導きます。一方、現場に設置されたVRトレーニング道場や、従業員自身が運営するデジタルハブで、最先端ツールと課題解決力、協調性、適応力といったスキルを融合させます。

パーソナライズド学習、多言語社内研修、人と機械の協働への投資を通じて、製造業者は未来の工場とサプライチェーンに対応可能な産業人材を育成することができるでしょう。

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