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AIガバナンスに向けた新たなアプローチ~「広島AIプロセス」が示す共通基盤~

デジタルデータが地球を形作っていくイメージ画像。日本が主導する「広島AIプロセス」が、調和のとれたグローバルなAIガバナンスの構築に貢献するでしょう。

日本が主導する「広島AIプロセス」が、調和のとれたグローバルなAIガバナンスの構築に貢献するでしょう。 Image: Getty Images/iStockphoto

Agustina Callegari
Initiatives Lead, Technology Governance, Safety and International Cooperation, World Economic Forum
Khalid Alaamer
Lead, Digital Trade and AI, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 AIエクセレンス
  • 現在、AIガバナンスに向けたアプローチは世界中で大きく異なっており、それぞれがイノベーション、信頼、規制の独自のバランスを反映しています。
  • グローバル・サウスが含まれない地域で形成されたAIガバナンスモデルは、既存のデジタル格差をさらに拡大するような技術的方向性をもたらす恐れがあります。
  • 日本の「広島AIプロセス」は、多様な国家システムを接続し、相互運用性を促進することのできる柔軟な枠組みを提供し、国際的な協調を促進しています。

ソーシャルメディアの投稿をスクロールする時も、住宅ローンを申し込む時も、医師から診断を受ける時も、AIはすでにあなたの日々の選択に影響を与えています。日常的な利便性を超えて、AIは経済を変革し、グローバルな勢力図を変化させ、既存のガバナンス規則を揺るがしているのです。真に問われるべきは、もはやAIを規制するかどうかではなく、どのように規制すべきかという点です。

各国政府はAIのルール形成を競い合っていますが、そのアプローチは一様ではありません。リスクに基づく包括的な規制体系を構築する国もあれば、原則に基づく監督体制や国家主導の調整を通じて、イノベーションを戦略的優先事項と整合させるアプローチを取る国もあります。それぞれのモデルは、イノベーションとアカウンタビリティ、柔軟性と保護の間で様々なバランスを示しており、これらの違いを理解することは、協力可能な分野を見出す上で不可欠です。

こうした共通基盤を模索する動きは、すでに具体化しつつあります。欧州の詳細な規制ガイドラインから日本のコンセンサス重視型モデルに至るまで、各国は国境を越えたテクノロジーを統治する方法を学びつつあるのです。日本の「広島AIプロセス」のような取り組みは、こうした多様なアプローチを共通の透明性と協力体制を通じて結びつけ、規制論理の異なる国々がいかにして信頼できるグローバルなAIエコシステムの構築に向けて協力できるかを示しています。

ガバナンスに向けた多様な道筋

各国政府の間で、AIは透明性、アカウンタビリティ、安全性を備えるべきだという認識は共通していますが、これらの目標を達成するための道筋は国ごとに異なっています。

欧州の「EU AI法」はリスク管理を最優先とし、システムがもたらす潜在的な危害の程度に応じて分類を行っています。その上で、権利、健康、安全に影響を与えるシステムに対してより厳格な規制を適用しています。英国は原則ベースのモデルを採用しており、規制当局全体に公平性と説明責任を組み込むと同時に、実験的な取り組みにも柔軟に対応できる仕組みを整えています。米国はセキュリティ重視の市場主導型アプローチを採用しており、米国国立標準技術研究所(NIST)のAIリスク管理フレームワークなどの自主規制枠組みと、州および連邦政府によるイニシアチブを組み合わせた形で対応しています。一方、中国は指令型モデルを採用しており、登録制度やセキュリティ審査、コンテンツ監視を通じて、イノベーションを国家目標や社会の安定に合致させる方針を採用しています。

これらのアプローチはいずれも、イノベーション、監督、国民の信頼という要素の間で異なるバランスを取っていると言えます。一方、これらの論理体系が進化するにつれ、より根本的な課題が明らかになってきました。テクノロジーの進歩にガバナンスが追随しながらも、それを阻害しないようにするにはどうすればよいか。そして、各国の優先事項を国際的に整合性のあるルールへとどのように落とし込んでいくかという点です。最終的に、世界経済フォーラムの白書『Governance in the Age of Generative AI(生成AI時代のガバナンス)』で取り上げている360度フレームワークが示すように、信頼、安全性、人間中心のイノベーションという観点において、各国のアプローチがどの程度整合性を持つか、あるいは異なる道を歩むかが、AIガバナンスが国際協力を強化するのか、それとも規制の分断を深めるのかを決定づける要因となるでしょう。

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グローバル・サウスと新たなデジタル格差

アプローチの整合性は、特にグローバル・サウスにとって極めて緊急性の高い課題です。先進経済圏でAIガバナンスの枠組みが成熟する中、多くの開発途上国は独自の基準を策定することなく、外部の基準によってガバナンスが形作られてしまうリスクに直面しています。デジタルトランスフォーメーションは包摂的な成長を実現する大きな可能性を秘めていますが、データアクセス、インフラ、スキルにおける持続的な格差は、不平等をさらに拡大させる恐れがあります。

デジタル経済における影響力は、技術基準の設定、データフローの管理、AI開発の規範形成を行う少数の主体に集中したままです。これらの主体は、計算能力、独占的なデータ、研究能力において優位性を持ち、グローバルに効率性を推進してきました。ただしその恩恵は、地域の適応力や主体性を犠牲にして得られることが多いものです。主要国間の競争が激化する中、小規模経済国は言語的、社会的、開発的なその国独自の優先事項を十分に反映しない規制体系や技術システムに組み込まれる危険性があります。

この格差を解消するには、単なる投資以上のものが必要です。それは、主体性と協調体制の構築です。インフラ整備、スキル向上、研究エコシステムを強化し、地域間協力を進めることにより、各国は受動的なテクノロジー導入者から、積極的な貢献者へと進化することが可能になります。標準化プロセスへの参加や文脈に応じたガバナンスの推進を通じて、開発途上国は、AIの時代がより多様な声、価値観、ビジョンを反映したものとなるよう導くことができるでしょう。

具体的な協力事例としての広島AIプロセス

AIガバナンスに関するグローバルなアプローチが多様化し、能力格差が依然として存在する中、こうした分断を解消するための新たな取り組みが生まれています。2023年のG7議長国として日本が主導した「広島AIプロセス」は、「国際指針」、「国際行動規範」、そして企業や政府向けの自主的な「報告枠組み」から構成される包括的な枠組みを提案しています。

これらの枠組みにより、法的拘束力のない状況下においても、組織がAIの責任ある活用に対するアカウンタビリティとコミットメントを明確に示すことが可能になります。透明性の向上を通じて、大企業がAIリスクの管理方法やグローバルな期待との整合性をどのように確保しているかをステークホルダーに説明するための、実践的な仕組みを提供します。

この基盤をさらに発展させる形で、同フォーラムの『Advancing Responsible AI Innovation: A Playbook(責任あるAIイノベーション推進:実践ガイド)』では、こうした自主的な報告制度を通じて透明性を信頼、競争力、評判価値の向上に変えるための具体的な手法を示しています。「広島AIプロセス」は、『Japan’s Hiroshima AI Process: A Third Way in Global AI Governance(日本発「広島AIプロセス」:グローバルAIガバナンスにおける「第三の道」)』が提唱する、ソフトロー(法的拘束力はないが影響力の強い規則)を基盤とし、厳格な強制力よりも管理責任と透明性を重視する「第三の道」アプローチの好例と言えます。

さらに、このプロセスは、AI関連機関の整備を進めている国々が、正式な規制が整備される前に、共通の原則に沿った形で国際的な枠組みと連携するための柔軟な道筋も提供しています。その影響力は拡大を続けており、「広島AIプロセス・フレンズグループ」を通じて50カ国以上の国と地域が参加しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域では、2025年にマレーシアのクアラルンプールで開催された同フォーラムの「AIステークホルダー・ダイアログ」において、同プロセスが「ASEANレスポンシブルAIロードマップ」の実効性を担保する役割を果たしていることを示しました。具体的には、ガバナンスの調和、信頼できるデータ流通の実現、規制サンドボックスを活用した安全なイノベーションの実証試験などを後押しします。

政策立案者の間では、AIは透明性が高く、説明責任を果たし、人間の幸福と整合性を保つものでなければならないという認識が強まっています。アプローチの方法は異なりますが、目指すべき目標は共通しています。イノベーションと責任が相互に補完し合い、信頼性の高いエコシステムを構築することです。

日本の「広島AIプロセス」は新たなアプローチを提案しています。共通の透明性と協力関係を通じて、これらのシステムを相互に接続する協調的な枠組みです。これは各国の戦略や法的枠組みに取って代わるものではありませんが、それらが共存し、共に発展していくための環境を整える役割を果たします。

政策立案者、企業、標準化機関がこの実践的な相互運用性のレイヤーをさらに洗練させていけば、広島で始まったソフトローの実験は、実用的かつ信頼性が高く、インクルーシブなグローバルAIガバナンスの基盤へと発展していくでしょう。

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