日本における、障がい者雇用を通じたインクルーシブな労働力の構築

日本では政策強化などを通じ、障害者雇用を拡大しています。 Image: Treesan/Unsplash

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 日本では、国の新たな目標、研修制度、柔軟な就労経路プログラムなどにより、障害者雇用を拡大しています。
  • 政府や自治体は、プラットフォームを活用して企業向け支援を強化し、デジタル支援ツールやより充実した職業マッチングサービスを提供しています。
  • 日本の組織は、多様な人材を受け入れるため、インクルーシブな採用、個別最適化された評価制度、職場での配慮を採用し始めています。

働くことは、社会や経済への貢献にとどまらず、個人にとって経済的自立を可能にし、社会参加を実現する重要な手段です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「包摂的かつ持続可能な経済成長、ならびにすべての人々の完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)」は、こうした理念を明確に示しています。重要なのは、この目標が障がいの有無にかかわらず、すべての人に向けられている点です。

厚生労働省の2023年の報告によると、日本には人口の約9.2%にあたる1,160.2万人の障がい者が暮らしており、その数は増加傾向にあります。2024年の障がい者の実雇用率は、企業で2.41%、国や都道府県などの公的機関で3.07%および3.05%と、前年と比較して微増しています。さらに、企業の実雇用率は2004年の1.46%から20年で1.65倍となる2.41%に上昇しました。また、特別支援学校卒業生の約3割が一般企業に就職する一方、約3分の1は就労系福祉サービスを利用しており、こうしたサービスから一般企業への移行者数は20年前と比べて約20倍に増加しています。

一方、日本では少子高齢化の影響により、深刻な人手不足が続いています。2025年7月の調査では、正社員の人手不足を感じている企業の割合は50.8%、非正社員では28.7%に達しました。障がい者雇用の拡大は、この人手不足の緩和に寄与するだけでなく、CSR(企業の社会的責任)や多様性のある企業文化の形成、合理的配慮による業務の見直しにもつながります。

こうした状況を踏まえ、日本では政府、産業界、市民社会が連携し、より多くの障がい者が働くことができる環境づくりを進めています。

障がい者雇用の幅を広げる政府の取り組み

厚生労働省は2023年1月、障がい者の法定雇用率を現在の2.5%から2026年度には2.7%へ引き上げる方針を示しました。企業向けの法定雇用率は、2023年の2.3%から2024年の2.5%を経て2.7%まで段階的に上げられています

2025年10月には障がい者の「就労選択支援」が全国で本格導入され、個々人に合った働き方を選べるよう支援体制が強化されます。同制度では、課題とされてきた就労の選択肢や職場定着支援の充実を図り、より柔軟で持続可能な就労支援の構築が期待されています。

さらに、厚生労働省は2025年11月、障害者雇用の質向上を目的に、中小企業向け「もにす認定」の基準見直しと大企業への対象拡大案を提示しました。一定の基準を満たす中小企業が低利融資を受けられる仕組みで、2020年の創設以来、2024年6月末時点で545社が認定されています。現在は、評価項目の客観性向上や必須化、企業負担とのバランスを考慮した納付金制度の活用などが検討されています。

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雇用者向けの支援体制の強化

障がい者を雇用する側の支援も強化されてきました。2025年8月、東京都は重度障害者向けの就労支援プラットフォーム「重度障害者就労サポート」を開設し、求職者と企業双方に実用的な情報とサービスを提供しています。働きたい重度障害者と支援機関、企業等をつなぎ、就労事例の紹介や、視線入力装置、あご先で操作するマウスなど、障害の状況に応じたジタル機器の活用支援を実施。企業の問い合わせに応じて就労のマッチングなどを行う専門のコーディネーターが支援調整を行う仕組みも整備されるなど、新たな働き方の可能性を広げています。

さらに、高齢・障害・求職者雇用支援機構では、福祉や教育、医療等の分野で障害者の就労支援に携わる人を対象に、基礎的な知識やスキルの習得する研修を提供し、支援者側の能力向上も図っています。

企業に広がる障がい者の雇用

企業においても、障がい者の雇用は広がりを見せています。ソニーグループでは創業以来、年齢、性別、性的指向や障がいの有無にかかわらず、「ソニーの仕事を一緒にできる人材を採用する」方針のもと、多様性のある採用を進め、その多くを正社員として雇用しています。イノベーションには多様性が不可欠であると認識し、働く上での障壁を取り除いた環境づくりを重視していることから、「トップの意識」「周囲の意識」「人事総務による環境整備」「本人の意識」を4つの軸とし、これらを同時並行で進めることで多様性を推進しています。

マネーフォワードでは、障害のある社員向けに専用の人事評価制度を導入しています。新規採用者は職場への定着と継続就労を重視した有期契約からスタートし、正社員登用後は生産性を軸とした評価に移行。また、適切な配慮のもとで成果主義・目標管理による評価を受けながら、総合職への転換も可能としています。また、航空機部品の住友精密工業では耳の不自由な人たちが溶接などを担い、活躍しています。

誰もが働ける社会の実現に向けた歩み

働く機会へのアクセスが広がることは、障がい者の社会参加と経済的自立を支えるだけでなく、企業に多様な人材と視点をもたらし、レジリエンスやとノベーション力を高めます。政府、企業、市民社会の連携によるこうした取り組みの積み重ねは、インクルーシブで公正、そしてレジリエンスのある社会の基盤を築くことにも寄与します。

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