自然と生物多様性

ネイチャーポジティブ経済に向けた、50の投資機会

山々の向こうに見える海と空。ネイチャーポジティブ投資は、企業と地球環境の双方に利益をもたらします。

ネイチャーポジティブ投資は、企業と地球環境の双方に利益をもたらします。 Image: Luís Fernando Torres/Unsplash

Laura Fisher
Programme Lead, Nature Positive Industries, World Economic Forum
David Mueller
Project Fellow, Sector Transitions to Nature Positive, World Economic Forum
Anika Duggal
Project Fellow- Consultant, Oliver Wyman (Marsh McLennan)
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 金融、通貨システム自然と気候
  • 気候変動による衝撃、自然消失、資源のひっ迫が、世界中の企業の事業運営とビジネス手法を変容させています。
  • こうしたリスクを管理するための投資は、コスト削減効果をもたらし、新たな収益源を開拓し、よりレジリエンスの高い成長を導くことも可能です。
  • 世界経済フォーラムはオリバー・ワイマンの協力を得て、企業と地球の双方に利益をもたらす重要分野における投資可能な機会のパイプラインを特定しました。

気候変動による衝撃、自然消失、資源のひっ迫が、世界中の企業の事業運営を大きく変革しています。洪水や干ばつによるサプライチェーンの混乱、水ストレスや自然消失による事業活動への影響、環境関連の訴訟や規制への対応など、 自然関連のリスクはすでに顕在化しています。

こうしたリスクを管理するための投資は多くの場合、コスト削減効果をもたらし、新たな収益源を開拓し、よりレジリエンスの高い成長を導きます。

世界経済フォーラムはオリバー・ワイマンの協力を得て、経済的リターンを生み出すネイチャーポジティブな事業活動について体系的な分析を実施。詳細な報告書は、2026年初頭に公表される予定です。

分析の結果、企業と地球の双方に利益をもたらす重要分野における投資可能な機会のパイプラインが特定されました。

これらは効率改善から業界全体の変革に至るまでの実践的な解決策であり、その多くは今日すでに大規模に展開可能となっています。企業にとって、これらは環境スチュワードシップを実現するための道筋であるだけでなく、競争優位性と収益創出の源泉でもあります。

ネイチャーポジティブ経済への移行がもたらすビジネス上のメリット

ネイチャーポジティブ経済への移行により、2030年までに10.1兆ドルのビジネス価値が生み出される可能性があります。早期に対応する企業は、コスト削減、サプライチェーンのレジリエンス強化、新たな市場へのアクセスが可能となるでしょう。

ただ、企業には依然としてためらう姿勢も見られます。なぜならば、資金は依然として不足しており、自然への投資を成長の推進力ではなくコストと捉える企業が多いからです。

このような見方は急速に時代遅れになりつつあります。様々な業界でリードする企業は、ネイチャーポジティブ戦略をとることにより、あらゆる企業に不可欠な資源である自然資本を保護すると同時に、収益性の向上が可能であることを実証しています。

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同フォーラムの分析では、農業、食品からセメント、鉱業、エネルギー、テクノロジーに至る12の重要分野において、投資可能な機会が数多く存在することが明らかになりました。これらの機会は主に5つのカテゴリーに分類され、それぞれ事業運営への統合方法が異なります。

1. 漸進的機会:見過ごされがちな効率化の機会

漸進的機会は、比較的容易に実現可能なものです。比較的低コストで実施可能な効率化策であり、環境負荷を低減すると同時に大幅なコスト削減を実現することができる可能性があります。

例えばインドに拠点を置く多国籍企業、マヒンドラ・グループは、テクノロジー、自動車、農業、再生可能エネルギー、不動産の各事業分野で先進的な水管理システムを導入し、効率性と水資源の安全性を向上させると同時に、地域の淡水源への負担を軽減しています。

こうした対策は迅速に展開可能であり、即時の運営コスト削減を実現するとともに、水ストレスの高い地域におけるレジリエンス構築に寄与します。

2. 展開可能な機会:実証済みテクノロジーの拡大

展開可能な機会とは、技術的に実現可能であり、市場にも存在するものの、まだ商業的に主流化していないものです。スイスに拠点を有するホルシムは、持続可能なセメント・コンクリート分野の先駆者です。同社は建設、解体時に排出される廃棄物を再利用したコンクリートを製造しており、製品によっては10%から最大100%の再生材を配合しています。

こうした技術の早期導入、拡大に投資することで、企業は競合他社との差別化を図り、持続可能な素材を求める顧客ニーズに応え、新規資源への依存を減らす市場の構築に貢献することができるでしょう。

こうした機会のいくつかは依然として高コストの投入材料に依存しており、プレミアム価格での販売が必要ですが、コスト曲線は時間とともに低下しています。

3. 新興の機会:明日のイノベーションのパイロット事業

新興の機会とは、大きな可能性を秘めた初期段階のテクノロジーを指します。企業は、将来の市場に向けた能力構築を支援するため、これらの革新的な技術をパイロット事業として導入する必要があります。その一例が、センサー誘導型、AI活用型の灌漑(かんがい)スケジュール、地下点滴灌漑システム、自動化バルブといった革新的な灌漑ソリューションの開発です。

ネイチャーポジティブ投資の機会:5つの主要タイプ
ネイチャーポジティブ投資の機会:5つの主要タイプ Image: The World Economic Forum/Oliver Wyman

これらの技術は水利用効率を向上させ、水ストレス地域における流出水を削減します。多くの導入事例は依然として試験段階ですが、農業における精密水管理の最先端を体現しています。

4. エコシステムの機会:バリューチェーンを横断する連携

一部の機会には、セクターを超えた連携が求められます。バッテリーリサイクルは、そのようなエコシステム戦略の一例です。ドイツの総合化学メーカー、BASFはバリューチェーン全体で大規模リサイクル施設への投資を進めておりサイリブ(Cylib)トゥーゼロ(Tozero)といったスタートアップ企業は回収プロセスの革新に取り組んでいます。

企業にとって、こうしたエコシステムに参加することは、重要資材へのアクセスを確保し、循環型サプライチェーンを支え、コストと利益の両方を分散させる新たなパートナーシップを創出することにつながります。一時的な副作用、つまり「リバウンド効果」を制御できれば、バリューチェーン全体での循環性への取り組みは、天然資源の採取を地球の限界内に収める可能性を秘めています。

企業は、こうした循環型かつ再生可能なバリューチェーンを実現するため、同業他社、サプライヤー、スタートアップとの連携が必要です。

5. 変革的機会:産業の再構築

最後に、変革的機会とは産業全体を再構築する、大規模で高度に成熟した投資を伴うものです。高い資本要件と低いリスクを背景に、金融機関は主流の商業金融商品を通じた融資および投資を迅速に提供します。

これは自然保護活動における「究極の目標」ですが、現時点でこの基準に完全に合致する機会は存在しません。その理由は、構造的な変革をやり遂げる覚悟を決め、資源がひっ迫する中でビジネスモデルを見直し、繁栄するビジネスモデルを新たに生み出す必要があるからです。企業と金融機関は協力し、他の機会を成熟度と規模の曲線に沿って前進させ、真に変革的な機会を構築する必要があります。

このスペクトルにより、企業は迅速な成果が期待できる課題から着手し、より深い変革に備えることが可能となります。重要な点は、これらの機会の多くがバリューチェーンに明確に位置付けられることです。このことは、ネイチャーポジティブ戦略が中核事業の成長を妨げるのではなく、裏付けとなることを示しています。

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企業がネイチャーポジティブ戦略を採用すべき理由

企業がなすべき選択は明らかです。機会を取り入れることで、環境ショックに対するレジリエンスが強化され、新たな収益源が創出され、ステークホルダーとの信頼関係が構築されます。無視すれば、コスト増、資産の陳腐化、競争力の喪失というリスクが生じるでしょう。

必要なツールや技術はすでに存在しています。求められるのは企業のリーダーシップです。今日、段階的な解決策に投資し、明日、新たなアプローチを展開し、長期的な変革に投資するのです。

ネイチャーポジティブ投資の機会を戦略に組み込むことで、成長、レジリエンス、繁栄する地球をもたらすネイチャーポジティブ経済への移行を加速することが可能となるでしょう。

50の投資機会に関する完全版のレポートは、報告書『ネイチャーポジティブ・トランジション』シリーズの一環として2026年春に公開予定です。詳細については、「ネイチャーポジティブ・トランジション」イニシアチブのページをご覧ください。

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