自然と生物多様性

ブルーエコノミーで挑む、持続可能性の先へ

海の養殖場の写真。再生型ブルーエコノミーは、海洋および沿岸生態系の回復に焦点を当てつつ、グローバルな経済成長を支えることを目指しています。

再生型ブルーエコノミーは、海洋および沿岸生態系の回復に焦点を当てつつ、グローバルな経済成長を支えることを目指しています。 Image: Unsplash/Sharad

Helle Herk-Hansen
Vice-President, Environment, Vattenfall
U. Rashid Sumaila
Professor and Director, Fisheries Economics Research Unit, UBC Fisheries Centre
  • 海洋の健全性を示すあらゆる指標が低下を続ける中、私たちは持続可能性の枠を超え、海洋を再生するブルーエコノミーを構築しなければなりません。
  • 再生型アプローチをとることにより、生態系の繁栄と、市場とコミュニティのレジリエンスが確実につながるようになります。
  • 再生型ブルーエコノミーでは、これらの成果をもたらす産業に投資と政策支援を集中させ、成果を上げられない産業からは段階的に撤退していきます。

海洋の健全性を示すあらゆる指標が低下を続ける中、持続可能性の枠を超え、海洋を再生するブルーエコノミーを構築することが不可欠です。漁業、養殖業、海運、観光業、エネルギー産業、バイオテクノロジーなど、海洋に依存するあらゆる主要セクターが、「海洋の回復を長期的なビジネス成功の基盤にする形へと進化することができるか」という、同じ課題に直面しています。

再生とは、抽象的な目標ではありません。海洋を劣化したままにすれば、経済的展望と人間のウェルビーイングが損なわれるという、現実的な認識に基づくものです。再生型アプローチは生態系の回復と長期的な収益的、社会的繁栄を連動させ、健全な生態系がレジリエンスの高い市場とコミュニティを確実に生み出すようにします。

課題は、海洋産業が成長を続けるかどうかではなく、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の内側でその成長を再定義し、共有された繁栄を支えられるかどうかという点にあります。再生型ブルーエコノミーでは、サンゴ礁、漁業資源、海岸線、繁栄するコミュニティなどの回復と価値向上によって成功を測定。真の課題は、これらの成果を例外ではなく当たり前のものとすることです。

搾取から再生への転換

長年にわたり、ブルーエコノミーは産業指標の成長によって定義されてきました。貨物トン数、水揚げ量、設置済みエネルギー容量、観光客数などです。再生型アプローチでは、これらの分野における活動が総合的に海洋の生命維持能力を高めているかを問い直します。一部の分野はすでに生態学的限界に達している一方、より厳格な保護策の下で拡大の余地がある分野もあり、さらに修復やデータ活用を中心とした新たな分野も台頭しつつあります。

天然魚漁獲量は年間約9,000万トン。この10年間、ほぼ横ばいの状態が続いています。一方、養殖漁業は2022年に初めて天然漁獲量を上回り、9,440万トンに達しました。これは供給構造に根本的な変化が生じていることを示しています。今後の天然漁業の方向性は、漁獲量の増加ではなく、資源の再建、生息環境の回復、そして小規模漁業従事者の権利保護にあります。世界の貿易量の80%以上を輸送し、グローバルな温室効果ガスの約2%を排出する海運業界も、国際海事機関(IMO)が掲げる2050年までのネットゼロ排出戦略の下で、自らの方向性を再評価。この取り組みの成否は、よりクリーンな燃料の採用、新たな設計技術の開発、そして検証済みの排出削減量を適切に評価する一貫した規制体制の構築にかかっています。

洋上再生可能エネルギーは急速に拡大しており、グローバルな洋上風力発電設備容量は2024年に83ギガワット(10年前の3倍以上)に達し、2050年までに2000ギガワットに達すると予測されています。この分野は、成長と再生がどのように融合し得るかを示す好例です。低炭素エネルギーの供給、沿岸地域における雇用創出、そして適切に立地された場合の海洋生息地の回復支援や漁業との共存など、多面的なメリットをもたらしています。

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移行とレジリエンスに向けた計画

各国では、海洋の再生を国家海洋計画に統合する動きが始まっています。主要国の首脳による「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」は、すべての沿岸国および島しょ国に対し、海洋産業を生態系の健全性や気候目標と調和させる「持続可能な海洋計画」の策定を呼びかけています。このような計画は、各国政府が各産業分野の転換を予測し、有害な慣行の廃止、自然再生の拡大、新たなビジネスチャンスの創出を支援する上で役立ちます。インドネシアが「国家ブルーエコノミーロードマップ」の一環として、有望な海藻産業の拡大を計画している事例は、このアプローチの好例です。海藻産業の拡大を、下流工程の加工業、生計手段の創出、環境負荷の少ない水産養殖と結びつけることで、包括的な海洋開発を実現しようとしています。

英国では、生物多様性ネットゲイン(BNG)規制により、計画承認の条件として自然環境を測定可能な形で改善することが義務付けられており、海洋分野におけるネットゲインの導入も検討されています。欧州連合の「自然回復法」では、劣化した陸域、海域の少なくとも20%を2030年までに回復し、2050年までにすべての生態系を回復させることを義務化。中国では、「生態文明」という国家政策の基本方針に基づき、生態系機能に関する指標と連動したレッドライン設定や統合的な海洋管理を通じて、沿岸政策の見直しが進められています。こうした動きが示すのは、ガバナンスの大きな転換です。自然再生は自発的実践の域を超え、法的、計画的、経済的枠組みに組み込まれるようになっているのです。

自然再生と最先端テクノロジーの台頭

海洋修復は今やインフラ整備と同等の規模に迫っています。マングローブ林、海草藻場、サンゴ礁は食料安全保障と炭素貯留において重要な役割を果たしていますが、投資対象として成立させるためには、安定した資金供給、信頼性の高いモニタリング、長期的な管理体制が不可欠です。EU法や「国連生態系回復の10年」イニシアチブは、データシステム、基準、スキルへの需要を喚起しており、生態系回復をサービスとして評価する再生産業の基盤を築いています。

また、新興テクノロジーがフロンティアを拡大しています。海洋アルカリ度強化や大規模海藻栽培などの海洋二酸化炭素除去(mCDR)手法は、将来の気候戦略に貢献する可能性を秘めていますが、現段階ではまだ初期研究の段階。米国アカデミーなどは、実用化前に厳格な試験とモニタリング、ガバナンスの整備を求めています。現時点では、mCDRは緩和策としてではなく、科学的フロンティアと捉えるべきでしょう。

公平性の格差解消

低環境負荷型養殖、洋上再生可能エネルギー、生態系回復、透明性の高いデータシステムは資本を集めていますが、沿岸開発途上国には、経済協力開発機構(OECD)の平均を8~12%上回る借入コスト、限られた財政余地、気候変動による衝撃への脆弱性といった、構造的な障壁が存在します。低利融資や技術提携がなければ、これらの経済圏は取り残されてしまう可能性があります。ブレンデッド・ファイナンス、ブルーボンド、債務自然交換は一定の支援となり得ますが、長期的な進展には、国内での計画、執行、監視が可能な能力構築が不可欠です。真の公平性とは、新たなブルーエコノミーの恩恵を受ける主体のバランスを見直し、資本、技術、市場へのアクセスが、海洋に最も依存する人々の力となることを保証することを意味します。この転換がなされなければ、ブルーエコノミーへの移行は包摂的かつレジリエンスの高い海洋の繁栄を育むのではなく、従来の資源依存型のパターンを繰り返すリスクがあるのです。

変化の兆しと今後の展望

海洋関連産業の各分野において、すでに異なる発展の道筋が見えています。

漁業とエネルギー資源の採取は依然として基盤産業ではありますが、生態系の許容限界が成長の上限を定め、競争は効率性、透明性、検証可能な影響力へと方向転換するでしょう。一方、養殖業、洋上再生可能エネルギー、沿岸観光業は、生物多様性保全策と適正な労働慣行を組み込みつつ、業界主導の再生型アプローチの可能性をさらに追求することで、成長の余地があります。また、海洋バイオテクノロジー、生態系回復、海洋データサービスは、ニッチ分野から最前線へと移行し、将来的には再生そのものを専門とするグローバルな産業に発展する可能性を秘めています。

ただし、これらの変化は均一ではありません。成熟した産業セクターは脱炭素化と生態系機能の回復を迫られている一方、新興セクターは科学的根拠に基づく取り組み、モニタリング体制の確立、公平な利益配分を通じて正当性を確立する必要があります。これらを総合すると、海洋経済のポートフォリオ的展望が浮かび上がります。それは、依存する自然資本を補充する産業に長期的な価値が蓄積されていくという構図です。

したがって、次の成長段階は単なる生産量ではなく、回復への貢献度、すなわち、どれだけのバイオマスが再構築され、どれだけの炭素が回避または固定され、どれだけの生物多様性が回復され、その過程でどれだけの生計にレジリエンスがもたらされたかによって評価されるでしょう。

再生型ブルーエコノミーでは、これらの成果をもたらす産業に投資と政策支援を集中させ、成果を上げられない産業からは段階的に撤退していくことになるでしょう。

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