インテリジェント時代のAIガバナンス~測定からモメンタムへ~

グローバルなAIガバナンスを追跡し、企業と市民に明確さと確信をもたらす、実行可能なシステムを構築します。 Image: Getty Images/Cecilie_Arcurs
- AIには強固な規制が必要であり、健全なガバナンス規則に基づいて開発されなければなりません。
- AIガバナンスを評価するための様々な指標が作成されており、最新のものは「AIガバナンス国際評価指標(AGILEインデックス)2025」です。
- これらの指標は、明確さと信頼を提供する強制力のあるシステムの中でAIの発展を追跡することにより、AIへの信頼構築を支援します。
優れた規制は優れた情報から始まりますが、AIに関してはこの「情報」がほとんどありません。AIシステムの構築、訓練、導入に関するデータは依然として断片化されており、企業に分散しているか、独自プロセスに埋もれているか、まったく収集されていないのが実情です。
このため、AI規制に取り組む各国政府は、自主的な開示や不統一な報告基準に基づく不完全な情報しか得られず、システム内部で実際に何が起きているのかを把握しにくくなっています。その結果、規制当局はアルゴリズムの偏りやデータの悪用といったリスクを管理するよう求められていても、それらを理解するために必要な証拠が得られない状況に置かれています。国境を越えて効果的かつ一貫した対応を取ることはさらに困難です。
近年、各国政府や産業界によるAIガバナンスの現状評価に役立つ、様々な指標や研究が登場しています。これには経済協力開発機構(OECD)の「AI政策に関するオブザーバトリー(AI Policy Observatory:OECD.AI)」、オックスフォード・インサイトによる「AIレディネス・インデックス(AI Readiness Index)」、スタンフォード大学の「AIインデックスレポート(AI Index Report)」、英国のメディア企業トータス・メディアの「グローバルAIインデックス(Global AI Index)」などが含まれます。いずれも貴重な知見を提供していますが、イノベーションや投資を重視するもの、倫理、ガバナンス、人的資本の準備状況を評価するものなど、焦点は様々です。
AIガバナンス国際評価指標(AGILEインデックス)は、この分野に新たに加わった指標。40カ国以上を対象とし、法的枠組み、制度的能力、社会的セーフガードが進化している領域と進化していない領域を比較的に概観します。
このような指標の真の価値は、国々を順位付けすることではなく、AI開発における格差と機会を明らかにすることにあります。戦略文書は充実しているものの、その施行が不十分な国々もあれば、明確な権限はあっても監督体制が分断されている国々もあります。また、多くの国では、法的、倫理的なガードレールが整備されるより速いペースで、イノベーション政策が進んでいます。
この差分が課題となります。共通のエビデンスという基盤がなければ、AI規制は促進的かつ効果的なものになるのではなく、事後対応的あるいは象徴的なものになるリスクがあるからです。
理念から実践へ
規制の理想像は、それを支える制度の整備よりも早く発展し、運用面での成熟度にもばらつきが生じます。例えば、高所得国では規制構造や技術的能力がより強固である傾向があります。一方、多くの中所得国では国民の意識や政策意図は見られるものの、執行や調整に苦労しています。状況によっては、規制に関する議論は行われていても、必ずしも義務付けや監督、制度的調整へと結びついていないケースもあります。
ただし、インフラが伴わない野心は単なる願望に過ぎません。AIガバナンスは原則を超え、執行、実施、アカウンタビリティまでを網羅しなければなりません。
2025年版のAGILEインデックスは、中国の研究機関コンソーシアムにより開発され、43の法的、制度的、社会的指標を通じて各国のAIガバナンスを評価。各国を「総合的リーダー」と呼ばれる成熟した枠組みを有する国々から、「基盤構築期」と呼ばれる基礎整備段階の国々まで、4つのプロファイルに分類します。
同指標は世界各国のAI政策システムの構造的実態を捉えることを目的としており、最新版では以下の3点が示されています。
1. AIの透明性は力である
AGILEインデックスは各国の強みと弱点を明らかにすることで、各国政府が単なる発表段階から能力構築へと移行するよう促します。規制枠組みや説明責任メカニズムなど、AIガバナンスに関するデータを公開している国々は、制度的成熟度の指標において著しく高いスコアを獲得していることが指数から明らかになりました。透明性そのものが進歩の原動力となり、他国とのベンチマークや政策学習を可能にするのです。
2. AIに対する準備状況にはばらつきがある
地域間、所得グループ間、さらには各国政府の内部においても、AIに対する制度的準備状況には極めて大きな非対称性が存在します。ある国では革新担当省庁が急速に進展する一方で、法制度担当機関が後れを取っています。また別の国では、政策立案者が実証済みの枠組みを欠いているため、AI対策に踏み切れない状況です。
制度的側面のAGILEインデックスでは、規制実施能力において高所得国と中所得国の間に40ポイント以上の格差が存在することが明らかになりました。先進国間でも、監督機関やデータ保護機関が革新機関に遅れを取るケースが多く、同指標が数値化する内部の分断を浮き彫りにしています。
3. AIガバナンスは機敏であるべきである
シンガポール、英国、韓国など複数の国々が、機敏なガバナンスが理論上だけでなく実践可能であることを実証しています。一方、その進歩は共有され、研究され、拡大されなければなりません。
これらの国々がAGILEインデックスでトップクラスである理由は、規制サンドボックスから設計段階での倫理枠組みまで、原則を実践に移すアジャイルな仕組みを組み込んでいるからです。その経験は、柔軟でありながら説明責任のあるAIシステムを構築するためのモデルとなるでしょう。
測定から推進力へ
ガバナンスは、導こうとするイノベーションと同等の速さで進化しなければなりません。2025年7月に発足した世界経済フォーラムの「グローバル規制イノベーション・プラットフォーム(GRIP)」は、この進化を促進するよう支援することを目指しています。具体的には、官民のステークホルダーを結集し、世界中のベストプラクティスから学び、実践的な枠組みを共同開発し、アジャイルで包括的なガバナンスに関する実践コミュニティを構築します。
AGILEインデックスのような取り組みはこのためのダッシュボードを提供し、GRIPはいわばハンドルの役割を果たします。指標が測定を可能にするのに対し、GRIPはデータと政策、そして現実の改革をつなぐ「結合組織」を構築するものです。政策ラウンドテーブルの開催、共通ツールキットの共有、全国規模の自己評価パイロットプログラムなど、どのような方法であれ、各国政府は理念からプロトタイプへ、そして検討段階の文書から実際の政策へと、より迅速に移行していく必要があります。
AIガバナンスの今後の道筋
成熟度の測定は重要ですが、構築は不可欠です
これはつまり、目標と能力の間にあるギャップを明確にすることを意味します。AIに対する信頼は、原則の確立だけでなく、企業や市民に明確な指針と安心感を与える実行可能な制度を通じても確保されなければなりません。これらの分野で自らの進捗を測定しようとする国々は、すでに時代の先端を走っています。
行動を起こす準備ができている者にとって、扉はすでに開かれています。インテリジェント時代においてAIガバナンスが停滞すれば、それはすでに遅れを取っているも同然なのです。
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