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スチュワードシップこそが、将来の世代に向けた企業価値を構築する鍵

責任を持って管理する「スチュワードシップ」の考え方を取り入れる企業は、競争力と持続可能性を強化し、将来世代に向けた価値創造を促進することができます。

責任を持って管理する「スチュワードシップ」の考え方を取り入れる企業は、競争力と持続可能性を強化し、将来世代に向けた価値創造を促進することができます。 Image: Gustavo Quepons/Unsplash

Kahlil (KB) Byrd
CEO and Founder, Invest America
Alexis Crow
Partner, Chief Economist, PwC
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2025
  • 企業は現在、財務、環境、人材という構造的な課題に直面しており、短期的な利益を超えた長期的なスチュワードシップが求められています。
  • 責任を持って管理する「スチュワードシップ」の考え方を取り入れる企業は、競争力と持続可能性を強化し、将来世代に向けた価値創造を促進することができます。
  • スチュワードシップは責任とレジリエンスのバランスを取り、史上最大規模の世代間資産移転期において、「忍耐強い資本」を引き付ける役割を果たします。

現代の企業はますます複雑化する環境下で事業運営を行っています。サプライチェーンのボトルネック対応から電力供給の安定性確保、絶えず変化する規制環境への対応、労働力の変革、サイバーセキュリティへの投資の必要性に至るまで、今日のCEO、経営陣、取締役会は、従来の業務範囲や経験をはるかに超える多様な課題に直面しています。

自社内で業績を上げ、価値を創造するためには、多くの経営者や取締役会が長期的な視点で意思決定を行う必要があります。その成果が、四半期ごとの業績評価や財務報告だけでは必ずしも反映されない場合も少なくありません。

現代の先進企業は、マクロ経済全体に波及する三つの構造的要因に対応して意思決定を行うべきです。第一に、財務状況の変化(高齢化社会の進展、過去最高水準の公的債務、財政ポピュリズムの台頭、粘着的なインフレ、債券市場の混乱など)が挙げられます。第二に、増大するエネルギー需要に対応するための天然資源を巡る争奪戦(事業運営や生産性、GDP成長に影響を与える環境条件の変化も含む)が激化していること。第三に、将来に向けた人材とスキルの確保(技術投資の促進や、人材育成を支援するための施策導入の必要性を含む)があります。これら三つの要因は準主権的な課題と言えます。つまり、一国の政府だけでは解決策を見出すことができず、企業の積極的な関与が一層求められるようになっているのです。

経営者や投資家は、史上最大規模の資産移転期において、この複雑な環境を乗り切らなければなりません。米国では、こうした資産の約37%が有価証券やその他の金融商品(つまり流動性資産)です。財務、環境、人材という三つの永続的課題をリアルタイムで力強く克服する企業こそが、こうした「忍耐強い資本」を惹きつけることができるでしょう。それにより、現在社会に根付いている文化的変化やアクティビズムから生じる避けられない変化や衝撃に対しても、レジリエンスを発揮することができます。

「スチュワードシップの概念」は、ビジネスリーダーたちがこれらの課題に取り組むための、バランスの取れた、潜在的かつ実行可能なアプローチを提供します。経営陣や企業文化にスチュワードシップの実践を浸透させることで、企業は将来の世代、従業員、顧客、投資家のために価値を構築する立場に立つことができるでしょう。

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スチュワードシップの起源

スチュワードシップの概念は、ステークホルダー対株主という数十年来の議論の狭間に位置しています。これは、経済発展をGDPという狭い定義を超えてより広範に捉えるべきだという考え方と一致しており、企業の帳簿価値も、利益や株主還元という狭い定義を超えて、はるかに多様な方法で決定、向上させることができるという見解に基づきます。

企業の経営者として、私たちは与えられた資産の管理者です。これらの資産は適切に使用、保全、増大されなければなりません。さらに、事業運営の複雑化に伴い、経営者は自らの行動が社会に与える波及効果(環境への影響も含む)を考慮する必要があります。

同時に、利益は必要不可欠です。なぜなら、利益があるからこそ、事業の未来を確保するための投資が可能となり、雇用の維持が保証されるからです。同様に、スチュワードシップは計画立案、イノベーション、起業家精神の活用といった領域に現れる、ビジネスの創造的側面を促進します。

本質的に、スチュワードシップの文化とは、事業活動が社会に及ぼす波及効果(プラスにもマイナスにもなり得る)を認識するとともに、雇用創出、起業家精神、さらにはリスクテイクを通じて現代社会に富を生み出すビジネスの潜在的な恩恵を認める文化なのです。

なぜ重要なのか

この寄稿文を読んでいる経営幹部の中には、「なぜ今、スチュワードシップが重要なのか」という疑問を持たれる方もいるでしょう。現在、米国の株式指数は過去最高値を更新し続けており、ESG(環境・社会・ガバナンス)やステークホルダー重視の考え方、持続可能性といった概念は、遠い昔の記憶のように感じられているかもしれません。

私たちは今、歴史上最大規模の世代間資産移転の最中にあります。今後20~25年間で推定83兆ドルもの資産が移転される見込みです。このうち3分の1以上が米国内で発生すると予測されています。

20~25年間にわたる市場別資産移転の推定額(対数スケール)。
20~25年間にわたる市場別資産移転の推定額(対数スケール)。 Image: UBS based on OECD, IMF, World Bank and national statistics offices data

そして米国の場合、現在の資産の大半は実物資産(所有不動産など)ではなく、金融資産として保有されています。

国別資産配分:証券およびその他の金融商品。
国別資産配分:証券およびその他の金融商品。 Image: UBS based on Australian Bureau of Statistics, Department of Statistics Singapore, Swiss National Bank Statistics, Office for National Statistics UK, Federal Reserve, ECB and OECD data

このことは、この資産移転が進むにつれ、米国の各世代は企業投資やプライベートマーケットへの投資を推進する主要な原動力となる可能性が高いことを意味します。

こういった資産の引受先となるファミリーオフィスは、どのような企業やファンドに投資する傾向があるでしょうか。

マルチファミリーオフィスは、将来の世代に向けたスチュワードシップを実践する企業への出資を志向する可能性が高いと考えられます。その際、経営陣は年金基金や政府系ファンドといった大規模な機関投資家の手法を参考にすることになるでしょう。これらの投資家は、長期的な資産形成の担い手としてスチュワードの役割を果たしながら、持続的投資に適した企業への資本配分に関する基準づくりにおいて長く影響力を持ってきました。

スチュワードシップの実践例

良いニュースとして、現在のマクロ経済の雑音や不確実性にもかかわらず、富と情報の非対称性に悩まされる世界において、スチュワードシップの芽生えが見られ、実を結びつつあることが挙げられます。

例えば財務分野では、強固な財務基盤を維持する能力が、避けられない金融不安定期においても組織のレジリエンスを高める可能性を秘めています。プライベートエクイティ分野では、ポートフォリオ企業の従業員に所有権を提供するための共同かつ連携した取り組み、特に従業員向けの金融リテラシー教育の提供などが称賛に値する取り組みです。これらの取り組みはさらに強化されるべきでしょう。

また、財務資本と人的資本の両方を強化する取り組みとして、世界有数のプライベートエクイティ企業や機関投資家が連携し、ポートフォリオ企業内での従業員持株制度の拡大や金融リテラシープログラムの強化に向けた道筋を模索しています。

環境分野では、世界有数の食品企業が環境再生型農業への投資を明確に表明しています。この実践には、食料安全保障の強化や生物多様性の向上など、多岐にわたる利点があります。さらに、人的資本のスチュワードシップとして、米国の主要企業の一部は、投資と探査活動で生成AIとのバランスを取り、生産性を向上させると同時に、現場でのスキル習得やマネジメント研修、さらにはより幅広い金銭的、非金銭的福利厚生の提供方法を学びつつあります。

このスチュワードシップの概念は、過去からの根本的な脱却を目指すものでも、ビジネス運営における全く新しいアプローチでもありません。むしろ、長期的視野に立って優れた個人や家族、機関投資家が実践してきた既存の指導原理を前面に押し出し、競争市場においてこれらの企業を他社と差別化するものです。

今まさにスチュワードシップに注力する人々は、83兆ドル規模の「忍耐強い資本」から、質の高い投資先へ移行する資金を呼び込める可能性が高まります。 また、財務資本、環境資本、人的資本のスチュワードシップを実践することは、避けられないアクティビズムの風がどの方向から吹こうとも、 企業やファンドがレジリエンスを保持する助けとなるでしょう。

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