持続可能な開発

ブレンデッド・ファイナンスが再定義する、主権国家の役割

ブレンデッド・ファイナンスは、持続可能な開発を拡大する上で極めて重要な要素です。

ブレンデッド・ファイナンスは、持続可能な開発を拡大する上で極めて重要な要素です。 Image: Freepik

Seham Farouk
Senior Expert, Sustainable Finance and PFM, Minister of Finance Technical Office, Egypt Government
Sourajit Aiyer
Technical Expert, Sustainable Finance, German Agency for International Cooperation (GIZ) GmbH
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 金融、通貨システム
  • 公的予算が圧迫されている状況下で、ブレンデッド・ファイナンスは民間資金や慈善投資を持続可能な開発に活用するための有効な手段を提供します。
  • ただし、その規模拡大に必要な触媒的資本を供給するためには、主権機関の役割を「リスク吸収者」から「リスク戦略家」へと転換することが不可欠です。
  • 主権国家は、精密かつ戦略的なアプローチを取ることにより、ブレンデッド・ファイナンスを将来の持続可能な開発を体系的に促進する基盤へと発展させなければなりません。

現在の世界では、政府開発援助(ODA)や多国間機関が選別的になり、公的予算がひっ迫しています。その中で、民間資金と慈善投資を持続可能な開発に向けて拡大するためには、ブレンデッド・ファイナンスが有効な手段となるでしょう。

ブレンデッド・ファイナンスとは、公的資金を活用することで民間投資や慈善資金を呼び込み、投資家のリスクを軽減する仕組みです。

ただし、規模拡大に必要な触媒的資本を供給できるかどうかは、ブレンデッド・ファイナンスの構造的な投資可能性を決定する文脈的要因を理解し、各国政府や国営企業といった主権機関の役割を「リスク吸収者」から「リスク戦略家」へと転換させることができるかどうかにかかっています。

事例として、インドネシアの「SDGインドネシア・ワン(SDG Indonesia One)」プラットフォームがあります。国営企業PT SMIによって設立されたこのプラットフォームは、複数の金融機関を結集し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けたプロジェクトの共同資金調達とリスク軽減を実現。このアプローチにより、開発目標に向けた民間資本の動員に革新的な仕組みを活用することが可能となり、主権国家は戦略的な推進役へと変貌を遂げました。

では、このような事例からどのような教訓を得られるでしょうか。

ブレンデッド・ファイナンスにおける触媒的インパクトの実現

ブレンデッド・ファイナンスを通じて触媒的インパクトを達成するための第一歩は、資金対象となるプロジェクトの性質、受益者の特性、地域的背景という、3つの相互に関連した文脈的要因を理解することです。

これらを分析することで、各国政府は、認識されるリスクを低減し民間資本を動員する、ターゲットを絞った取引を設計し、投資可能な取引を拡大することが可能となります。具体的には以下のとおりです。

1. 資金対象となるプロジェクトの性質

生産ではなく消費を最終目的とするプロジェクトは、予測可能なキャッシュフローの創出が難しい場合があります。これは、非正規職または低所得層を対象にした場合に、収入評価が困難であるためです。このようなケースでは、主権国家の強みを活かし、収入評価システムの開発や部分的な保証の提供に補助金を活用することにより、信用リスクを軽減することができます。

また、長期的なプロジェクトでは、収益が発生する前に返済圧力が生じることがよくあります。この場合、政府による介入により、利子補助や返済延期を通じて収益を安定化させることが可能です。

さらに、特定の分野では、銀行融資の標準的な返済期間を超える返済期間が必要となるケースもあります。各国政府が主導するプラットフォームは、プロジェクトの段階に応じて投資家の参入時期を分散させることができ、流動性リスクの軽減に役立ちます。

一方、技術が初期段階にある場合などは、政府はパイロット事業への資金提供、概念実証のための出資、または債務不履行保証を提供することでイノベーションの促進役となり、技術リスクを低減できます。

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確立された技術であっても、コストが高止まりしている場合には障壁が生じます。輸入関税の免除、対象を絞った補助金、産業政策との予算調整といった政策介入により、新技術を手頃な価格にすることが可能です。

例えばブラジルの国家気候変動基金では、政府が初期リスクを吸収することで、民間投資家による小規模・中規模の再生可能エネルギープロジェクトへの資金提供を促進。結果として政府の役割を戦略的な触媒へと転換させることに成功しました。

2. 受益者の特性

返済能力を超える規模の返済が必要な場合、主権国家は市場金利を下回る条件で融資を行う、または利子補助を提供することで、資金提供者への適正なリターンを確保すると同時に、これまで支援が行き届いていなかった層にも資金を供給することが可能になります。

専門知識のない受益者が銀行融資可能な提案書を作成できない場合も、政府は能力構築支援や助言支援を提供することができるでしょう。

一方、新興分野では需要の見通しが不透明なため、資本投入が抑制される可能性があります。このような場合、主権国家が保証する購入契約や、長期的需要型の補助金が有効な手段となります。

さらに、所得評価を改善する助成金や信用リスクを軽減する部分保証により、銀行口座を持たない受益者の支援が可能です。例えばルワンダの女性起業家金融イニシアチブでは、政府保証と技術支援を活用し、女性起業家のプロジェクトリスクを低減。民間資本の動員を図っています。

3. 地域的背景

遠隔地では取引コストが増加します。政府は、コミュニティベースの供給モデルやモバイルプラットフォームを通じて、費用対効果の高い関与を促進することが可能です。

また、支援インフラに不足がある場合は、政策、インセンティブ、優遇資金を活用して、エコシステムとバリューチェーンを支援することができます。

政治リスクや通貨変動リスクに対しては、政府主導のヘッジ施設、プール型保証、またはリスク保険制度を導入して、事業環境を安定化させ、市場リスクを低減する必要が生じる場合があります。

その一例が、地域政府とアフリカ開発銀行が設立した「アフリカ50(Africa50)」プラットフォームです。公共資金を活用して大規模な越境インフラプロジェクトへの民間投資を誘致するこの取り組みは、困難な地域環境においても主権機関が民間資本の解放に貢献できることを実証しています。

ブレンデッド・ファイナンスにおける主権機関の役割の再定義

第二のステップとして、主権国家はリスク吸収主体からリスク戦略立案者へと役割を進化させ、取引の文脈的要因に応じて適切な主権ツールを選択する必要があります。

これには、政府が初期損失をカバーする対象を絞った介入、政治リスク保険、劣後債務層、補助金、運営支援など、特定のボトルネックを解決するために精密に展開される施策が必要となるでしょう。

主権国家の役割の進化形としては、多国間開発銀行(MDBs)、開発金融機関(DFIs)、民間投資家を統合した金融エコシステムを構築する、市場調整役としての役割が挙げられます。各プレイヤーは流動性リスク、市場リスク、信用リスクを低減し、リスク調整後のリターンを向上させる手段をもって介入します。

一方、各国政府は投資家にとって有利な規制を実施することで、規制環境の整備者としての役割を果たすことも可能です。これを特定のセクターや地域に結び付けることで、政策リスクを軽減するとともに、リターンを向上させる新たな介入策を開拓することができるのです。また、市場から信頼のある主権国家は民間投資家と共同出資を行い、明確なリスク限度を設定することが可能です。これは、公的バランスシートに過度な負担をかけることなく、流動性リスクや市場リスクを低減する効果があります。

各国政府は信用補完の分野で革新を進めており、セクター特化型のリスクプールの構築、収入連動型融資スキーム、多層構造の信用補完などの手法を開発。これにより信用評価が向上し、信用リスクが低減され、投資家の意欲が高まります。また、プロジェクト準備とデューデリジェンスを強化し、より優れた投資判断を可能にするデータプラットフォームを構築することで、データ提供者としての役割も果たしつつあります。

適切な段階において、適切な障壁に対処するために最適なツールを的確に活用することで、主権国家はリターンの安定化、リスクの低減、触媒的資本の誘致を実現し、ブレンデッド・ファイナンスの規模拡大を図ることができるのです。

主権国家主導で設計された革新的プラットフォームによる規模拡大

このように役割が進化した主権国家は、民間資本を誘引する革新的なプラットフォームを設計することが可能になります。これには、各国のリスクをプールすることで債務コストを削減する地域公共債務ファンドや、公的予算を企業とマッチングさせたリスク軽減プラットフォームなどが含まれます。

こうしたプラットフォームがマクロ経済リスクをヘッジするよう設計される場合もあります。例えばブラジルのFX-EDGEプラットフォームは、ヘッジ機能により為替リスクを軽減します。

また、エジプトの水・衛生に関する事例のように、優先セクターを対象とした専門開発銀行を設立し、プロジェクトを集約することも可能です。あるいは、特定のSDGsやIMFの枠組みに基づく準備状況のベンチマークに連動した、プロジェクトパイプラインプラットフォームを構築することもできるでしょう。

その他の形態としては、プロジェクトの資本カテゴリーごとに投資を行うコンソーシアムモデル、プロジェクトの段階に応じて株式と債務を組み合わせたハイブリッドファンド、プロジェクトの成熟度に応じた投資家参入を可能にする複数満期型構造などが挙げられます。

さらに、インドにおける教育成果連動型インパクトボンドのような金融モデルが、測定可能なインパクトをもたらす可能性もあります。また、創造的なアプローチとして、ベリーズでは債務と自然保護の交換取引(デット・フォー・ネイチャー・スワップ)を活用した債務再編が行われています。

開発金融の方向性を決定付ける主権国家の役割

こうした事例は、プラットフォーム構築者としての主権国家が、リスク軽減、リターンの安定化、触媒的資本の動員を通じてブレンデッド・ファイナンスの規模拡大を実現できることを示しています。

開発金融の方向性は、従来のリスク吸収者としての役割から、戦略的リスクの設計者へと進化する主権国家の動向にかかっています。これは、財政規律と持続可能性を確保すると同時に、民間資本を誘致するための市場環境を形成していく必要があるためです。

主権国家は、精密かつ戦略的なアプローチを用いて、ブレンデッド・ファイナンス構造の主導または共同構築を行わなければなりません。そうすることで、2024年の180億ドル規模から将来の持続可能な開発を支えるシステム的基盤へと、スケールアップしていくことができるのです。

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