酷暑の職場リスクに挑む、日本の取り組み

気温が上昇する中、休憩を取る群馬県明和町の農家。 Image: Reuters/Willy Kurniawan
- 2025年の7月は、過去2年連続の記録的な猛暑に続き、観測史上3番目に暑い7月となりました。
- 日本では、群馬県で過去最高となる41.8℃を記録し、全国的に高温が10月まで続くと予想されています。
- 政策立案者や企業は、労働者の健康を守りつつ事業運営を維持するため、熱中症リスクへの対策を進めています。
世界各地で酷暑が頻度と深刻度が増す中、企業には労働者の安全を守りつつ生産性を維持する責任が一層求められています。
世界気象機関(WMO)によると、2025年7月は、2023年および2024年に続き史上3番目の暑さを記録しました。南欧では、40℃を超える暑さが続き、多くの死者が発生。韓国でも少なくとも16人が熱中症などの高温に関連する原因で命を落としました。世界銀行は、極端な高温により、影響を受ける都市の年間GDPが2050年までに2.5%減少する可能性があると推計しています。日本でも群馬県で観測史上最高の41.8℃を記録し、これまで避暑地とされてきた北海道でも40℃近くまで上昇しました。さらに、例年は気温が下がり始める9月以降も残暑が続き、10月まで暑さが長引くと見込まれています。
極端な暑さは職場にも大きな影響を及ぼします。特に農業や建設業など、屋外での作業を伴う業種では、労働者の健康を守ることなくして生産性を維持することはできません。日本では2024年、職場での熱中症による死傷者が過去最多の1,257人に達し、死者数は3年連続で30人を超えました。多くの事例は、初期症状の見逃しや対応の遅れが要因とされています。
こうした状況を受け、2025年6月1日には「労働安全衛生法規則」が改正されました。同改正では、気温31℃以上または暑さ指数が28℃以上の環境で一定時間作業を行う事業者に対し、職場における熱中症の予防対策を義務化。違反した場合には罰則が科される可能性があります。この改正に伴い、厚生労働省は「職場における熱中症対策の強化について」と題した資料を公開しました。同資料では、熱中症予防につながる作業・作業環境の管理、健康管理、労働衛生教育の推進に加え、従業員に熱中症の兆候が見られた際に取るべき行動を分かりやすく提示し、事業者に実践を呼びかけています。
企業による多様な対応策
非オフィス型の労働環境を抱える業界向けの人材採用プラットフォーム「クロスワーク」によると、2025年夏の求人では300社以上が熱中症対策として、飲料の配布や空調服の貸与、酷暑手当金の支給など「暑さ手当て」を導入しています。こうした取り組みは、政府や自治体による助成金制度を通じて後押しされ、酷暑下でも労働者の健康を守りながら生産性を確保する動きが広がっています。
テクノロジーの活用と作業環境の改善
屋外や高温の工場内などで働く労働者向けに、体温や心拍をリアルタイムで監視し、リスク上昇時に警告を発するデバイスの導入が進んでいます。
リストバンド型:Biodata Bankの「カナリアPlus」やユビテックの「Work Mate」、ミツフジの「hamon band S」など、すでに複数の商品が流通しています。体温や心拍数などをモニターし、熱中症の兆候や体感温度を検知するほか、転倒検知や緊急通報機能も備得ています。
顔解析によるリスク評価:化粧品メーカーのポーラ化成工業は、表情や発汗、紅潮などの顔の変化をAIが分析し、熱中症リスクを評価するタブレット型デバイス「カオカラ」を開発しました。
大手建設会社の大林組は、完成後に使用する空調ダクトを活用し、建設中のビルに仮設クーラーを設置する「涼人(りょうじん)」プロジェクトを展開。加えて、ミストやマイナス5度のコンテナ型急速冷却室「シロクマハウス」を現場に設置し、作業員が適宜体温を下げることができる環境を整えています。
柔軟な働き方の導入
気温が35℃を超える日はリモートワークを推奨する企業も増えています。首都圏では、1日の平均通勤時間が1時間半を超えており、極端に暑い日には屋外の移動により熱中症のリスクが高まります。そのため、一部のIT企業、広告代理店、外資系企業では、前日午後6時での予測気温が35度以上の場合に、リモートワークを推奨。在宅で作業できる部門に限られるものの、あるIT企業では、2025年7月に5日間の酷暑によるリモートワークを実施した結果、業務効率にはほぼ影響が見られませんでした。企業側は、「社員の健康を守ることが、結果的に生産性向上にもつながる」と評価し、従業員からも「暑さを気にせず集中できる」との声が上がり、熱中症リスクを軽減する有効策として注目されています。
酷暑でも健康的に働ける環境づくりは恒久的な課題
気候変動の進行に伴い、夏の酷暑は一時的な異常気象ではなく、日常的なリスクとなりつつあります。世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2025」では、労働者を酷暑から守ることが重要課題として強調されており、健康的に働くことのできる環境の整備は企業にとって恒久的な責務となっています。
日本の事例は、労働者の体調をモニタリングする技術の導入から、涼しい作業環境の確保、柔軟な勤務形態の実施まで、多面的な対応の重要性を示しています。こうした取り組みは、世界各国の企業が従業員の健康を守りながら事業継続性を確保するための、有効なモデルとなり得るでしょう。