非感染性疾患の潮流を変える、5つの方法

非感染性疾患(NCDs)は世界的に大きな負担となっており、特に日本のような高齢化社会では深刻です。 Image: REUTERS/Akira Tomoshige
- 非感染性疾患(NCDs)は、患者、医療システム、社会、経済全体に多大な負担となっています。
- NCDsとメンタルヘルスに関する持続可能な開発目標(SDG)3.4の期限まで残り5年となった現在、目標達成の軌道に乗っている国はわずかであり、危機はさらに深刻化しています。
- NCDsを早期に予防・発見・対応するためには、国際的な取り組みを各国の協調的な政策行動へと転換する必要があります。
70歳未満の人々のうち、非感染性疾患(NCDs)が原因で 2秒に1人が 亡くなっています。心血管疾患、慢性呼吸器疾患、腎疾患、糖尿病、がんなどを含むNCDsは、2021年に実に4,300万人もの死亡原因となりました。
人的被害は計り知れず、経済的影響も無視できません。NCDsによる生産性損失と医療費は、2010年から2030年にかけて47兆ドルに達すると推計されています。
共通の課題であるにもかかわらず、NCDsは本質的に不平等な課題です。最も貧しく、社会経済的に不利な立場にある脆弱なコミュニティが最も高いリスクに晒されており、NCDsによる全死亡者の4分の3近くは低、中所得国で発生しているのです。
2015年、国際社会は「持続可能な開発目標(SDGs)3.4」として、NCDsによる早期死亡を2030年までに3分の1削減するという目標を採択。しかし、残り5年となった現在、この目標の達成が可能だと見込まれる国は、194の国と地域のうちわずか19カ国にとどまっています。
時間は限られており、断固たる行動が不可欠です。2025年の世界保健総会で採択された新たな決議と、同年9月に開催される第4回の非感染性疾患の予防と管理およびメンタルヘルスとウェルビーイングの推進に関するハイレベル会合(HLM4)を受け、NCDsは国際的な政策課題として最優先事項となっています。
早期対策の必要性
NCDsを早期に発見、治療することで、患者の予後改善、医療資源の節約、医療システムへの負荷軽減、環境負荷の低減が可能になります。
また、国民の健康状態が向上すれば、社会全体により大きな恩恵がもたらされ、2040年までにグローバルGDPを最大8%(12兆ドル)押し上げる可能性があります。こうした利益を実現するには、リスクの高い集団を対象とした積極的な予防、検診プログラムと、連携型ケアモデルの導入が不可欠です。
さらに良いことに、NCDsの最大80%は完全に予防可能です。効果が実証されたNCDs対策をすべての国が実施すれば、2030年までに3,900万人の死亡を回避することができるのです。
現在、一定の進展は見られるものの、さらなる取り組みが求められています。医療システムは限られた資源で運営されており、医療サービスへの需要増加が大きな負担となっているからです。
タバコやアルコールの消費量は減少傾向にあるとしても、依然として大きな負担の要因です。また、大気汚染は世界的に見て予防可能な死亡原因の第一位であり、糖尿病や肥満の割合も上昇。気候変動に伴う異常気象も、NCDsの増加と医療サービスへのアクセスを妨げる要因となっています。
結局のところ、NCDs対策への投資は社会への投資と捉えるべきなのです。低、中所得国において効果が実証されたNCDs対策に1ドル投資するごとに、経済発展と医療費削減による約7ドルのリターンが得られると推定されています。一方で現状では、非感染性疾患の予防、管理への資金は依然として不足しており、政策の実施は停滞しています。
この重要な時期に開催される同ハイレベル会合を契機に、取り組みを一層強化する必要があります。早期対応を優先する効果的な政策を通じて、国際的な公約を各国における協調的な行動へと転換しなければなりません。「保健医療システムの持続可能性と強靭性を向上するためのパートナーシップ(Partnership for Health System Sustainability and Resilience、PHSSR)」は、この実現に向けた新たな提言を発表しました。
パートナーシップによる進展の加速
解決策の提供と実施において、パートナーシップは極めて重要です。非営利のグローバルな多分野連携組織であるPHSSRは、学術研究、政策立案者との連携、国際的パートナーシップを通じて保険医療システムの強化を目指しています。
同組織は、臨床研究をはじめとしたソリューションを医療業界向けに提供する企業、IQVIAと共同で、NCDsに関する新たな研究「NCD政策ロードマップ」を開始しました。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが招集した国際専門家委員会によって検証された堅牢な学術的枠組みを用いて、同研究では8カ国にわたる重要な指標をマッピング。これにより、NCDを早期に効果的に予防、対応するための実践可能なエビデンスに基づく政策提言が提供されます。
主な提言事項は以下の5点です。
- 健康の公平性を確保する:医療サービスが行き届いていない地域や層に対して、対象を絞った教育・啓発活動・介入策を展開し、公平な医療アクセスを促進するとともに、社会経済的障壁の解消に取り組むこと。
- 連携型ケアモデルを導入する:統合された診療経路とチームベースのアプローチにより、スクリーニング、一次医療、専門医療、慢性疾患ケアの連携を強化すること。特に複数の疾患を抱える患者への対応を重視しなければなりません。一次医療と予防対策は、NCDsによる死亡率の低減に不可欠ですが、専門的な医療ケアと強固な紹介体制の整備も依然として重要です。
- 将来を見据えた医療人材を育成する:医療人材計画に、NCDsの負担予測を反映させること。これには人口動態、疫学的傾向、医療提供モデル、技術革新、新たな専門職の役割などを考慮することが含まれます。
- データ、デジタルソリューション、AIを活用する:データを活用して、疾患の発生率、リスク要因、治療法、アウトカムを医療提供の全段階にわたって追跡、分析し、これらの情報を基に意思決定や資源配分を行うこと。デジタルツールやAIの可能性を最大限に引き出すためには、コスト面だけでなく、医療連携の効率性、患者体験の質、業務効率の向上などを総合的に評価する枠組みを適用することが重要です。
- 構造改革を通じて早期介入のための投資を行う:各国が予防医療と早期発見のための医療支出を増加させ、単なる微修正ではなく、長期的な利益を優先した根本的な予算配分の見直しを行うこと。
これらの5つの取り組みは、特に高度な診断技術や医療画像診断がAIや非侵襲的介入と組み合わさって効率が向上し、手頃な価格で広く利用可能になれば、さらなる死亡率の大幅な低減をもたらす可能性を秘めています。
ただし、実施するには医療システムの強化、医療人材の再訓練、医療分野への再投資など、組織的な取り組みが不可欠です。これにより、社会全体としてより良い成果を実現することができるでしょう。
結局のところ、多様な医療システムが直面する課題には共通の構造的問題点が存在し、これらは包括的なオンライン要約で詳細に解説されています。類似点はあるものの、効果的な変革を実現するためには、各国の状況や人口構成の特性、地域のニーズに合わせて対策をカスタマイズすることが不可欠であり、そのため国レベルでの取り組みが極めて重要です。
イノベーションの拡大とセクターを超えた連携は、NCD危機に対処する上で極めて重要です。この新たな研究は、グローバルヘルスが直面する最も喫緊の課題の一つに対する実践可能な解決策を提示しており、よりレジリエンスが高く、代表性があり、持続可能な医療システムの構築に貢献するでしょう。
”日本の事例
高所得国でありながら急速な高齢化が進む日本では、NCDsが大きな重荷になっています。研究によると、日本の平均寿命と健康寿命の差は拡大傾向にあり、これはアジア太平洋地域全体に共通して見られるパターンです。同地域では高齢化と人口減が、医療従事者への負担増や複数の医療制度の財政圧迫を引き起こしています。
慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート教授兼アジア太平洋レジリエンス・イノベーションセンター上級研究員である野村周平氏が主導する日本のNCD政策ロードマップは、課題の特定と、健康の公平性、医療の統合、価値に基づく医療、参加型ガバナンス、環境持続可能性を重視した政策提言を行っています。
この内容は2025年大阪・関西万博のPHSSRサミットで初めて発表され、その後東京でデジタル大臣および環境大臣にも共有されました。PHSSRのNCD政策ロードマップは今年中に正式に発表される予定です。
2030年の目標達成にはまだ時間が残されています。
HLM4は、各国政府や医療分野のステークホルダーがNCDの予防と管理への取り組みを再確認し、地域レベルでの具体的な行動を促進する重要な機会となります。
この流れを変えることは、経済成長、持続可能な開発、そして世界中の人々の生活向上にとって極めて重要です。
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