資金調達に効くトランジション・ファイナンス戦略

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企業は、トランジション・ファイナンス戦略を事業計画の中核に組み込む必要があります。

企業は、トランジション・ファイナンス戦略を事業計画の中核に組み込む必要があります。 Image: REUTERS/Stephane Mahe

David Carlin
Founder, D.A. Carlin and Company
Sourajit Aiyer
Technical Expert, Sustainable Finance, German Agency for International Cooperation (GIZ) GmbH
  • 低炭素社会への移行計画は、経営陣の理解を得て迅速な行動を促すため、金融用語を用いて説明しなければなりません。
  • トランジション・ファイナンス戦略は、サステナビリティを独立した取り組みとして扱うのではなく、中核として企業の事業計画に統合する必要があります。
  • 信頼性の高いサステナビリティ連動型債権やグリーンラベル付き債権であれば、投資家の関心を引き付けることができます。

ネットゼロへの移行など、気候目標を達成するためには、金融面と実際のビジネス、市場の実態に沿った形で資金を調達(トランジション・ファイナンス)する必要があります。

一方で、現在の持続可能な金融に関する議論では、「金融」よりも「持続可能性」の側面に焦点が当てられる傾向があります。そのため、移行に伴う財務リスクと機会を評価する専門知識を持たない企業にとっては、対応が難しくなっています。

その結果、社内での議論では、経営陣が戦略的意思決定を行うために必要な金融用語が十分に活用されず、リーダーたちの理解が遅れる要因となっています。トランジション・ファイナンスのプロセスを簡素化することで、経営陣がその戦略的重要性をよりよく理解し、より迅速な行動が可能となります。

財務指標との連動

第一に、企業の業績分析や競争優位性評価に用いられる財務指標と連動させて、プロセスを簡素化する必要があります。企業の経済的優位性は、気候変動対策規制(炭素国境調整メカニズムなど)に起因する移行リスクによって損なわれる可能性があり、その場合、投資回収前に資本支出が無駄になる恐れがあります。

このような変化は、国境を越えた事業展開を行っている企業や、輸出、調達モデルや海外からの投資に依存している企業に、より深刻な影響を与えるでしょう。これらの企業では、収益減少により利益や運転資金が減少し、経営の存続を図るために短期流動性の需要が増大する可能性があります。

低炭素経済への移行が進むにつれてボラティリティが高まり、流動性とレバレッジの重要性が一層増大していくでしょう。移行戦略が財務指標に与える影響を数値化し、財務的な重要性を示すことで、経営層が意思決定を行う上で有用な背景情報を提供することができます。

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経営戦略への統合

次に、移行計画は単なる後付けではなく、企業戦略の中核的な要素として組み込む必要があります。これはまず、すべての範囲にわたる排出量を評価し、事業の各要素が全体的なカーボンフットプリントに与える影響を把握することから始まります。

経営的な観点では、原材料から製造プロセス、流通ネットワーク、顧客行動に至るまでのバリューチェーン全体を分解し、排出量リスクが集中している箇所を特定することが求められます。

この排出量のベースラインが確立されたら、それを業界固有の脱炭素化経路と照らし合わせ、低炭素代替品への材料転換などを通じて、期限を定めた排出量削減目標を設定する必要があります。

これらの変更をどのように、またどの程度のスピードで実施するかの判断は、利用可能な選択肢、費用対効果のバランス、そして変更実施の複雑さによって異なります。

これらの決定に際しては、規制当局の期待、長期投資家の意向、既存および将来の顧客のニーズ、利用可能な人材やスキル、柔軟なビジネスモデルを通じた投資回収機会(アウトソーシングや共有インフラの活用など)も考慮に入れる必要があります。

この基盤が整った上で、企業は中核事業計画を支える信頼性の高い移行戦略を構築し、長期的な競争優位性を確立することができます。この戦略には、資本支出の最終決定、短期的な利益への影響を正当化するための投資家向け広報資料の作成、見直しや開示のための指標設定などが含まれます。

投資家、アナリスト、メディアに対して、この計画の信頼性を効果的に伝えることが、企業の評判を高め、短期的な収益性に関する懸念を和らげることにつながるのです。

この信頼性は、多くの場合、強固な基準と整合しているかどうかにかかっています。例えば、1.5℃目標に沿った「科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)」の道筋に従って、2030年までにスコープ1および2排出量を年4.2%以上削減するというコミットメントを示すことにより、信頼性が強化されます。

同様に、購入電力からの排出量が大きな割合を占める場合、その企業が電力セクターに属していなくても、電力セクター向けの業界固有の脱炭素化経路を採用することで、計画の妥当性をより明確に示すことができます。

最後に、移行計画を「著しい害を及ぼさない(DNSH)」原則など、認められた分類法、開示基準、原則と整合させます。これにより、事業の正当性をさらに裏付け、投資家の信頼獲得や規制当局の支援を引き出すことが可能になるでしょう。

財務的メリットの明確化

第三に、いかなる事業計画にも資金が必要であり、内部資本の投入も一定の役割を果たします。一方、外部資金源を求める企業は、ラベル付き債務や業績連動型債務手段(例:使途限定債サステナビリティ連動債、ローンなど)といったトランジション・ファイナンス手段を検討することがあります。このような手段には、以下のような財務的メリットがあります。

  • グリーン投資に特化した投資家が、持続可能な債権発行に対して求めるリターンが低いこと(グリーンプレミアム)により、資金調達コストが低減。特にオンショア発行の場合に顕著です。
  • 特定の気候目標や移行目標が達成された場合、業績連動型金融商品に対して投資家に支払う金利が低減。これは、発行体が目標を達成できないリスクを軽減するために組み込まれることが多い仕組みです。
  • 保証や金利補助などの信用補完ツールを活用することで、信用リスクを軽減し、プロジェクトの融資可能性を高めることができます。

企業は、設計する金融商品の信頼性をグリーン投資に特化した投資家に納得させることで、これらのメリットを享受することが可能です。

例えば、適格性基準に基づいてラベル付き金融商品に関連するプロジェクトのみを選定すること、適格プロジェクトがまだ規模拡大していない市場では業績連動型債券を選択すること、業績連動型金融商品についてはSBTi準拠のセクター別脱炭素化経路に基づき、債券の発行初年度と最終年度の平均排出量を目標値として設定することなどが挙げられます。

企業はまた、グリーン債務発行に関する確立された原則に沿って、債券の枠組み文書を設計する必要があります。現在、持続可能な債務商品向けにこのような原則が存在しています。

この枠組みには、グリーン投資に特化した投資家が意思決定を行うために必要なすべての有用な情報を含めるべきです。これには、移行計画、資金活用計画、適格プロジェクト選定方法および業績目標、資本フローのガバナンス監視体制、適格性や環境影響に関する開示計画、保証および第三者検証の実施プロセスなどが含まれます。

「グリーニアム」(グリーン債券の潜在的価値)を最大限に引き出すため、引受銀行コンソーシアムはこの枠組みを他の投資家向け資料とともに活用し、適格投資家を対象としたブックビルディングやロードショーを通じて、価格決定を行います。

トランジション・ファイナンス手段と移行計画がより信頼性が高いものであればあるほど、グリーン投資に特化した投資家から、より高い関心と投資申し込みを得られる可能性が高まります。

要点の整理

企業は、移行計画を企業業績分析で通常用いられる財務指標と結び付け、移行計画を事業戦略に統合し、これらの金融商品が企業にもたらす財務的メリットを明確に示すことで、トランジション・ファイナンスのプロセスを経営層向けに簡素化するべきです。同時に、外部資金を調達して移行計画を実現する必要があります。

これにより、経営層は低炭素移行のビジネスケースをより適切に評価できるようになり、最終的には経営陣の理解と支持を得ることにつながります。

代替的なアプローチとして、企業はまず国際開発機関やコンサルティング会社の技術的支援を受けながら、小規模かつシンプルなトランジション・ファイナンスの発行から始め、将来的にはより大規模で意欲的な発行につなげる方法もあるでしょう。

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財務指標との連動経営戦略への統合財務的メリットの明確化要点の整理

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