公正、多様性、包摂性

女性リーダーが飛躍を導く経済~各国に学ぶジェンダー戦略~

ジェンダー・パリティは、より強いGDP、より良いガバナンス、より包摂的なイノベーションを通じて経済を活性化します。

ジェンダー・パリティは、より強いGDP、より良いガバナンス、より包摂的なイノベーションを通じて経済を活性化します。 Image: Getty Images/LaylaBird

Katica Roy
CEO and Founder, Pipeline Equity
  • 世界全体のジェンダー・パリティの実現はまだ123年先ですが、多くの国で格差は縮小しています。
  • 国民の才能を半分ではなく、すべて活用する国が、レジリエンス、生産性、イノベーションを向上させることができます。
  • クオータ制、企業方針、デジタル・インクルージョンを通じた性別平等への投資が、長期的な繁栄の創出につながります。

2025年、世界は完全なジェンダー・パリティを達成するまで、まだ123年かかります。この数字は圧倒的ですが、1年間で10年分進展したことを意味しています。世界経済フォーラムの2025年版『グローバル・ジェンダーギャップレポート』によると、世界のジェンダーギャップの約70%が現在解消されており、これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、最高水準です。この不安定ながらも着実な前進の中に、重要な示唆があります。ジェンダー平等は経済再生における道徳的な付加価値ではなく、その原動力なのです。

国民が持つ才能の半分ではなく、すべてを活用する国々が、レジリエンス生産性イノベーションにおいてリーダーシップを発揮する位置を占めることができるでしょう。16年連続で世界一のジェンダー平等国であるアイスランドから、急速に世界トップ70位に躍進したアラブ首長国連邦(UAE)まで、女性がリーダーシップを発揮すると経済が飛躍するという証拠が示されています。

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ただし、何もせずに進歩したわけではありません。いまだに完全なジェンダー公正を達成した国はないからです。そうであっても、一部の国は、3つの明確で再現可能な「パワーレバー(てこ)」を同時に引き上げることで、他の国よりも急速に前進しています。その3つとは、政治的クオータ制、企業経営陣の性別多様性、AIスキル育成プログラムです。

多くの国がこれらの戦略をそれぞれ採用し、女性が意思決定の場に実際に参加することで、社会構造全体が恩恵を受けることを確認しています。閣議からコードレビューまで、あらゆる場で女性の存在が重要であることが明らかになっているのです。これらのレバーを意図的にかつ同時に活用すると、GDPの増加労働参加率の向上、より包摂的な成長といった、測定可能な経済的利益につながります。

平等を「設計」する政治クオータ制

最大のジェンダーギャップは、潜在能力ではなく権力に存在します。政治参画は他のどの分野よりも後れており、世界全体で女性議員の割合は27.1%閣僚の割合は22.9%に留まっています。クオータ制は、平等を迅速に実現する実証済みの手段です。

ルワンダは2003年の憲法で、議会における女性の割合を30%とするクオータ制を導入。2024年現在、議席の61.3%、大臣職の55%を女性が占めており、世界最高水準となりました。女性の存在がある程度の割合を超えた場合、統治の優先事項が再構築され、国家の焦点が保健医療、教育、社会福祉などに向くことも多いのです。女性の政治参加率向上は、より安定した成長と包摂的な社会成果とも関連しています。

他の国々も注目しています。メキシコニカラグアは、立法候補者の半数を女性とすることを義務付け、2025年版『グローバル・ジェンダーギャップレポート』によると、ほぼジェンダー公正な議会を実現しています。また、2019年にUAEは、連邦国民評議会の半数を女性とする大統領令を発令。1サイクルの選挙で女性の代表率が22%から50%に急上昇し、同レポートにおける政治参画のランキングが、わずか5年で世界75位から32位に上昇しました。

同レポートは、英国でも変革が進行中であることを示しています。同国は現在、初めてジェンダーが均衡した閣僚陣を擁しており、女性の割合は2019年の24%から、直近の選挙後にほぼ50%近くに増加。これにより、同国はジェンダー・パリティに関する総合ランキングで14位から4位に急上昇し、先進国の中で最大の飛躍を遂げました。

クオータ制は永久的な解決策ではありませんが、様々な効果を引き出すツールです。歴史的な排除が継続するシステムにおいて、停滞を打破し、公平性を加速させるからです。現在、130カ国以上が公職に何らかの形でジェンダークオータ制を導入しています。クオータ制を導入した場合、女性の参画率が向上するだけでなく、育児・介護・看護休暇や保育支援といった政策成果も改善され、場合によっては政府への信頼も高まる傾向があります。

経済的必然としての企業内公平性

政治におけるクオータ制が立法権への扉を開くように、取締役会の代表性に関する義務付けは、企業の最高経営層への扉を開くことができます。女性はグローバルな労働力の40.2%を占めるにもかかわらず、管理職のわずか28.8%でしかありません。この格差は、意図的な取り組みによってのみ縮小します。

役員における女性の比率を40%にすることを義務化した最初の国、ノルウェーでは、女性の役員数がわずか3年間で17%から40%に急増しました。現在、ノルウェーとフランスは、役員の男女比がほぼ同率に達しており、いずれも企業の業績は低下していません。その上、女性幹部の多い企業は、株主資本利益率や危機対応力においてより優れた業績を上げていることが、様々な調査で一貫して示されています。

すべての進歩に法律が必要というわけではありません。英国政府が支援する、企業主導の独立した自主的な取り組みである「ハンプトン・アレクサンダー・レビュー」は、義務ではなく目標を設定し、FTSE 100企業の取締役会に、2022年までに女性比率40%を達成するための道筋を築きました。ただし、義務は依然として強力な推進力です。

2021年から、すべての上場企業に取締役会に少なくとも1人の女性を取締役として採用することを義務付けた、UAEの例を考えてみましょう。わずか2年間で、取締役会における女性の割合は3.5%から8.9%へと急増しました。この義務付けは 2025年に大手企業にも拡大される予定です。

取締役会における女性割合の増加は、象徴的な意味ではなく、体制の改善につながります。ガバナンス役職に就く女性は、採用、賃金格差、サプライチェーンの意思決定、企業イノベーションに影響を及ぼすからです。さらに、リーダー層の多様性が顧客層と重なれば、企業はより俊敏かつ成功しやすくなります

AIスキルの供給という、次なる不平等のフロンティアとの向き合い方

AI時代の到来と同時に、新たなジェンダーギャップが顕在化しつつあります。それは、取締役会や議会ではなく、アルゴリズム開発やエンジニアリングの現場で起きているのです。

2021年時点で、世界全体におけるAI・データ関連職に占める女性の割合は32%エンジニアでは20%クラウドコンピューティング関連ではわずか14%に留まっています。このまま対策がとられなければ、この格差は将来の不平等や設計上の偏りとしてテクノロジーに組み込まれ、経済や民主主義に長期的な影響を及ぼすことになります。

ここでも、UAEは魅力的な逆潮流を示しています。同国では大学卒業生の70%が女性であり、その多くがSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を専攻しています。彼女たちは卒業後、医療や環境分野など多様な業界で専門性を活かし、実践の場を広げています。

こうした状況は偶然生まれたものではありません。UAEでは、ジェンダーバランス評議会が、コーディング・ブートキャンプ、AIメンターシップ・プログラム、非営利団体との提携などを積極的に支援してきました。その成果の象徴が、2021年のエミレーツ・火星探査ミッションです。科学チームの80%が女性で構成されました。他国でも動きは見られます。例えばカナダは、国家AI戦略にジェンダー平等を組み込み、フィンランドでは法制度とジェンダー政策の両面から、「よりインクルーシブなAI」に携わる人材の育成を進めています。

デジタル格差の是正は、もはや選択肢ではありません。一部の調査によると、将来の雇用の92%はデジタルスキルを必要とします。女性が排除されれば、経済はイノベーションの半分の可能性を失うことになります。逆に、女性が包摂されれば、AIそのものがより包括的で社会的インパクトのあるものに進化します。

ジェンダーギャップ解消に123年もかけるべきではない理由

私たちは今、パンデミック後の回復、AIによる産業変革、気候変動に伴う人口移動など、労働市場と社会制度が再構築される局面にあります。こうした不確実性の時代において、ジェンダー平等は「贅沢品」ではなく、経済と社会の変革を支えるレバー(てこ)なのです。

ジェンダー・パリティが進んだアイスランドのような国々は、イノベーション競争力において一貫して優れた成績を上げています。また、UAEのような急成長国は、政治的意志と政策設計が一致すれば、急速かつ大規模な進展が可能であることを示しています。現在、クオータ制、企業の多様性指標、デジタル包摂施策に投資している国々は、長期的な繁栄の種をまいていると言えるでしょう。

これは単なるチェックリストではなく、社会全体の成果を変える取り組みです。女性が意思決定の場に立つと、単に現状をなぞるのではなく、状況を再設計します。その再設計が、GDPの強化、ガバナンスの向上、より包摂的なイノベーションといった測定可能な成果をもたらすのです。

メッセージは明確です。経済を飛躍的に発展させたいのであれば、女性をリーダーに据えるべきだということです。

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