グローバルリスク

企業における、偽情報の真のコストとは

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偽情報は企業に何十億ドルもの損失をもたらしています。

偽情報は企業に何十億ドルもの損失をもたらしています。 Image: Unsplash/Alireza Hosseini Moghadam

Jesus Serrano
Reputation and Crisis Management Lead, Global Communications Group, World Economic Forum
  • 偽情報(フェイクニュース、ハッキングされたアカウント、ディープフェイクなど)は、市場価格にして数十億ドルの損害を与えると同時に、不適切な財務判断を招いています。
  • AI、特にディープフェイクとボットは、偽情報をより説得力があり、より素早く拡散可能かつ検出困難なものにしています。
  • 信頼が重要なビジネス資産となる中、企業は早期検知、危機コミュニケーション戦略、デジタルリテラシー、官民連携への投資を強化する必要があります。

金銭的利益のために行われる公共認識の操作は、今に始まったことではありません。顕著な例として、1835年の「グレート・ムーン捏造記事」があります。米国ニューヨークの『ザ・サン』紙は、月面文明を発見したと偽って報道し、販売部数と評判を一時的に向上させましたが、後に虚偽を認めました。

より最近では、2013年にAP通信のツイッター(現X)アカウントがハッキングされ、ホワイトハウスで爆発が2回発生し、バラク・オバマ大統領が負傷したという偽情報が報道されました。ロイター通信は、この偽のツイートが3分間でS&P 500指数の価値を一時的に1,360億ドル減少させたとしています。

偽情報が特にソーシャルメディアで拡散された場合、株価暴落、売上高の減少、消費者の信頼喪失など、莫大な経済的、風評的損害を引き起こす可能性があります。

米国ボルチモア大学のロベルト・カバソス教授とサイバーセキュリティ企業CHEQが共同で実施した2019年の調査では、偽ニュースによる年間コストを推計。その額は、株式市場における損失390億ドルに、偽情報に起因した誤った金融判断による170億ドルを加えたものとなりました。同報告書は、世界全体の経済的損失は年間約780億ドルに上ると結論付けています。

さらに、デジタル時代において、偽情報の規模と拡散速度は重大な経済的脅威となっています。現在、AIを活用した虚偽情報は、かつてない速さと広さで拡散しており、世界経済フォーラムは偽情報を2025年の主要なグローバルリスクの一つにランキング

この規模は、高度なAIを用いてリアルな偽のイメージ、動画、音声を生成する「ディープフェイク」の台頭により拡大しています。

「どの企業も偽情報から免れることはできません。かつては選挙に影響を与え、公人を貶めるために利用されていた偽情報が、現在ではグローバル企業を標的とする強力な武器となっています。

多国籍企業であれ、小さな家族経営の企業であれ、偽の物語は深刻な評判と財務的な損害を引き起こしています」と、世界経済フォーラムの金融と貨幣システム部門長兼常務取締役であるマシュー・ブレイクは述べています。

企業のコスト

フェイクニュースからディープフェイクまで、偽情報は投資家を不安にさせ、顧客を遠ざけ、信頼を損ないます。

企業レビューのプラットフォームを運営するデンマークのトラストパイロットの調査によると、2020年、グローバルなEC売上高の89%がオンラインレビューに影響を受けており、消費者の49%が購入要因のトップ3として、ポジティブなレビューを挙げています。

偽のレビューは、主要なマーケットプレイス、旅行予約サイト、レビュープラットフォームにおける購入決定を操作しています。2021年のカバソス教授の調査によると、偽のレビューは世界中で企業に1,520億の損害を与えています。

2018年の裁判事例では、米国カリフォルニア州の配管会社が、競合他社の偽のレビューにより売上高が25%減少したため、2人の従業員を解雇せざるを得なかったと主張。

オーストラリアの別の事例では、形成外科医が、偽のレビューが投稿された週に売上高が23%減少したと主張しました。

「広告市場が偽情報を報奨し、人々がセンセーショナルな情報に反応し続ける限り、世界経済は深刻なリスクに直面するでしょう」と同教授は延べています。「改革への強いインセンティブがなければ、損失は継続するでしょう」。

AI利用の偽情報における評判

AIは企業の運営方法を変革していますが、同時に、評判リスクを拡大しています。2018年の米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究では、偽のニュース記事は真実の記事よりも70%高い確率で拡散されることが判明しています。

これは、偽記事の煽情性と新奇性が魅力となり、オンラインでのエンゲージメントを促進するからです。この結果は、評判リスクを前例のないレベルまで拡大し、企業の信頼性だけでなく、財務パフォーマンスや長期的な市場価値にも影響を及ぼします。

2024年の『エデルマン・クライシス&リスク・シンクタンク・レポート』によると、10人の経営者のうち8人がAI駆動型偽情報による評判の損害を懸念し、3分の1以上がこれらの脅威を予見、特定、管理するための自社の備えが十分でないことを認めています。

信頼がもはや贅沢品ではなく、戦略的必要条件となった現在、信頼を守るために不可欠なものは、警戒心、投資、そして業界横断的な連携です。

「企業の価値が顧客の信頼に大きく依存する世界において、評判を保護する必要性はかつてないほど高まっています。

「私たちは、企業危機、リスク、レピュテーション管理の新たな段階に突入しており、ビジネス世界を保護するためのツールは、この変化に対応するために進化する必要があります」と、エデルマンのクライシス&リスク部門グローバルチェア、ジュリアン・ペイン氏は述べています。

リスクの深化

企業の評価がイメージによって左右される時代において、評判は企業にとって最も価値のある資産の一つとなっています。エデルマンの調査によると、約63%の消費者が信頼するブランドを購入すると述べており、80%以上が購入の前にブランドを信頼する必要があると回答しています。

この規模は、高度なAIを用いてリアルな偽のイメージ、動画、音声を生成する「ディープフェイク」の台頭により拡大しています。

ディープフェイクは、世論を操作し、評判を損ない、大規模な偽情報を拡散し、世界中の企業から数百万ドルを盗むことさえ可能です。

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2024年の『フィナンシャル・タイムズ』紙の報告書では、財務担当者が、自社の最高財務責任者(CFO)のディープフェイク動画によるビデオ通話に騙され、2,500万ドルの送金を承認した事例が確認されました。

フォレンジック調査会社レギュラの最近の調査によると、42%の企業がディープフェイクに関連する最大のリスクとして、身分盗用を指摘。2024年だけで、全企業の半数がディープフェイク攻撃の被害に遭っており、1件あたりの平均損失は45万ドルに上ると推計されています。

偽情報による財務的損失からの保護

偽情報の危険性を過小評価する企業は、株価の急変動、売上高の減少、高額な危機管理コストなど、偽情報がもたらす評判と財務上のリスクにさらされます。信頼が競争優位性となる時代、企業は評判と経済的レジリエンスを守るために、戦略的な措置を講じる必要があるのです。

偽情報を根絶する単一の解決策はありませんが、早期発見は不可欠です。第三者機関のファクトチェッカーとの連携、迅速なコミュニケーション、AIを活用した監視ツールは、偽情報が制御不能になる前にその拡散を追跡し、対抗する上で役立ちます。

また、評判管理と危機コミュニケーション戦略も策定しておく必要があり、信頼できる広報担当者、検証済みの対応計画をリアルタイムで実行できる体制も不可欠です。

さらに、シミュレーションやコミュニケーション訓練を実施することで、不意打ちに対応することができるでしょう。ジャーナリスト、インフルエンサー、信頼の厚いパブリックフィギュア(公人)との連携も、偽情報の無効化に有効です。

世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書2025』が偽情報のリスクに重点を置いていることを踏まえ、企業はデジタルに関する十分な知識の取得にも投資すべきです。

偽情報を発見し、報告するための研修を従業員に実施することは、偽情報に関連するリスクを軽減するための良い実践例でしょう。虚偽の情報が拡散し始める前に、事実情報を共有する「プレバンキング」も、有害な情報に対抗する上で効果的です。

今日の進化するリスクに立ち向かっているのは、企業だけではありません。世界経済フォーラムの「デジタルセーフティ・グローバル・コアリション」などの取り組みは、オンライン上の有害なコンテンツに対処するための官民連携を加速しています。

規制当局の役割もますます重要になっています。欧州の「偽情報に関する行動規範」は、デジタルサービス法(DSA)の一部として、表現の自由を保護すると同時に、オンライン上の虚偽情報を軽減するための枠組みを規定しています。

信頼がもはや贅沢品ではなく、戦略的必要条件となった現在、信頼を守るために不可欠なものは、警戒心、投資、そして業界横断的な連携です。偽情報に対する対応を怠った場合、その経済的コストは計り知れない高さになるのです。

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