暗号通貨から気候変動まで、Z世代が再定義するサイバーセキュリティの未来

Z世代はサイバーセキュリティの未来を再定義します。 Image: Image: Getty Images/yongyuan
- 1990年代半ばから2010年代初頭までに生まれた「Z世代」は、インターネットのない世界を知りません。つまり、デジタルシステムを直感的に理解している世代です。
- Z世代から、持続可能性や包摂性といった価値観と一致した、サイバーセキュリティの新たなストーリーが生まれるでしょう。
- この新たなデジタル時代で企業が繁栄するためには、持続可能かつ国境を越えた連携と価値観に基づくサイバーセキュリティを、積極的に取り入れる必要があります。
インターネットのない生活を経験したことのない世代が、グローバルな労働力の主流となる世界を想像してください。これは遠い未来の話ではありません。昨年、米国の正社員の数において、初めてZ世代がベビーブーマー世代を上回りました。この変化はグローバルに拡大しており、今後10年間で12億人の若者が労働市場に参入すると予測されています。
これは単なる数字ではありません。このマイルストーンは、Z世代が経済を形作る、最も豊かで影響力のある最大の労働力層となる中で、価値観、期待、世界観が根本的に変化していくことを意味します。このことにより、サイバーセキュリティに新たな課題が浮上しています。
1996年または1997年から2012年に生まれたZ世代は、インターネットのない世界を知りません。彼らは真のデジタルネイティブの最初の世代であり、インターネットが当たり前にあることで、デジタルシステムを直感的に理解し、透明性、包摂性、責任を持って機能することを期待する世代へと成長しました。
この世代にとって、サイバーセキュリティは単なる技術的な課題、またはコンプライアンスの課題ではなく、環境のレジリエンスから経済的正義、人権に至るまで、あらゆるものに組み込まれた構造的な課題です。
より持続可能なサイバーセキュリティに関する課題
Z世代にとって、持続可能性は単なる好みではなく、原則の核心部分にある要件です。気候変動が深刻化する中で育ったZ世代は、消費行動やキャリア選択、さらには関わる企業に対しても、強い環境意識と持続可能性への期待を持っているからです。デロイトの調査によると、Z世代の70%が雇用主を選ぶ際に企業の環境実績を考慮し、ほぼ3分の2が持続可能な製品やサービスに追加料金を支払う用意があります。
この姿勢が、グローバルなビジネス戦略だけでなく、サイバーエコシステムそのものを再定義しています。低炭素経済への投資が2.1兆ドルを超え、次世代のエネルギーグリッド、持続可能な通信、電気自動車と新たな重工業のIoTを多用する新たなインフラが急速に拡大する中、サイバー攻撃の標的領域も拡大。エネルギーや水道、ガスなどのインフラへの攻撃は、過去1年間で80%も増加しました。
サイバーセキュリティによって、ますます複雑化するデジタル・インフラを保護しつつ、自体の環境フットプリントを削減する必要があります。AIの採用により、サイバー業界を含むデータセンターの電力需要は、2030年までに倍増すると予測されています。気候変動の深刻さを認識するZ世代のリーダーと消費者は、デジタルオペレーションが環境に与える影響に対する責任をますます求めるようになるでしょう。
マイクロソフトのような企業は、カーボンネガティブ(炭素排出量実質マイナス)の実現を目指す一方で、サイバーセキュリティ領域の強化も同時に進めるなど、このようなアプローチの先駆けとなっています。グーグルも、クリーンエネルギーを利用したデータセンターへの移行を言明しています。「サイバー・サステナビリティ責任者」の任命、より環境に配慮したセキュリティ・オペレーション、持続可能な調達基準、エネルギー効率の高いアーキテクチャの普及が予想されます。将来、デジタル世界のセキュリティを確保することは、その環境基盤のセキュリティ確保も意味することになるでしょう。
デジタルネイティブの脅威を取り巻く状況
最初の真のインターネット世代として、Z世代はあらゆる場所が「常に接続、常に利用可能、常にアクセス可能」であるという期待に基づいて、エコシステムを根本から変革してきました。この常時接続の傾向は、完全に分散化されたグローバルなインフラストラクチャの普及を加速させています。これは伝統的な産業を変革し、暗号資産やオンラインゲームのような、まったく新しい経済を築き上げています。
まさにZ世代の熱狂的な受け入れと、こうしたグローバルに相互接続された新たなデジタル産業の急速な採用が、悪意あるアクターにとって特に魅力的な標的となっているのです。この傾向は、Z世代主導の暗号資産経済において最も明確です。暗号資産は、フランスのGDPを超える規模に達しており、この世代が退職金口座の4倍以上を保有している資産です。
一方で、この分野はグローバルなサイバー犯罪の震源地となっています。昨年、暗号資産取引所が直接的なハッキングを受け、22億ドルを超える損失が発生しました。その取引所の多くは、法規制が未成熟な地域で運営されています。
これは、Z世代が新興市場でのデジタル採用を牽引していることから、特に顕著です。そして、このデジタル成長が拡大するにつれ、サイバー脅威への曝露も増加。規制が緩く、デジタル活動が活発な市場で新たなエコシステムが台頭しています。
この変化はすでに進行中です。国際刑事警察機構(インターポール)による2025年の『Africa Cyberthreat Assessment(アフリカサイバー脅威評価)』報告書は、アフリカ大陸全体でのランサムウェア、ビジネスメール詐欺、オンライン詐欺の急増を報告しています。一方、東南アジアの犯罪シンジケートは、カンボジアやミャンマーなどの脆弱なガバナンスを悪用し、数十億ドルの不正収益を生む産業規模のオンライン詐欺組織を運営し、強制的なサイバー犯罪労働を通じて脆弱な層を搾取していると報告されています。
価値観に基づくガバナンスの枠組み
国際レベルでは、Z世代の影響により、国家安全保障利益と並行して人権を優先する多国間サイバーガバナンスへの根本的なシフトが進んでいます。過去の世代が断片的で国家中心のサイバー政策アプローチを受け入れていたのに対し、Z世代は、国境のないデジタルコミュニティでの実体験を反映した、調和の取れたグローバル基準を提唱しています。
「アクセス・ナウ」や「グローバル・パートナーズ・デジタル」などの組織に所属する若手サイバー政策提言者は、コミュニティの意見聴取を義務付け、アルゴリズムの透明性を要求し、国境を越えたデータ保護に関する法的拘束力のある国際基準を確立するモデルを推進する取り組みで成果を上げています。その政策立案者へのメッセージは、「グローバルにつながるエコシステムにおいて、サイバーセキュリティ・ガバナンスは、向き合う脅威と同様に国境を越えた包摂的なものでなければならない」という明確なものです。
この価値観に基づくアプローチは、企業におけるサイバーセキュリティ・ガバナンスの在り方も変革しています。若年層の消費者が必要とするのは、設計段階からプライバシーを組み込み、アルゴリズムの偏りを監査し、ブランド保護よりもユーザー権利を優先する透明な対応プロトコルの採用を義務付ける、倫理的なセキュリティ・アーキテクチャへの要求を高めていくと考えられます。
さらに、セキュリティに関する意志決定の社会的影響を評価する、「デジタル・エクイティ・レポーティング」のような枠組みを組み込んだガバナンスの進化も期待されます。この変化の初期兆候は、米国の大手消費者信用情報会社であるエクイファックスのような企業が、過去のデータ漏洩事件に対し、透明性の高い年次報告書を公表して信頼回復と責任の明確化を図った対応に見られます。
最終的に、この世代はサイバーセキュリティ・ガバナンスを技術的な必要性ではなく、企業の価値観の反映と見なしています。価値観が一致しない場合は、他の選択肢を積極的に検討するでしょう。

Z世代のグローバルなサイバーセキュリティ・ビジョンの活用
問うべきは、Z世代がサイバーセキュリティを変革するかどうかではなく、組織が十分に迅速に適応し、彼らのビジョンを活用することができるかどうかです。国境を越えた持続可能な連携と価値観に基づくセキュリティを採り入れる組織が、デジタル社会におけるすべての人の未来を守ることになります。同フォーラムも、「産業におけるサイバーレジリエンス」や「AIとサイバーセキュリティ」等のイニシアチブを通じて、これらの集団的ソリューションを推進しています。
一方で、行動は個々の企業からも必要です。組織は、サイバーセキュリティの責任を持つ最高持続可能性責任者(CSO)を任命し、社会的影響を含む価値観に基づくセキュリティトレーニングに投資し、サイバーガバナンスに関する国際的なイニシアチブに積極的に参加する必要があります。そうでない場合、サイバーセキュリティを技術的な課題ではなく、デジタル世界での生活方式に関する根本的な課題と見なす世代に後れを取りかねません。
つながり合うZ世代は、サイバーセキュリティの欠如がもたらした代償を継承する世代でもあります。彼らが求める公平性、透明性、アカウンタビリティが、次代のサイバーガバナンスを定義するでしょう。未来は、デジタル世界の安全保障が持続可能かつ包摂的なものであることを理解している人々の中にあるのです。