経済成長

「世界は貧しくなっている」という誤解~中間層の静かな台頭~

混乱にもかかわらず、グローバルな消費は成長を続けています。

混乱にもかかわらず、グローバルな消費は成長を続けています。 Image: Unsplash/Jacek Dylag

Juan Caballero
Head, Insights and Analytics, World Lab Data
Ana Sampaio
Associate Data Scientist, World Data Lab
  • 混乱にもかかわらず、グローバルな消費は成長を続けており、2025年には1億人以上が「消費者層」に新たに加わると予想されています。
  • ワールドデータラボの『ワールド・コンシューマー・アウトルック』第7版では、政策の選択肢と協力によって結果の異なる3つの経済シナリオが分析されています。
  • 購買力は依然として特定の地域に集中すると同時に変化を続けており、今後の成長は、新興市場だけでなく、高齢の富裕層に一層依存するようになるでしょう。

10年前、コロンビアの玄関口であるボゴタのエルドラド空港の税関は、とてもスムーズでした。ほとんど誰もいなかったため、フライトの1時間前に到着しても何の問題もありませんでした。今では、観光客や初めて飛行機のチケットを購入する家族連れで長い列ができ、典型的な国際空港の賑わいを見せています。現在のエルドラド空港には、3時間前に到着したほうがいいでしょう。

その変化は、数字でも明らかです。2009年、コロンビアの国際線旅客数は2,450万人でしたが、2024年には過去最高の5,650万人に達しました。

増加の理由は、単純ながら緩やかでメディアが見落としやすいものにあります。英国の調査会社、ワールドデータラボによる『ワールド・コンシューマー・アウトルック』第7版の調査結果によると、コロンビアの消費者層は同期間に1,300万人増加。このことが、空港利用人数の増加につながったと考えられます。

同レポートは、2025年から2030年までの消費者支出に関する最新予測を詳細に示しています。

貧困から脱却し、消費者層に加わった人々は、支出の傾向が変わります。彼らはもはや必需品だけを求めるのではなく、飛行機を利用した旅行やテレビ、あるいは初めての自動車といった贅沢品の購入も視野に入れるようになります。コロンビアのような地域で静かにゆっくりと進行している現象は、世界中で起こっているのです。

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2025年、ワールドデータラボは「消費者層」に1.06億人が加わると予測。消費者層とは、「1日当たり13ドル(2021年購買力平価)以上を支出する人々」と定義されており、中間層と富裕層で構成されます。

ただし、インフレ、戦争、貿易の状況によってその数は変化しており、新たな消費者層は当初の予測より1,000万人減少する見込みです。

このようにグローバルな課題が影を落とす中にもかかわらず、長期的な傾向は一層の進展を示しています。中間層と富裕層の合計は44億人。これは、貧困層の36億人を上回る数であり、合わせて年間60兆ドル以上を消費している計算です。

2025年は新型コロナウイルス感染症のパンデミック以来、消費者層の拡大が最も緩やかな年ではあるものの、世界の中間層が初めて40億人を突破し、人口の過半数を占めると予測されています。また、この傾向は継続し、今後10年間でさらに10億人が中間層に加わり、世界人口87億人のうち57億人が消費者層となると見られています。

忘れてはならないことは、「トレンドは見出しに勝る」。つまり、ニュースは短期的な変化に注目しがちですが、ビジネスでは長期的な成長トレンドのほうが本質的に重要だということです。グローバル経済の成長は鈍化していますが、停滞してはいません。同レポートでは今年、世帯支出が予測より1兆ドル減少するものの、名目上は2兆ドル増加すると推計。インフレを考慮すると、これは1.4兆ドルの実質成長(1人当たりでは年間平均175ドル)に相当します。

ただ、現実としてグローバル経済の混乱は個人消費に影響を与えており、世界銀行は17年ぶりの低成長を予測しています。同レポートでは、地理的な消費パターンに基づいてさまざまなシナリオを検討。その結果、各国が自国の利益のために行動し、その結果、全体として最適とは言い難い結果になる「グローバルな囚人のジレンマ」があることが明らかになりました。

「グローバルな囚人のジレンマ」

米国、EU、中国が関税や政策の緩和で協力した場合、2027年までに3,500万人以上が中間層に加わることができるでしょう。一方、これらの国々が障壁を高め、政策を強化して協力関係を破棄した場合、グローバル経済は低迷し、特に工業国の米国や輸出依存の中国では、中間層入りが期待されていた2,500万人が貧困層のままとなります。協力はすべての者に利益をもたらしますが、離脱はすべての者に損害を与えるのです。これが、「グローバルな囚人のジレンマ」です。具体的には、以下の3つのシナリオで分析が行われました。

  • シナリオA(成長鈍化):世界的な借入コストとリスクプレミアムが上昇し、米国は減税措置を延長。その他の国々では大きな改革は行われず、米中間の激しい関税戦争により関税が大幅に上昇します。
  • シナリオB(ベースライン):米国とEUは政策金利を引き下げ、日本は財政支出を緊縮し、米国と新興市場は債務を増加させます。また、EUの債務比率は上昇し、貿易政策の不確実性は高まったままとなります。
  • シナリオC(改革):信頼感の高まりにより金融情勢が改善。米国は改革によって債務を削減し、EUは公共投資を拡大します。また、中国は市場を開放し、国有企業の再編を行って参入障壁を緩和します。

米国の消費層は、シナリオAで最も打撃を受けます。高金利と貿易戦争が購買力を圧迫し、特に中間層に影響を与えるでしょう。上振れケースであるシナリオCでも、米国中間層の利益は限定的です。財政緊縮と増税が成長を抑制し、特に富裕層以外への影響が大きいでしょう。

中国では、AとCの2つのシナリオが全く異なる結果をもたらします。下振れケースであるシナリオAでは、中国の消費者が打撃を受け、特に中間層が輸出の縮小と通貨安の影響を強く受けます。シナリオCでは、通貨高、投資の拡大、金利低下により中小企業が支援され、中国の中間層が拡大します。

欧州も同様で、シナリオAでは世界貿易、特に米国への依存度の高さから打撃を受けます。一方、好況のシナリオCでは、公共投資とインフラプロジェクトが、消費者信頼感の回復と経済回復を後押しするでしょう。

シナリオA:グローバルな成長鈍化と不確実性
シナリオA:グローバルな成長鈍化と不確実性 Image: World Data Lab/World Data Pro

競争の舞台は変化

成長の減速は、グローバルな消費機会の終焉を意味するものではありません。2025年までにグローバルな中間層は1億人以上増加すると見込まれるためです。ただし、このことは競争の舞台が変化していることを意味します。

急成長する新規市場よりも、インフレ、為替変動、貿易政策、金融安定性、および高齢富裕層の状況によって、支出額が左右されるようになるでしょう。

米国は依然としてグローバルな消費のあり方の中心に位置しますが、下振れリスクにも最もさらされています。一方、欧州は適切な政策選択を行うことで地歩を固める可能性があります。また、中国では、すべては改革と安定化の時期次第でしょう。

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