なぜ今、国連主導のシステムに改革が必要なのか

移民は、労働力不足、人口動態の変化、イノベーションのギャップといった課題の対処における鍵となり得ます。 Image: Naufan Raisudya/Unsplash
- 移民はあらゆる地域と産業に影響を及ぼし、3億人を超える移民が世界経済に大きく貢献しています。
- 現在の改革では、依然として移民を主に人道的危機として扱い、開発の機会とは捉えていません。
- 「UN80イニシアチブ」では、移民を経済成長、労働移動、イノベーションの中心に据え、戦略的なグローバル資産として再定義する必要があります。
国連憲章が調印80周年を迎える中、「UN80イニシアチブ」は、急速に変化する世界において多国間システムをより効果的かつ目的に適したものにするための、世代に一度の改革として位置づけられています。一方、機関の統合、予算削減、現場での業務の効率化といった大規模な構造改革の中、ある極めて重要な分野が危険なまでに軽視されるリスクにさらされています。それが「移民」です。
移民はすべての大陸、あらゆる社会分野に関係しており、当然ながらUN80プロセスにおける人道的な機関間クラスターの一部として位置づけられています。国内外を問わず、強制移動により毎年何百万人もの人々が住まいを失い、その多くが人道支援を必要としています。世界的に避難民の数は増え続けており、現在では1億2,000万人以上が、紛争や暴力、自然災害、個人の安全保障上の危機などにより故郷を追われています。
国連は長年にわたり人道的対応において中心的な役割を担っており、改革を経て進化してきました。現在進められている人道分野のリセットは、UN80のプロセスに先立ち、今年初めに国連緊急援助調整官が開始したものです。UN80の人道クラスターに属する機関には、国際移住機関(IOM)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)などがあります。
地政学的緊張の高まりや軍事支出の増加を背景に、人道支援のコミュニティは、資金が減少し、人道的支援へのニーズが高まる中、抜本的な改革の必要性を強調しています。なかには、こうした流れが「抑止」や封じ込めといった移民対策の基本に立ち返る流れに拍車をかけるのではないかという懸念も出ています。
移民に関する戦略は、単なる危機対応ではありません。大多数の移動は強制によるものではなく、移民本人と移住先の双方に明確な利益をもたらします。現在、世界には3億人を超える「国際移民」がおり、移住先の社会に経済的、社会的、文化的な貢献をしています。さらに、移民やディアスポラ(移民コミュニティ)は、年間8,300億ドルを超える国際送金を行っています。この金額は、低・中所得国への海外直接投資や政府開発援助を上回る規模です。

国際移民がグローバル戦略に重要であるにもかかわらず、そのガバナンスは依然として断片的であり、政治的にも周縁化されています。「難民に関するグローバル・コンパクト」がより包括的なアプローチを掲げている一方、移民と避難における管理を担う2つの主要機関であるIOMとUNHCRは、現在も主に「危機対応機関」として位置づけられています。移民を「危機」に回帰させることは、緊急事態、強制移動、庇護といった側面のみに過度に焦点を当てるリスクを伴います。またそれは、移民を長期的な経済計画、労働の流動性、スキルに基づく統合ではなく、「安全保障」の文脈の一部にしてしまいます。
移民を人道的課題に矮小化することは、極右勢力が拡散する「移民は負担であり資産ではない」という時代遅れのナラティブを助長することになります。これは、平和、繁栄、持続可能性を求めるすべての国、地域社会、個人にとって重大な問題です。
UN80イニシアチブの緊急性は疑いようがありません。地政学的な変化や米国のような主要ドナーの後退により、資金は崩壊しつつあり、システム全体で20%以上の予算削減に直面し、すでに7,000人以上の雇用が失われています。コスト削減を目的とした改革は、自己矛盾に陥る可能性があります。そうした改革は、本来守るべき、あるいは強化すべき戦略的資産を無視してしまいかねません。移民はそうした「守るべき資産」のひとつであり、極めて重要なグローバル資産です。
思い出すべきは、国連が設立された目的が「戦争を防ぐ」ことだけではなく、「共通の進歩を促進する」ことにあったという点です。19世紀の国際電信連合(1865年)や万国郵便連合(1874年)といった初期の政府間機関は、イノベーションを支える国際協力のビジョンを体現していました。その精神は、国際連盟や、国連憲章におけるすべての人々の平和と経済的・社会的進歩の促進への誓約にも受け継がれています。
しかし今日、極右のアクターたちは国際協力に対し、協調的かつ組織的な情報戦を展開しています。彼らは、移民を含むグローバル・ガバナンスを、国家のアイデンティティや安全保障への脅威として描き出そうとしています。しかし、それは真実とあまりにもはかけ離れています。多くの国家や地域社会は長年にわたり、移民を社会的・経済的な「資産」として扱ってきました。
反移民的な誤情報に対抗するため、国連とそのパートナーは、より明確かつ説得力のあるコミュニケーションを行う必要があります。現実の成果を伝え、データを用いてストーリーを語り、ソーシャルメディアやAIなど、極右がすでに使いこなしている新技術を戦略的に活用すべきです。国連創設75周年に実施した UN75イニシアチブは、193カ国で150万人を巻き込むグローバルな対話が実現しました。AIは移民分野を含む誤情報対策にも活用され始め、さらなる活用が求められています。
そもそも、国連の内部関係者でなくとも、この改革を正しく進めることに関心を持つべき理由は数多くあります。各国政府、その経済、そして社会は、協調的な国際環境と健全に機能する移民システムを必要としており、これにより、労働力不足や人口構造の転換、イノベーションのギャップといった課題に対応することが可能となります。あらゆる分野において、移民はイノベーションへの貢献において、非移民を上回るという証拠も繰り返し示されています。
地域社会にとって、移民はレジリエンスを高め、経済成長を促進し、豊かな文化交流を育む力となります。移民にとって、安全かつ正規の移動経路は、機会と搾取の分かれ道を意味します。
私たち全員にとって、移民は国際協力の試金石です。UN80が単なるコスト削減のための再編に終わらないためには、移民を単なる人道的課題としてではなく、データと証拠に基づいた戦略的なグローバル開発の推進力として扱う必要があります。
移民政策に失敗すれば、これまで数十年かけて築いてきた進展が無に帰すだけでなく、イノベーション、繁栄の共有、今日の緊急かつ相互に関連する課題に対処するための実質的な政府間協力を促進する、国連の能力そのものに対する疑念を招くことになりかねません。
国連がその存在意義を保ち続けるためには、世界で唯一、危機対応に加え、保健、テクノロジー、労働、移民を含む国境を越えた課題の両方に取り組む普遍的なシステムであり続けなければなりません。193の加盟国間に意見の相違があることは避けられません。そうした違いを、証拠、対話、建設的な議論により平和的に扱うことこそ、国連特有の役割です。
この転換の時期において、移民がもたらす価値を見失ってはなりません。この課題に適切に取り組むことができなければ、国連による改革の意義が問われるだけでなく、多国間主義そのものに対する国際社会の信頼が揺らぐことになりかねません。
本記事に記された見解は、著者自身のものであり、IOMまたは著者が関係するその他のいかなる機関の公式見解を反映するものではありません。