気候変動対策

なぜ企業にレジリエンスが不可欠なのか〜「+1.5度の世界」が問いかける未来戦略〜

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企業は、増大する気候リスクに備えるために、気候レジリエンスを構築する必要があります。 Image: Unsplash/Hoang Nguyen

Deliang Chen
Professor, Department of Earth System Science, Tsinghua University
Gill Einhorn
Head of Innovation and Transformation, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。ニュー・チャンピオン年次総会(AMNC)
  • 地球システムの崩壊は、企業の収益性、固定資産、サプライチェーン、そして社会全体にますます深刻な影響を与えています。
  • 気候リスクへの適応を怠る企業は、2035年までに毎年最大で収益の7%を失う可能性があります。
  • 中国は、気候関連災害によるリスクにさらされる一方、レジリエンス戦略への投資を主導しており、先見的な取り組みを進めています。

2025年には、気候関連災害による損害填補額が最大1,450億ドルに達する可能性があると予測されています。これは2024年から6%の増加を意味します。この上昇傾向は、気候変動が世界経済に与える財務的影響の大きさを浮き彫りにしており、迅速な対策の必要性を強調しています。

世界経済フォーラムとアクセンチュアが共同で発表したレポート「Business on the Edge: Building Industry Resilience to Climate Hazards(危機に直面するビジネス:気候災害に対する産業のレジリエンス構築)」は、取締役会、投資家、経営幹部、業務マネージャーに向けて、リスクとレジリエンス戦略に関する包括的な評価を提供しています。

このレポートでは、猛暑、山火事、干ばつ、水ストレス、熱帯低気圧、沿岸洪水、河川洪水という7つの気候ハザードにより、20のグローバル産業における企業の固定資産が受けるリスクを定量評価しています。さらに、農業、建造環境、テクノロジー、医療、金融サービスという5つの社会経済システムにおけるサプライチェーンリスクを評価。最もリスクの高い国のひとつである中国の経済は、洪水、熱帯低気圧、猛暑により、気候ハザードに対する脆弱性に直面しています。

公共投資は不可欠ですが、企業レベルのリスクに対応するには、ビジネスモデルにレジリエンスを組み込む必要があります。

企業にとって、これらの出来事は環境リスクであると同時に、成長、業務、長期的な競争力への妨げにもなり得ます。2023年には、中国で気候関連災害による経済的損失が3,080億元(約450億ドル)に達しました。

The report focuses on seven of the most severe climate hazards
本レポートは、最も深刻な気候ハザードのうち7つに焦点を当てています。 Image: World Economic Forum: Business on the Edge: Building Industry Resilience to Climate Hazards

適応、レジリエンス、脱炭素化に投資する企業は、すでに具体的なリターンを得ています。カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)のデータによると、気候変動への適応とレジリエンスに1ドル投資するごとに、最大19ドルの損失回避につながる可能性があります。

レジリエンスへの投資は、イノベーションと価値創出へとつながります。これらのテーマは、2025年6月23日から26日にかけて中国・天津で開催される世界経済フォーラムのニュー・チャンピオン年次総会でも中心的な議題となっています。

気候ハザードは企業の収益性を脅かす

排出シナリオによっては、2035年までに、気候ハザードにより上場企業全体で年間5,600億〜6,100億ドルの固定資産損失が発生する可能性があります。2055年までに、この損失額は年間1.1兆ドルに達する見込みです。これは、2035年時点で企業の平均収益が毎年6.6%〜7.3%減少することに相当します。電力、通信、旅行業界など、最も影響を受けやすい業界では、そのリスクは20%を超える可能性があり、収益性に対する最大の要因は「極端な高温」です。

Total estimated fixed asset losses for listed companies under high and low emissions scenarios, by climate hazard (USD billion per year, 2035-2055)
排出および低排出シナリオにおける、上場企業の気候ハザード別固定資産推定損失総額(2035〜2055年、単位:10億米ドル/年) Image: World Economic Forum: Business on the Edge: Building Industry Resilience to Climate Hazards

こうしたセクターに対する脅威は、物理的インフラにとどまりません。サプライチェーンの混乱、生産性の低下、消費者行動の変化、資源の不足など、バリューチェーン全体に気候リスクが影響を及ぼす未来が見えてきています。

これらのリスクに拍車をかけるのが、科学者 が警告する、極地の氷床崩壊や海流の変化といった、地球システムの不可逆的な転換点です。これらは、生態系や世界経済全体に連鎖的な混乱を引き起こす可能性があります。

このような現実を前に、ビジネスリーダーに突きつけられる重要な問いは次の通りです。「企業はこの新たな現実の中、どのように適応し、成長し、リーダーシップを発揮できるのか」。

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中国の投資は強固な基盤を提供

中国は、気候リスク管理における公共システムの強化において、目覚ましい進展を遂げています。戦略的な投資を通じ、同国は気候災害を効果的に評価し、対応するためのエビデンスに基づくツールや予測能力を開発してきました。

2019年から2023年の間に、災害予防および緊急対応のための国家予算は、年平均8.85%の割合で増加。2024年だけでも、中国政府は災害管理能力を強化するために3,340億元(約460億ドル)を割り当てています。

中国はまた、世界最大規模の気象観測システムを運用しており、9基の「風雲」衛星、500基以上の気象レーダー70,000以上の地上気象観測所を備えています。このインフラに、高度な気象予測モデルとAIによる予報技術が加わることで、最先端の早期警戒システムの開発が可能となり、極端気象への迅速かつ的確な対応を支えています。

公共投資は不可欠ですが、企業レベルのリスクに対応するには、レジリエンスをビジネスモデルに組み込む必要があります。気候災害は建物やインフラだけでなく、調達、加工、物流、消費者需要といったあらゆる要素を脅かします。持続的に価値を提供するためには、各企業が自社固有の脆弱性を特定し、積極的に適応およびレジリエンス対策を講じる必要があります。

気候レジリエンスは、決して「埋没費用」ではなく、予測困難な時代における、長期的な価値創出と成長の原動力です。

ビジネスレジリエンスを構築するための青写真

1.5℃を超える温暖化の世界において競争力とレジリエンスを維持するには、企業は将来を見据えた統合的な戦略を採用しなければなりません。以下の5つの行動は、そのための実践的なロードマップを示しています。

1. レジリエンスとネットゼロ目標の整合

気候レジリエンスと脱炭素化は一体として取り組む必要があります。気候リスクを中核的な経営判断に組み込み、経営陣全体でその責任を担う体制を構築しましょう。すべての資本計画および投資判断において、レジリエンスの視点を反映させます。気候レジリエンスと適応戦略を、組織のあらゆるレベルおよびエコシステム・パートナーにまで浸透させましょう。

2. 包括的な気候リスク評価の実施

企業は、自社の物理的な気候リスクを明確に把握する必要があります。これは、原材料から最終配送まで、バリューチェーン全体の脆弱性を可視化することを意味します。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と整合するシナリオや地域ごとの災害データを用い、重要施設をストレステストしましょう。リスク管理の責任を取締役会レベルに割り当て、全社的なガバナンス体制を確立します

3. レジリエンスのあるインフラへの投資

洪水、熱波、嵐などの将来の気候極端現象に耐えられるよう資産を強化します。例えば、農業における節水型システムの導入、産業冷却設備の改修、エネルギーインフラの強化による事業の安定化などが挙げられます。

4. テクノロジーと科学的パートナーシップの活用

リアルタイムで気候脅威を監視、理解、予測、対応できる能力に投資します。デジタルツイン、AIによる予測、衛星監視といった技術を活用し、機動力を高めます。科学機関と連携し、地域ごとの影響データを精緻化することで、戦略的な洞察とオペレーション上の意思決定を向上させましょう。

5. バリューチェーン全体での協力

企業は、サプライヤー、政府、非政府組織、地域コミュニティと連携し、早期警戒システムや共同の解決策を構築すべきです。これにより、事業の継続性が高まり、ステークホルダーとの信頼関係も強化されます。

レジリエンスは新たな競争優位性

現在レジリエンス強化をリードする企業は、将来的に規制への適応、投資家からの評価、顧客からの期待によりよく応えることができるでしょう。レジリエンスのある企業は、ショックを吸収し、持続可能に適応し、混乱の中でも経済成長を追求する力を持ちます。

気候レジリエンスは、決して「埋没費用」ではなく、予測困難な時代における、長期的な価値創出と成長の原動力です。単に最悪の事態に備えるだけでなく、未来をリードするために、今こそ行動を起こすべき時です。

企業には、適応を主導するユニークな機会と責任があります。国境を越えた投資判断の形成、市場イノベーションの推進、長期的レジリエンスを可能にする政策支援において中心的役割を果たすべきです。今、バリューチェーン全体の関係者と連携しながら果断に行動する企業こそが、自社の資産と評判を守るだけでなく、次の持続可能な成長の時代を切り拓いていくことになるでしょう。

関連トピック:
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