持続可能な海洋の健全性に向け、企業の動きが加速

環境リスクの拡大が、海洋の健全性を損なっています。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 港湾、海運、再生可能エネルギーなど、多くの産業は海洋に依存し、いわゆる「ブルーエコノミー」の形成に寄与しています。
- 一方、汚染の拡大、乱獲、気候変動により、海洋が提供するサービスやその健全性が脅かされています。
- 国連海洋会議は、ブルーエコノミーを守るために、企業の取り組みを促進する重要な機会を提供します。
海洋は、地球上の生命にとって不可欠な存在です。海は、世界の二酸化炭素の約30%を吸収し、酸素の約半分を生み出し、30億人以上の人々に食料を提供しています。また、サンゴ礁やマングローブといった独自の生態系を支え、沿岸地域を異常気象から守る役割も果たしています。
一方、汚染の拡大、乱獲、気候変動の影響により、こうした多様な機能が脅かされています。海洋は人類と地球にとって不可欠な存在であり、その健全性を保ことが、豊かな未来を切り開く鍵であることを認識する必要があります。
すでに、海洋関連セクターの中には、経済成長と環境および社会の持続可能性の両立を目指し、港湾、海運、再生可能エネルギーなど、再生的かつ持続可能なブルーエコノミーへの移行に取り組んでいます。しかし、海に依存し、恩恵を得ている多くのセクター全体で、さらなる行動の加速が求められています。
フランス・ニースで開催される第3回国連海洋会議は、企業、政府、市民社会などの主要なステークホルダーが学び、つながり、関与し、持続可能なブルーエコノミー実現に向けた行動を加速する絶好の機会となるでしょう。
企業は、データやイノベーションにおけるギャップに取り組むことで、持続可能な海洋管理に向けた科学と政策の形成において、重要な役割を果たすことができます。
”企業と持続可能なブルーエコノミー
近年、ビジネスコミュニティは多国間のプロセスにますます積極的に関与するようになっています。
1999年の国連記事「Sustainable Development of Oceans and Coasts: The Role of the Private Sector(海洋と沿岸の持続可能な開発:企業の役割)」では、海洋の長期的な健全性の確保において企業が果たす、重要でありながら見落とされがちな役割が強調されました。この記事では、さまざまな海洋のステークホルダーや産業が関与する、包括的な保全および開発アプローチの必要性が提起されています。
さらに、2010年に発表された国連事務総長の「Ocean Report(海洋レポート)」では、「海に関連する国連およびその他の国際的プロセスに建設的に参加するため、グローバルかつ分野横断的な産業アライアンスを構築する努力を強化する必要がある」と訴えました。
こうした呼びかけを受け、企業や金融関係者は国連海洋会議などの主要会議に参加し、海洋に関する国際議論に企業の視点を取り入れる動きが進んでいます。
一方、依然としてビジネスの関与は限定的です。2017年に開催された第1回国連海洋会議では、出席したグローバルな海洋ビジネス団体は世界海洋協議会(WOC)のみでした。2022年の第2回会議では、より多くの海洋ビジネス関連のイニシアチブが立ち上がり、企業と金融の役割が一層前面に出るようになりました。
第1回から第2回にかけ、海洋関連ビジネスへの投資や、海洋保全、汚染防止に取り組むイニシアチブなど、海の持続可能な利用と保全を支援するための自主的な行動を取る企業の数が大きく増加し、行動に向けた機運が高まっています。
これまでの会議の成功と勢いを踏まえ、2025年の国連海洋会議は、ビジネスや金融、政府、政府間機関、科学界、保全団体の間で連携をさらに深めるためのまたとない機会となるでしょう。
海洋の健全性のためのデータ拡充
2016年に発表されたOECDのブルーエコノミーに関する画期的なレポートは、海洋を初めて経済的視点から本格的に捉えた試みであり、2017年の国連海洋会議と相まって、ビジネス主導の取り組みが加速する契機となりました。
企業は、データとイノベーションにおける重要なギャップを埋めることで、持続可能な海洋管理のための科学と政策形成において、重要な役割を果たすことができます。
WOCのSmart Ocean – Smart Industry(スマートオーシャン・スマートインダストリー)プラットフォームでは、産業界による協調的かつ効率的、費用対効果の高いデータ収集と共有を推進し、国家および国際的な公的科学プログラムへの統合を目指しています。
世界の海には約10万隻の商船、300万~400万隻の漁船、130万キロメートルの海底ケーブル、数千に及ぶプラットフォーム(エネルギー生産、養殖など)が存在します。このプログラムでは、こうした商業インフラを活用し、海洋、気象、気候に関するデータ収集機器を搭載または展開する取り組みが進められています。
本プログラムは、産業界の参画を強化し、海洋に関する理解の深化やデータベースの拡充を図り、科学者、政府、産業界、政府間機関など、さまざまな海洋のステークホルダーの連携により、海洋のモニタリング、モデリング、予測、管理の改善を目指しています。
海洋の健全性に対する脅威が一層深刻化する中、グローバル経済と海洋の健全性が本質的に結びついていることを認識する必要があります。
”海洋産業における機会
今日、港湾、海運、再生可能エネルギー、持続可能な漁業、養殖業、観光業などの海洋ベースの産業は、経済成長と環境および社会の持続可能性の両立を実現上で大きな可能性を持っています。
「Nature and People Positive Ports(自然と人にポジティブな港湾)」のような新たなパートナーシップは、世界の主要港に対して自然に配慮した取り組みの実施を促し、人と自然の双方に利益をもたらす検証可能な戦略の共有を進めています。
同時に、新興市場における新たな港湾建設についての認識を高め、自然に配慮した基準を新規投資に取り入れることが重要です。
港湾は、国内およびグローバルなレベルで経済的および社会的発展に大きく貢献する一方、自然環境に大きな影響を与える可能性があります。
港湾サービスの需要が高まる中、同セクターによる自然への影響とその依存関係を十分に理解し、可能な限り自然に配慮した実践を推進し、その影響を軽減する必要があります。
港湾セクターのバリューチェーン全体で事業を展開する企業は、2030年までに540億ドル以上のコスト削減と収益向上が期待されています。これを実現するためには、環境への影響を最小限に抑える港湾設計、クリーンエネルギーと持続可能な資材の活用、汚染を減らすための運営最適化、協業を通じた資材リサイクルの促進、自然生息地の保全および再生などが求められます。
再生可能エネルギーもまた、重要な鍵となります。パリ協定の目標達成には、2030年までに世界の再生可能エネルギーの容量を3倍にする必要があると試算されています。洋上風力発電は、最も成長の早い再生可能エネルギー産業の一つであり、二酸化炭素排出量が最も少ないエネルギー源の一つとして、目標達成の鍵を握っています。
世界経済フォーラムは現在、洋上風力の能力拡大における役割や、自然にポジティブなインフラと戦略を取り入れたセクターの転換を支援することに注力しています。これにより、雇用創出、地域社会への利益提供、海洋生態系の保全が期待されます。
2030年に向けた再生型ブルーエコノミーの実現
海洋ベースの産業の年間経済価値は、2030年までに3兆ドルに達すると見込まれています。ブルーエコノミーには多くの成長機会があり、市民社会、政策立案者、企業の連携が、持続可能な未来に向けた道筋を築くための鍵となります。
海洋の健全性への脅威がますます深刻化する中、世界経済と健全な海洋との密接な関係を認識することが重要です。こうした関係は、海を守るだけでなく、リスクの軽減、収益性の確保、そしてよりレジリエンスのある社会の構築につながるのです。