新興テクノロジー

「新興テクノロジー・トップ10」の選定プロセスと、そこから見える世界

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さまざまな技術の融合が進み、新たなイノベーションを生み出しています。 Image: Joshua Sortino/Unsplash

Arunima Sarkar
Head of Frontier Technologies, World Economic Forum
George Thomas
Strategic Partnerships Lead, Frontiers
本稿は、以下会合の一部です。ニュー・チャンピオン年次総会(AMNC)
  • 世界経済フォーラムの2025年版「新興テクノロジー・トップ10」レポートは、異なる技術の融合によって生まれた、一連の画期的なイノベーションを明らかにしています。
  • これらの技術は、世界中の著名な科学者、研究者、未来学者と共に開発された厳密な科学的手法により選定されています。
  • 今年の選定は、産業の持続可能性向上から、コネクテッド・ワールドにおける信頼から安全性の向上まで、現代社会が直面する重要な課題に技術がどのように応えているかを示しています。

新しい技術は、どのような要因により社会に広く普及するのでしょうか。また、有望でありながら実用化に至らない技術があるのは、なぜでしょうか。

その背景には、技術そのものの機能性を超えた複数の要素が関わっています。タイミングや市場の受け入れ態勢も重要です。革新的な技術は、人々の満たされていないニーズや懸念に応えるものでなければなりません。防犯アラームやMRIスキャン技術など、多様な技術の成功例がそれを物語っています。また、電気自動車の事例が示すように、インフラや政府支援などの環境整備も極めて重要です。

一方、こうした要素は氷山の一角にすぎません。新技術の本当の可能性を見極めるためには、より深い分析が不可欠です。世界経済フォーラムが毎年発表する「新興テクノロジー・トップ10」レポートでは、科学者、研究者、未来学者らが厳密な手法により分析に取り組んでいます。

2025年版の本レポートでは、その評価手法についても詳しく解説しています。フロンティアーズ社との共同で作成されたこのレポートは、今年で13回目を迎えます。過去には、2015年にCRISPR遺伝子編集技術を紹介し、これがその後、新型コロナウイルス感染症パンデミック時の精密なワクチン開発を可能にした例や、2017年にはmRNAワクチンプラットフォームの可能性を先取りするなど、世界に大きな影響を与えた技術を数多く紹介してきました。

2025年版「新興テクノロジー・トップ10」の作成方法

本レポートでは、「先端技術」を、全く新しいイノベーション、あるいは既存技術の変革的な応用として広く定義しています。その評価には、以下の3つの主要な基準が用いられました。

  • 新規性(Novelty):技術の初期採用は始まっているが、まだ広く普及していないこと。
  • インパクト(Impact):社会的・経済的に大きな利益をもたらす可能性を示していること。
  • 成熟度(Depth):複数の主体によって技術開発が進められており、その技術に対する関心が幅広く持続的であること。

今年のレポートで選出された10の技術は、この方法論に基づく複数回の評価を経て選ばれたものです。250の候補から始まり、まず、科学系出版社フロンティアーズが提供する「AIトレンド・アナライザー」を用いて評価。オープンサイエンスの力を示すツールであるこのアナライザーは、過去10年間にわたる数百万件の公開研究論文のパターンを分析することで、どの技術が真に科学的勢いを持ち、どの技術が一過性の流行にすぎないかを識別します。

また、技術の評価には、世界経済フォーラムのResilience Consortium(レジリエンス・コンソーシアム)による「Resilience for Sustainable, Inclusive Growth(持続可能かつ包摂的な成長のためのレジリエンス)」のフレームワークも用いられました。各技術がどれほど体系的な課題に対応し、将来世代に向けた適応力構築に貢献するかが評価の焦点となりました。

さらに、世界経済フォーラムが新たに導入した「ecosystem readiness assessment(エコシステム準備度評価)」も活用され、現在の社会インフラがこれらの技術の拡大と想定される影響にどれほど対応できるかが測定されました。この段階は、「注目すべき先端技術トップ10」の運営委員会、フロンティアズの編集長ネットワーク、ドバイ未来財団の未来学者によって監督されています。評価は、いわゆるSTEEP分析(Social, Technological, Economic, Environmental, Political)と呼ばれる5つの重要な観点から行われました。

The STEEP analysis used in the report's new ecosystem readiness assessment
報告書の「new ecosystem readiness assessment(新たなエコシステム準備度評価)」で使用されたSTEEP分析 Image: 2025年の新興テクノロジー・トップ10

各次元は、「準備ができていない」から「十分に準備ができている」までの4段階で評価され、その結果はレーダーチャート形式でレポート内に示されています(以下に一部掲載)。

2025年版「新興テクノロジー・トップ10」に見られる主な傾向

今年の最終リストは、合成生物学とAI、材料科学とエネルギーシステム、バイオテクノロジーとデジタル開発など、異なる技術の融合により生まれた、画期的なイノベーションを明らかにしています。

これにより、次の4つの大きな動向が浮かび上がり、現代社会の主要な懸念に技術がどう応えているかが示されています。

  • コネクテッド・ワールドにおける信頼と安全
  • 健康のための次世代バイオテクノロジー
  • 持続可能な産業の再設計エネルギーとマテリアルの統合

これらのブレークスルー技術は、科学的進歩が現実世界に影響を及ぼす転換点に差し掛かっており、科学技術の進展だけでなく、変化の加速する世界におけるレジリエンス構築の新たな戦略も反映したものでもあります。。

2025年版「新興テクノロジー・トップ10」には何が含まれているのか

2025年版「新興テクノロジー・トップ10」のリストには以下が含まれています。

1. 生成AIウォーターマーク

生成AIウォーターマーク技術は、テキスト、画像、音声、映像などのAIが生成したコンテンツに、目に見えない、改ざん不可能なマーカーを埋め込み、コンテンツの真正性を検証し、その出所を追跡することができるようにします。

AI生成コンテンツと人間が作成したコンテンツの識別は、ますます困難になっています。この技術は、世界経済フォーラム「グローバルリスク報告書2025」で重要懸念事項として挙げられている、誤情報の対策やデジタルコンテンツへの信頼醸成に貢献し、知的財産の保護や学術不正の防止にも役立ちます。

Generative watermarking: Ecosystem readiness map
生成型ウォーターマークは、責任あるAI活用の要となりつつあります。 Image: 2025年の新興テクノロジー・トップ10

2024年にGoogle DeepMindがSynthIDをオープンソース化したことを契機に、主要なAI企業は、ウォーターマークを自社プラットフォームに統合する傾向が高まっています。Googleは現在、この技術をAIが生成した画像、テキスト、動画に組み込み、自社サービス全体に展開。ウォーターマークは責任あるAI活用の基盤となりつつあります。

一方、偽造や認証に関する課題は依然として存在し、技術そのものと同程度の、洗練されたガバナンスや利用指針の整備が求められています。EUや中国などが対応を進めており、AI領域における主要なメディア生成企業で構成される「Coalition for Content Provenance and Authenticity(コンテンツの出所証明と信頼性のためのコアリション)」は、メディアコンテンツの出所を認証するための技術標準の開発を主導しています。

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2. 人工生体治療

科学者たちは、ヒトの健康に関連する微生物、細胞、菌類などのプロバイオティクス系統を、体内に居住し、病気を治療することができる、小さな「体内薬工場」へと変える取り組みを進めています。

この技術は、合成生物学や遺伝子工学の進展により実現しつつあり、すでに複数の企業が商業化に向けた開発を行っています。米国のChariot Bioscience(チャリオット・バイオサイエンス)社は、1回の投与で治療成分を血流中に放出する微生物プラットフォームを研究しており、これにより繰り返し注射を行う必要性を大幅に減らすことが期待されています。また、日本のNECは、弱毒化したサルモネラ菌株を用いてヒトの免疫系を活性化させ、がん細胞を攻撃する手法の開発に着手しています。

Engineered living therapeutics: Ecosystem readiness map
複数の企業が、人工生体治療の商業化に向けた開発を進めています。 Image: 2025年の新興テクノロジー・トップ10

こうした技術において、主要な懸念事項がその安全性です。開発者たちは意図しない免疫反応などの潜在的な課題に積極的に対処しています。また、ヨーロッパにおける先端医療医薬品の規制の枠組みのように、各国の保健当局が有効性と安全性を評価できる制度が整備される必要があります。

この技術が成功すれば、長期的な医療ケアの費用を大幅に下げ、かつ効果的にできる可能性があります。

3. 構造電池複合材料

構造電池複合材料(SBC)は、車両や建物の荷重を支える機械構造と、再充電可能なエネルギー貯蔵機能を一体化したものです。例えば、電気自動車の場合、リチウムイオンバッテリーを車体のフレームに組み込むことで、軽量化と高効率化が実現します。

将来的には、硬い車体パネルのすべてにおいてエネルギーを蓄えることが可能になるかもしれません。エアバスはすでに、航空機へのSBC導入に向けた実験を進めており、他の分野でもドローンのフレーム構造に関するイノベーションが検討されています。

Structural battery composites: Ecosystem readiness map
構造電池複合材料(SBC)は、航空機やドローンへの応用に向けて実験が進められています。 Image: 2025年の新興テクノロジー・トップ10

SBC技術には、エネルギー密度の向上、長期的な安定性、安全性、耐久性、コスト効率といった技術的課題があり、まだ広く普及には至っていません。また、規制上の障壁も残されています。

それでも、確かな進展は見られており、SBCのもたらす影響は非常に大きなものになる可能性があります。経済面では、構造材料の使用量を減らすことで製造コストを削減し、環境面では、材料使用量が少ないエネルギー効率の高い設計により、再利用やリサイクルが迅速かつ安価になることが期待されています。

なぜ、特定の新技術が急速に普及するのか

2025年版「新興テクノロジー・トップ10」レポートに掲載された全てのリストを見ると、その答えは明らかです。上記の3つの例のように、選出されたすべての技術は、科学に根ざしており、世界300人以上の信頼ある学者や研究者によって精査されています。

では一体、なぜある新技術は飛躍し、それ以外は失速するのでしょうか。今年の選出が示すように、成功する技術は、喫緊の課題をまさに必要なタイミングで解決し、インフラが整い、規制枠組みが対応可能となり、そして社会がその技術を本当に必要としている時に登場します。

こうした「勝利の方程式」を持つ技術を見極めるには、厳密な方法論が必要です。今回のトップ10リストの策定に役立ったAIトレンド・アナライザーは、数百万件の研究論文からインサイトを抽出し、持続的な科学的関心を集めている技術のパターンを可視化します。さらに、グローバルな専門家ネットワークにより多様な視点が選定に反映され、また「エコシステムの準備状況評価」により、世界がその技術が成功するための備えができているかが明らかになります。

この透明性の高い、エビデンスベースのアプローチは、このレポートの本質、すなわち信頼を体現しています。「新興テクノロジー・トップ10」レポートが信頼されるのは、発行元ではなく、その裏付けとなる厳密な方法論によるものです。この方法論は、すでに世界を変えた技術を何度も予見してきました。

今回のレポートで紹介された革新技術の多くは、まだ広く知られていないかもしれません。しかし、それらはすでに世界中の研究機関で勢いを増しつつある、ブレークスルーの次なる波なのです。

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