仕事と働き方の未来

人材定着で中小企業を支える、日本経済のレジリエンス構築に向けた取り組み

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さらなる人材育成とデジタルツールの活用が、日本の中小企業における人手不足の課題解決につながる可能性があります。 Image: Getty Images/iStockphoto/danchooalex

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 各国で労働力不足が深刻化し、生産性の低下やインフレの要因となっています。
  • 中小企業は特に、人材の確保と定着に苦戦しています。
  • 日本の中小企業では、こうした課題に対応するため、さまざまなデジタルツールや政府の支援策が活用されています。

労働力不足は依然として世界的に喫緊の課題です。OECD(経済協力開発機構)は、「労働力不足は、過去10年間で歴史的に高い水準」に達し、「生産性の伸びを妨げ、サプライチェーンのボトルネックを悪化させ、最終的にはインフレ圧力の一因となる可能性がある」と指摘しています。

企業にとって、優秀な人材の確保と定着は、事業の安定と継続性を維持する上で不可欠です。これは、中小企業にとって特に重要です。中小企業は世界の企業の約90%を占め、雇用とGDPの約70%を担っている一方、経済ショックに脆弱である傾向があるからです。

日本には、336万社を超える中小企業が存在し、企業の99.7%、雇用全体の約70%を占めています。厚生労働省のデータによると、大企業と比較して中小企業では、就職後の早期離職率が高い傾向が見られます。

2003年から2021年までの平均では、就職後3年以内に離職した割合が、1,000人以上の企業で約25%であるのに対し、100〜499人の企業では約33%、30〜99人では約40%に達しています。また、2023年のデータでは、就職後1年以内に離職した割合は、100〜499人の企業で11.0%、30〜99人の企業で15.3%と、1,000人以上の企業(7.3%)を大きく上回っています。

離職率が高くなると、新たな採用や研修のコストが増大するだけでなく、生産性の低下や事業継続のリスクも高まります。2024年度には人手不足を主因とする倒産が350件発生しており、人材の確保と定着の強化は喫緊の課題です。

こうした課題に対し、中小企業ではデジタルツールを活用し、人事管理の効率化やスキルアップの機会を提供。また、政府や自治体は助成金などでこうした取り組みを支援しています。

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デジタルツールの活用

中小企業における離職の理由として多く挙げられるのが、給与や職場環境、キャリア形成に関する不安や不満などです。デジタルツールは、人材管理の効率化やスキル向上の機会拡大を通じて、こうした課題の解決に貢献することができます。

中小企業では、限られたリソースの中でも活用できるデジタルツールなどを使い、従業員のエンゲージメントを高め、キャリアパスの可視化や学びの支援を行う動きが進んでいます。その一例が、「カオナビ」などの人事管理システムの活用です。カオナビは、従業員の基本的なデータをまとめて管理するだけでなく、人材配置や戦略的育成に役立つ機能を備えています。これにより、人事業務を効率化するだけでなく、人材育成における課題の抽出や計画を行うことが可能となり、評価の透明性が向上、将来的なキャリアパスの明確化が進むことで、従業員の定着を促します。

また、少人数から利用できるリスキリング支援サービスも広がっています。ベネッセは、オンライン学習サービス「Udemy」の法人向け支援を、5人から提供しており、プレゼンテーションなどの実務スキルや、デジタルツールの活用法など約14,000講座を学ぶことができます。また、パーソルホールディングス子会社のパーソルイノベーションも、利用頻度の高いメニューを類型化することで、リーズナブルに利用できるリスキリング支援サービス「リスキリングキャンプ」の少人数向けプランを開始。業務改善やデジタルトランスフォーメーションのための人材育成などに活用されています。

こうした中小企業向けのデジタルツールは、利用料金が手頃に設定されていることに加え、政府や自治体の助成金を利用することも可能です。そのため、予算が限られていても利用しやすい仕組みとなっています。

政府による中小企業支援の強化

政府や自治体も、助成金などを通じた中小企業の支援を強化しています。2025年5月、政府は中小企業の賃上げと生産性向上を支援するため、今後5年間で60兆円規模の投資計画を発表しました。商工会や金融機関などによる支援体制の構築や、省力化を目的とした設備投資を支援する体制も整えられています。

投資計画の発表に際し、石破総理大臣は「『賃上げこそが成長戦略の要』だ。わが国の雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者の経営変革の後押しと賃上げ環境の整備に政策資源を総動員する」と述べています。

また、厚生労働省では、「人材開発支援助成金」を通じ、事業主が、従業員に職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための訓練にかかる経費の一部を助成。県レベルでも、機器・ITツールなどを導入することで省力化し、生産性の向上や賃上げにつなげることを目的とした支援を実施しています。たとえば、千葉県による「中小企業成長促進補助金」、「埼玉県中小企業人手不足対応支援事業補助金」などがその具体例です。

デジタルツールの活用による業務の効率化やキャリア形成の支援と、助成金によりそれを政府や自治体が支える日本の仕組みは、リソースが限られる中小企業での人材の定着に貢献します。不確実性が高まる現代において、これらの取り組みは経済のレジリエンスを強化する上で、極めて重要な鍵となるでしょう。

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