融合するテクノロジーが、バリューチェーンの定義を再構築する理由とは

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「Technology Covergence Report(テクノロジー・コンバージェンス・レポート)」は、複数の基盤的テクノロジーが並行して成熟し、組み合わさり、加速しているプロセスに焦点を当てています。

Kary Bheemaiah
Vice-President and Chief Technology Innovation Officer, Capgemini Invent
Connie Kuang
Lead, Technology Convergence Initiative, World Economic Forum
  • 世界経済フォーラムの新たな「Technology Convergence Report(テクノロジー・コンバージェンス・レポート)」は、8つの強力なテクノロジー領域とその組み合わせが新たなバリューチェーンを創出する可能性を探っています。
  • レポートに掲載された「3Cフレームワーク」は、各組織が自社の中核的能力と最も整合するテクノロジーの組み合わせを特定するための視点を提供します。
  • このテーマの詳細については、中国で開催される「ニュー・チャンピオン年次総会」(通称「サマーダボス」)をご覧ください。各分野のリーダーが、新たなイノベーション、起業精神、新興技術の責任ある活用を通じ、世界の最重要課題に取り組む方法を議論します。

私たちは今、テクノロジーの歴史における極めて重要な転換点に立っています。これは、個別のブレークスルーによるものではなく、『Technology Convergence Report(テクノロジー・コンバージェンス・レポート)』が「新たなイノベーション・パラダイム」と呼ぶ現象によって引き起こされています。

なぜ、これが重要なのでしょうか。 歴史を振り返ると、蒸気機関やインターネットのような発明は、単体の偉業として称賛されてきました。しかし実際には、こうした世界を変える技術革新は、過去のさまざまな技術が交差し、時間をかけて融合することで実現されたのです。そして現在、同様のパターンが、かつてない速度と規模で進行しています。

レポートでは、複数の基盤的テクノロジーが同時に成熟することで、それらを組み合わせられる組織にとって、「かつてないビジネス機会」が生まれつつあると指摘しています。キャップジェミニと世界経済フォーラムが共同で作成したこのレポートは、分断されたテクノロジー環境を乗り越え、チャンスをつかむために必要なシステム的イノベーションの理解を提示しています。

では、これらの基盤的テクノロジーとは何でしょうか。そして、それらの融合はビジネスや産業、市場の未来にとって何を意味するのでしょうか。

8つのコアテクノロジー

このレポートでは、単独では成しえない価値をともに創出する、8つの強力なテクノロジー領域を特定しています。

  • 人工知能(AI)
  • オムニ・コンピューティング
  • エンジニアリング・バイオロジー
  • 空間インテリジェンス
  • ロボティクス
  • 先端材料
  • 次世代エネルギー
  • 量子技術

それぞれの領域において、レポートは、既に確立された応用や近年の重要なブレークスルーを含む23の主要な組み合わせパターンを示しています(以下の図表)。

The Technology Convergence report identifies 23 key combination patterns.
「テクノロジー・コンバージェンス・レポート」では、23の主要な組み合わせパターンが特定されています。 Image: 世界経済フォーラム

重要なのは、コンバージェンス(融合)が起きているのは、これらのサブドメインにおいてだという点です。AIと量子テクノロジーを例に見てみましょう。これらは「組み合わさっている」と表現されることが多いですが、より正確には、機械学習、量子アルゴリズム、量子コンピューティングといった、これらのサブコンポーネントこそが、本当に融合しつつある要素なのです。

活用の鍵となる「3Cフレームワーク」

こうした組み合わせは、今後のイノベーションの方向性を形づくるとともに、複数の分野において戦略的機会を生み出す可能性を持っています。

同レポートが提案する「3Cフレームワーク」は、組織が自社の中核的能力に最適なテクノロジーの組み合わせを見極めるための指針を提供します。

このフレームワークは、テクノロジーによる新たな市場機会の創出と価値創造を、次の3つの連動したステージで説明しています。

  • Combination(組み合わせ):テクノロジーの成熟度に応じた統
  • Convergence(融合):これらの組み合わせを活用し、新たなバリューチェーンへの移行と参画
  • Compounding(複合的発展):バリューチェーンの融合が指数関数的な普及とコスト削減を促進し、下流のエコシステムの変化とさらなるテクノロジーの組み合わせを推進
The report’s 3C Framework provides organizations a way to identify technology pairings that best match their core capabilities.
同レポートの「3Cフレームワーク」は、組織が自社の中核的能力に最も適したテクノロジーの組み合わせを特定するための手法を提供します。 Image: 世界経済フォーラム

実際にはどのように機能するのか

では、このテクノロジーコンバージェンスの最前線にすでに立っている企業はどうでしょうか。同レポートでは、この新たなパラダイムを活用してビジネス価値を創出している世界中の組織の事例を紹介しています。

電気自動車(EV)は、「3Cフレームワーク」の3つ目のCである「複合的発展(Compounding)」のインパクトを示す好例です。当初のEV導入には、高い車両価格、航続距離の短さ、充電インフラの未整備といった課題がありました。

しかしその後数年の間に、バッテリー価格は約90%低下し、充電ネットワークが拡充され、規制も導入を後押ししました。

同レポートでは、こうした複合的発展のダイナミクスをいち早く見抜いた企業や組織が、市場の成熟とともに有利なポジションを確保し、その優位性を確立したことを指摘しています。

ロボティクス

産業用ロボティクスの成熟とともに収益性が頭打ちになる中、企業はハードウェアから統合型のインテリジェントシステムへとシフトしています。ブルー・オーシャン・ロボティクス はこの動きを体現。AI や空間コンピューティングを製品に組み込むことで、部品供給業者からフルサービスのイノベーションパートナーへと進化を遂げ、顧客の収益向上と戦略的な関係強化を実現しています。

視覚・言語・行動を統合したモデルや空間知能、システム統合におけるブレークスルーにより、人型ロボティクスの新たな可能性が広がっています。ロボットは今や以下のような能力を備えています。

  • 複雑な環境下で自律的に意思決定する
  • 人間の生活空間をより高精度に移動する
  • 高度な技術を用いて、よりリアルな外観と機能を実現する

コンシューマーエレクトロニクス、ドローン、自動運転車などの分野の企業は、既存の技術を活用し、家庭や倉庫、病院といった構造化されていない環境に適応可能な人型プラットフォームを構築しています。

事例:

Xiaomi(シャオミ)は、小型化技術、UI/UX設計、スマートデバイスに関する知見を活かし、家庭内エコシステムと連携する直感的なインターフェースを備えた人型ロボットの開発を進めています。

デジタルツイン・エコシステム

デジタルツイン・エコシステムは、IoTセンサー、物理ベースのシミュレーション、AI駆動の分析を組み合わせることで、物理システムのスマートかつリアルタイムな仮想コピーを実現します。センサーネットワークとAIシミュレーション技術の進展により、デジタルツインが飛躍的に発展し、これまで以上のインパクトをもたらしています。

その結果、運用効率が向上し、航空宇宙から医療分野に至るまで幅広い分野での応用が拡大しています。シーメンス はNVIDIA、AWS、ソニー などのパートナーと連携し、製品、製造ライン、インフラを正確にシミュレーションおよびテストできる没入型の物理的環境を開発中です。これにより、エネルギー効率の向上、製品開発の迅速化、廃棄物の削減、レジリエンスの高いシステムの構築が可能となり、相互接続されたデジタルツインによる「産業メタバース」の実現への道を切り開いている、と同レポートは述べています。

事例:Natilus (ナティラス)はシーメンスの没入型設計ツールを活用し、実物大の航空機モデルを共同作業可能なXR環境に取り込み、チームがリアルタイムで協働できるようにすることで、設計サイクルを加速しています。

量子古典ハイブリッドコンピューティング

このアプローチは、量子コンピューティングが持つ「古典的計算では到達不可能な複雑な問題解決力」と、安定性や成熟性に優れた古典コンピューティングを組み合わせることで、両者の利点を最大限に活かした実用的かつ即時の応用を可能にします。既存の古典インフラの信頼性とスケーラビリティを損なうことなく、量子の可能性を活用できるこのハイブリッドモデルは、金融や分子シミュレーションなどの分野で新たなフロンティアを切り開いています。

事例:化学・材料分野では、ボッシュとIBM が連携し、複雑な材料を高精度でモデリングできるハイブリッドの量子古典システムを開発。このブレークスルーは、再生可能エネルギー、電動モビリティ、MRI 技術といった分野への応用が期待されています。

先進材料

自己修復型からバイオファブリケーションによる材料、熱電材料、生体適合性インプラントに至るまで、設計材料の進化は、あらゆる業界における製品性能、持続可能性、効率性を変革しています。AIによって加速されるこの分野は、新たな応用を可能にし、エネルギー貯蔵から医療イノベーションに至るまで、他の技術との融合を推進しています。

マテリアルズ・インフォマティクス(材料情報学)は、予測モデリングとトランスフォーマーベースのAIを組み合わせ、研究者が実験室で合成する前に、仮想的な材料の組み合わせを探索できるようにします。これにより、研究開発サイクルが加速し、先進製造や化学分野を含むさまざまな領域でのイノベーションが促進されます。

事例:ヘキサゴンは 3D 材料モデリングを活用し、リアルタイムデータの提供を通じて運用効率を高め、コストを削減し、意思決定を改善しています。

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すでに始まっている変化

これらの事例が示すように、テクノロジーの融合は理論上の話ではなく、すでに実社会において現実のものとなっています。各技術を個別に捉えるのではなく、「どのように組み合わせるか」という視点を活用することで、リーダーたちはイノベーションを飛躍させることができるのです。

キャップジェミニのCEO、アイマン・エザット氏はこう述べています。「技術の融合が産業を再構築するか否かを問うているのではありません。その変革の旅路はすでに始まっているのです。本当の課題は、企業がどのようにしてこの融合の波に乗り、主導的立場を築くかにあります」。

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8つのコアテクノロジー活用の鍵となる「3Cフレームワーク」実際にはどのように機能するのかすでに始まっている変化

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