エネルギー転換

2100年に予測される、インフラの5つの未来像

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インフラは気候変動対策におけるリスクであると同時に、推進力でもあります。 Image: Usplash/Gwenn Klabbers

Pascale Junker
Senior Megatrends Adviser, Ministry of the Economy of Luxembourg
  • インフラは、気候変動対策におけるリスクであると同時に、その推進力にもなり得ます。
  • インフラの未来は、レジリエンス、公平性、統制のバランスによって方向づけられるでしょう。
  • 積極的な思考、長期的なビジョン、そして全体システムでの取り組みが、不可欠であり、実現可能です。

今日の経済を再活性化し、地球の限界を越えずに将来のニーズに応えるには、レジリエンスに優れ、持続可能なインフラの整備が不可欠です。既存のインフラは、主に化石燃料に依存して整備されており、極端な気候に対応できず、資材不足や高い炭素強度といった課題にも直面しています。

世界的に、建設セクターは2050年までの脱炭素化の軌道に乗ることができていません。一部の地域では、維持および再構築が不可能な化石燃料に依存したインフラの過剰供給を抱えており、他の地域ではいまだに基本的なインフラすら整っていません。いずれにしても、インフラの機能不全は甚大な影響を及ぼすでしょう。

インフラは、人類が自然や世界を支配する存在であるという、何世紀にもわたる概念を映し出しています。

意思決定者および計画立案者は、インフラを新たな状況に適応させるにあたり、いくつかの喫緊の戦略的課題に直面しています。インフラの一脆弱性は、さまざまな形で表れています。

  • 適応の遅れ。重要インフラにおいて、気候変動への適応が遅れています。投資や資産に対する物理的リスクは過小評価されがちであり、その結果、2050年までに最大50%の価値損失が生じる可能性があります。一方、安全に建築できる土地はますます希少となっており、リスクの高い地域からの段階的な撤退が進んでいます。
  • 社会的期待。社会は、より変革的、手頃な価格、包摂的、健康的、そして信頼性の高い公共インフラを求めるようになっています。一方、水道などの基本サービスの商業化、鉄道や高速道路の老朽化、エネルギー価格の上昇、暑さによる建設労働者へのリスクなどが、市民のレジリエンスを脅かしています。重要インフラは依然として保険適用可能である一方、対策に伴うコストが貧困層に不均衡にのしかかる懸念があります。
  • 財源を巡る競争。インフラ投資におけるギャップは拡大し続け、防衛や人工知能(AI)への資金配分の増加がこれに拍車をかけています。一方、保守の先送りによりコストが膨らみ、老朽化したインフラの安全性が一層損なわれています。
  • 戦略的資源の不足。戦略的資源の供給不足が脱炭素化の進展を遅らせる可能性があります。太陽光パネル、風力タービン、バッテリーは15~25年ごとに交換する必要があり、重要資源への圧力が増しています。同時に、建設の環境負荷を削減する必要性と、極端な気候やサイバー攻撃に耐えうるレジリエンスのあるインフラへの要求との間で緊張関係が高まっています。

こうした課題への対応は、多様な要因に依存します。将来に備えるためには、2100年までのグローバル・インフラの5つのシナリオを通じ、今後起こり得る展開への洞察を得るとともに、文脈に応じた優先順位を設定する手がかりとすることができます。

2100年に向けたグローバル・インフラの5つのシナリオ

1. 循環型かつ気候に強い「テクノスフィア」

テクノスフィア」とは、人類がつくり出した構造物、システム、資材の総体を指します。建物や道路、機械、廃棄物に至るまで、あらゆる人工物が含まれ、その総重量はすでに地球上の全生物の総量を上回り、現代文明が持つ膨大な物質的フットプリントを物語っています。

The technosphere encompasses the vast global output of materials generated by human activities, as well as the associated energy consumption
テクノスフィアとは、人類の活動によって生み出された膨大な物質の総体と、それに伴うエネルギー消費を含む概念です。 Image: Unsplash/Louis Reed

このような規模の構造物は、膨大な維持コストと減少する資源が合わさることにより、資源が乏しく人口が停滞する国々において、人工環境を「有限なストック」として捉え直す動きを促進。建築物やインフラは、拡張ではなく、再利用、修理、用途変更、かさ上げ、リサイクルされるようになります。土地の新規取得や未使用資源に頼る時代は終わりを迎えるのです。

この文脈において、急速な改修サイクルと動的な中古資材市場が登場します。

地域や文化に根ざした伝統的な「ヴァナキュラー建築」と、ローテクおよびハイテクを組み合わせた建設技術が、エネルギーや機械に依存せず物理特性を活かす「パッシブデザイン」と融合し、乾燥地帯などでも熱や洪水に強い建築物を実現します。

The thick earthen walls, small windows and flat roofs of an adobe house in New Mexico is an example of vernacular architecture
ニューメキシコ州のアドビ住宅に見られる、厚い土壁、小さな窓、平らな屋根は、ヴァナキュラー建築の一例です。 Image: Unsplash/Patti Black

2. 大陸規模の共有メガインフラ

エネルギーとデジタルの転換を支えるため、建設ラッシュが進行中です。急成長する地域は、コスト削減と迅速な供給を目指し、大規模なインフラプロジェクトにおいて連携しています。再生可能エネルギーは、太陽光や風力が豊富な場所で発電され、長距離の相互接続された送電網や海底ケーブルを通じて供給されます。これらのネットワークは、東西のタイムゾーンを結び、昼夜のエネルギー供給のバランスを保っています。
同時に、長距離の水道網、貨物帆船隊、大陸横断鉄道は、効率的な資源分配と低炭素輸送を支えています。

3. 仮想化と武器化されたインフラ

このシナリオでは、企業がデータ、都市、インフラを支配します。企業の支配が進むことで、規制緩和された個別化・没入型環境が広がり、採掘活動は宇宙、北極、深海へと拡大します。

空間および都市計画はAI主導型になり、設計は自動化され、ロボットによる建設が標準となるでしょう。インフラにはセンサーやデータ収集素材が組み込まれ、予知保全や常時監視が可能となります。一方、富裕層は人工のゲートアイランドに移るでしょう。

週4日勤務制が導入され、データ課税による新たな公共収入も生まれます。しかし同時に、社会は、停電やサイバー攻撃、デジタル設備の故障、悪意ある乗っ取りに対して脆弱になります。エネルギーと重要資源の需要が急増し、インフラおよびサイバー防衛市場が急速に形成されます。

インフラの移行を推進し、気候による被害を最小限に抑えるために、政府は特定の重要インフラプロジェクトを直接支援し、大規模な民間資金を呼び込む必要があります。

4. 孤立し、炭素が固定されたインフラ

脱炭素化の失敗と保守の遅延により、化石燃料に依存する資産やインフラが孤立します。価値の喪失は体系的に広がり、インフラから年金や投資ファンド、労働者、サプライヤー、社会保障受給者にまで波及するでしょう。

炭素回収、貯留、利用技術およびジオエンジニアリングが、排出削減の一時的対策として推進されます。一方、炭素価格の高騰や気候による物理的被害が増大し、経済的損失は政府や将来の世代が負担することになります。

5. 分散型マイクロインフラ

単一のエネルギー市場が機能しない場合、大陸規模の計画は頓挫します。基礎的なインフラ管理は地方自治体、中小企業、市民協同組合、都市の近隣コミュニティにより、地域単位で行われるでしょう。

地域資源と人的スキルを組み合わせ、オンもしくはオフグリッドのエネルギーセルや内陸型バイオガス拠点を形成し、対等者間の取引や循環型の自給自足を促進します。
このアプローチは、エネルギー集約型産業やデータセンターを支える規模には達しません。共通の資源共有ルールに基づき、一部の地域は協力によって繁栄する一方、他の地域は内向きになり、資源不足に直面する可能性があります。

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何かを変えなければならない

インフラは、人類が自然や世界を支配するという、何世紀にもわたる概念を反映しています。今日では、人間が作り出した環境を守るために、自然や社会と共生することが求められています。未来は、おそらく建築物の規模、環境破壊の深刻度、エネルギーや資源の循環性とアクセスのしやすさ、AIの信頼性、人口動態や都市化の変化に応じて、これらのシナリオが組み合わさる形になるでしょう。

世界は有限であるため、優先順位の設定、重要資産の保護、破壊に適応するための大規模投資、関係者間の信頼、利益の共有と社会的効用、資源の節約と共有、自然の再生、グレー(従来型)、グリーン(環境配慮型)、行動変容型の解決策の効果的な組み合わせは、すべてのシナリオにおいて後悔を残すことのない答えとなるでしょう。

新たなインフラの形態として、エネルギー、種子、必需品の貯蔵、緊急対応や早期警戒システム、自然再生(リワイルディング)、生物模倣や地質模倣、低建築・無建築による解決策などが登場する可能性があります。いずれにせよ、資源や生態系は、建築の回避、解体、再利用、簡素化、縮小、共同利用、補償、集中管理を通じて保全されなければなりません。

インフラの移行を促進し、気候変動による被害を最小限に抑えるためには、政府が特定の重要なインフラプロジェクトを直接支援し、パイプラインを築くとともに、大規模な民間資金を呼び込む必要があります。

これを実現可能にするのは、例えば、国家援助や公共調達の改革、研修プログラム、割引率の引き下げや安定した固定価格買い取り制度などのリスク軽減ツール、戦略的パートナーシップや長期的なレジリエンス計画、将来基金や戦略的インテリジェンスです。

優先すべき投資は、長期的な気候防御に対して効率的かつ効果的であり、現在と未来の両方に利益をもたらすものなのです。

関連トピック:
エネルギー転換持続可能な開発気候変動対策
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David Elliott

2025年6月20日

<報告書>「効果的なエネルギー転換の促進2025」

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